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1章 

8 僕の一番欲しいもの

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 巨人族のタイタン国に来て五日目になりました。今日は日曜日で王様の安息日になります。王様、お疲れ様でした。

 やっと荷物の片付けが終わり、僕はそろそろ側付きが必要だと考えるようになりました。ロキの宮に出入りするのはそろそろ申し訳なくて。

 昼にはロキが昼食を持ってきてくれて、

「ガリウスにもらった~。もう、もう、どうしよう。俺、愛されてる~」

と腰をくねくねと悶えながら首にきらめくスパイクチェーンを見せて来ました。

「良かったですね」

 僕は失念していました。こちらの世界での『贈物』は『特別』の証であることを。だから普段贈り物をすることはありません。婚姻した時くらいでしょうか。しかもご神託とはいえ前王からの払い下げ扱いのソニン様も、騎士仲間からの摘み上げのロキも初めて王様からもらったのです。舞い上がるのは無理ありません。

 しかしそれだけではありません。定期的に少し間隔を空けて、『贈物』をするようにアリスさんには頼みましたから、その時の顔が楽しみです。これは二番目の人生での教訓です。

「ロキ、明日、暇ですか?」

「俺は、毎日暇だぜ」

「では、明日朝食後、僕を王城から少し連れ出して下さい」

 外出許可はいるのかな?

「いーぜ、いーぜ。おい、クラリ、俺とタークは明日朝から出るから。アリスに言っといて」

「ああ」

 ロキは食べた後の食器を側付き兼側仕え騎士のクラリさんに渡すと、宮に戻っていきます。クラリさんはロキと同じ獣人でのっそり大柄な熊さんみたいな顔で、頭には小さな丸い耳が二つあります。同郷で同じく騎士団の一人を取り立てたのだと聞きました。ロキは姿形は人ですが、完全獣化が出来るのです。

 ロキは皇子とかではなく、傭兵として前線で戦っていた人だから、妃として召し上げられた時は、仲間から相当驚かれたそうです。

 そういえばソニン様は王族の出です。宮の側付きさんも耳長です。身近な人を同族に選ぶのはありなんでしょうけれど、僕も僕の身近な人たちも小人族です。巨人族で暮らすには不向きですから、やはり巨人族の人を置くほうがいいですよね。

 夜ご飯はすごーく気を使ってもらって、アリスさんが王様のお裾分けをしてもらい、持ってきてくれて食べ終わりました。僕は脚立に立って木皿を洗っています。全てがこんな調子なのです。ものの位置が高い、高すぎるのです。背の小さな僕にとっては絶対不利です。

 水浴びをして羽織着を着てから、僕は寝室で持って来た数枚の紙を見ました。薬草の配合一覧です。不感症気味になるのは塗り薬のせいです。これにイカリソウを入れてみれば良いかと思います。イカリソウは興奮作用があります。

 乳鉢に乾燥イカリソウを入れて粉にし塗り薬を入れて混ぜて馴染ませます。一晩もたてば大丈夫でしょう。

 窓から外を見ますと、羽織着を着た王様がずんずんやってくるではありませんか。日曜日は安息日のはずなのです。

 アリスさんも王様に話しかけていますが、王様は宮の扉を開けて、

「妃よ、いるか!」

と入って来られました。

「どうされました?王様」

 僕は寝台から降りて扉を開こうとしましたが、逆に寝室へ閉じ込められました。

「すみません、身体と心の準備が追いつかず……」

 今日は無理です!絶対無理!絶対駄目です!

 一メートルの僕は、三メートルの王様に見下ろされています。

「出て行くとはどういうことだ!余はそなたが言ったようにしたではないか!一妃とも二妃とも仲良うした」

 はい、見ていましたよ。王様はとても頑張っていました。他人に合わせるということはとても疲れるものです。だから今日は安息日……駄目、絶対!です。

「次は三妃ではないか!何故、出て行くのだ!」

 どんな言い方をロキはアリスさんにしたのでしょう。

「王様、目線が合いません。寝台に座って下さい」

 王様は寝台に胡座をかき、僕は正座をしました。僕を抱こうと思っているわけではなさそうですね。

「明日、ロキと一緒にお城を出て、街で側付きになってくれる人を探しに行きます」

「城で探せばよいではないか」

「僕が王宮に来て五日ですよ。死なずに生きていますが、誰一人僕のところには来ませんでした。そうなると王城を出て外で探した方がいいのです」

 もう一つの理由は王都の視察です。気になるところがあります。

「な……なるほど。ロキだけでいいのか?」

「はい、その方がいいです」

 王様はふうと息を吐き、

「アリスに聞いたが、そなたは何が欲しいのだ」

と落ち着いた声を取り戻し、僕に聞いて来ました。

 ああ、直接言うとアリスさんに言ってしまいましたし。では……。

「王様、僕はドワフの王族です。ですから魔法陣の錬成を扱えます。また僕はコボルト王の血も引いていますので、錬金も使えます。ノームの母を持ちますから薬師としての知識もあります」

 僕は窓のところに錬成した長テーブルの引き出しから、いくつかの色とりどりの宝石を取り出して王様に見せた。

「そしてガルド神の子である王の直系は全て魔法陣が使えます」

 僕は空中魔法陣を展開して「幻影」と呟き僕の身体を隠しました。王様は青い目を見開きます。幻影は全小人王族に伝わる見えなくなる魔法陣です。解除すると手の中の魔法石が消えて無くなります。

「王様……あなたは字の読み書きができませんね」

 僕は王様の膝に手を乗せて小さな声で言った。扉の向こうにはアリスさんがいるからです。

「それがどうした」

「字の読み書きが出来なければ、魔法陣は作れません」

「余は実を成すまでの仮の王だ。読み書きなど……」

「では、僕は王様がお越しになってもこれからは交合はしません。初夜三日は過ぎました。僕の我儘は通るはずです」

「何故だ!余はそなたの欲しいものを手に入れて……」

 王様の膝に置かれた指を僕は握ります。

「王様、僕はドワフの次期王となるべく全てを学びました。僕の欲しいものは、読み書きが出来る僕と対等の『王様』です」

 言葉はオブラートに包んでいますが、僕の欲しいものは、実は本当は『生徒』なのです。全ての人生において僕は『師』でした。一度目はディオニッソス王の師であり臣でありました。二度目は軍隊における隊長であり幼年兵を育てる『師』でした。三度目は中学校の現役国語科教員だったのです。

 ドワフでも兄弟姉妹だけではなく、ピィなど貴族にも読み書きを教えていました。ドワフを出て僕は教え子に飢えています。

「しかし……今更……師を……」

「三の宮にお越し頂く日に勉強をしましょう。それなら誰の目にも留まりません。その後は二日分の宿題を出しますので書いて持って来て下さい」

「しかし……」

 うむう……手強い。勉強嫌いな子でしたか。

「勉強が終わった後に、実を成す和合をしましょう。交合ではありません。お互いの気持ちを添わす和合です。読み書きが出来るようになる頃には僕の一番深いところで気持ちよさを感じられるはずです。僕は王様のガリウス様の知恵の実です」

 そう言って僕は教え子になるべく王様の膝に立ち上がり、囁きながら耳朶にキスをしました。すると王様の陰茎が驚くほど勃ち上がってしまいました。
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