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1章 

3 巨人族の花嫁

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 大きなドーム型の広間の真ん中をとことこ歩くと左右に褐色の巨人さんから囁くような声がします。醜いのはわかっていますから、勘弁して欲しいものです。

 僕にとっては長い赤絨毯を歩き切ると、王様がいます。褐色のひときわ大きな体躯のいい巨人さんが玉座と思われる椅子に座っています。あの方が王様でしょうか?金の短髪に青い瞳で僕を見下ろすと、

「まだ子供ではないか」

と低い一声です。

「恐れながら、成人は過ぎております」

 王様の周りには多分国を回す内政省の文官の皆さんが、じいっと僕を見ているのです。

「本当か?どこもかしこも華奢でまるでいにしえの人間族の子供ではないか。本当に小人族か?」

 え、人間……族?この世界に人間がいるのですね。見てみたいものです。それは後ほどということで。

「僕は小人族ドワフ国第六皇子タークと申します」

「余はガリウス。巨人族タイタン国の王だ」

 椅子の持ち手に肘をついて顎を乗せている姿は、王としての品格を欠きますよ。

 その横で長い透け感のある衣装を纏った真っ白な肌の優美な人が小さく腰を屈めます。長い金の真っ直ぐな髪に妖精族の特徴尖り耳を持ちつ長身の細身の方は、僕へ緑の慈愛の眼差しを送ってくれています。

「妖精族の第一妃のソニンティアム。長いので、ソニンと呼ぶがいい。それから……」

 王様が言いかけると後ろの幕扉から胸当てと巻きスカートの浅黒い肌の黒い目と黒髪の長身の男性が入って来て、

「よう、また会ったな。ちび助」

と声を掛けられました。誰だろうと思っていますと、

「俺は獣人族のセリアン国のロキだ。よろしくな、ちび助」

と僕のところに来て片膝を着くと、僕の目線に合わせて握手をしてくれました。

「ロキ……本当に?」

「ああ、俺は変幻出来るんだ。また、背中に乗せてやる」

「ありがとうございます。僕はタークと言います」

「なんだ、お前たちは知り合いか。それが第二妃だ。第三妃、俺は妃同士の争いを好まぬ。これで妃は揃った。神託が確かなら宿り木に実はなろう」

 王様は立ち上がり緋色のマントをばさりと翻しました。大きい……三メートルはありそうです。そのまま幕扉の奥に行ってしまいました。そのあとをソニン様が続き、ざわざわとしている広間の中で僕はどうしようと思っていると、ロキが

「奴らに笑ってやれよ」

と言って来ましたので、ご挨拶に、

「よろしくお願いします」

と、頭をぺこりと下げました。顔を上げると皆さんが辛そうに顔をしかめます。

 ああ、醜いって……もう少しましに生まれたかったです。四回目の転生ですが、傷つきますね。

 ロキがひょいと抱き上げてくれ、

「後宮に連れて行ってやるよ。ここから少しある」

 幕扉から出て行きます。ロキもソニン様も二メートルはありそうですね。ん?ロキ、ソニン……ロキソニン!ふふっ……頭痛薬ですね。

「その方がいい。せっかく可愛いんだからな」

 可愛い……?小さいイコール可愛いですね、はい。

 幕扉から出ると廊下があって、王宮の一端が分かるのです。廊下の一番奥が王様の居住スペースで、右に曲がると見事な中庭があって、手前から奥に向かい三つの戸建ての屋敷がありました。

「手前は一妃宮」

 卵形のガラスドームと白亜な建物はソニン様にぴったりで、僕は意外だと思いました。

「その次に第二妃宮。俺の家だ」

 広い庭を挟んでログハウス風の木で組み上げた宮殿?がありました。

「いつでも遊びにこいよ」

「はい」

 次に一番奥の庭を経て見えてきた煉瓦造りの緑の蔦が絡まる緑の宮殿が……。

「第三妃宮だ。神託を元に王都の職人が作り上げた。どうだ?」

 ドワフの僕にはぴったりなんだろうけど、まだまだ、三回目の転生した人生に引っ張られている僕としては、和室が欲しいのです。

「宮には側付き騎士、側仕えが配置されているが、料理人や給仕などはいない。それは王国妃費で賄うんだが、あてはあるか?」

「ないですが、料理は出来ますので大丈夫です」

 むしろありがたいのです。ドワフ国では料理をさせてもらえませんでした。一回目から三回目までの人生、僕の特技は料理でした。

「それよりも、お前、死ぬなよ」

「はい?」

 僕は第三妃宮で下され、ロキが僕の前に座り込みました。

「今日の初夜から三日間、ガリウスはお前の宮に来る。必ず手をつけなくてはならない決まりだ。王の側付きが寝室の前に立ち終わりを聞き届け、長老に伝えて神官に報告が行く。小人族のお前に巨人族のガリウスを受け入れるのはかなり厳しいと思う。……死ぬなよ」

 ああ、そうですね。僕は嫁でした。入れられる方でしたね。

「死にたくないですね」

 側付き騎士第三妃宮の扉も王様仕様で大きくて、ドア引きにも届かないから、ロキが引いて開けてくれましたが、部屋には誰もいません。醜い者に仕えたくはないと言う意思の現れかと思います。一人でなんとかしましょう。

「やっぱりか……お前が今晩死ぬと思って職を失うのが怖いから、誰も立候補しなかったんだな。側付きや側仕えは王城で働く奴がなるんだが、今日は俺の側仕えを貸してやろうか?」

 僕は首を横に振りました。

「ロキ、ありがとうございました。なんとかなります」

 四回目の転生は波乱万丈ですが、幸いにも三回目までで得た知識と少しばかりの能力があります。

 部屋に入るとまずは部屋の点検です。僕の荷物は開けっぱなしの寝室に入っていました。玄関先から入るとテーブルや椅子、暖炉があります。リビングダイニングといったところですね。寝室が一番奥にあり、寝室の隣に浴室があり、そこにトイレがありました。海外風です。浴槽は広くて王様が入る想定の陶器製です。お湯は……外に抜ける扉があり、煮炊きする小部屋が作られていてそこで湯を沸かして浴槽に運ぶということですね。確かに人数がいりますね、これは。

 灯りのランプを寝室に置くと荷解きの最中に今母が包んでくれた塗り薬を見つけました。

 絶対にお手付きにならないと踏んでいたのですが、初夜が必ずあるなら使わざる得ません。王が渡る刻限が迫っていますし、支度をしませんと。僕は服を脱いで水を入れた木タライに浸した布で身体をざっと拭き、羽織着に着替えました。

 母はノーム族の姫で薬草に精通しています。僕もよく学びましたが、母の知識にはかないません。

 今回の塗り薬はアシビとシャクヤクを煎じたものをホホバ油で固めた練り軟膏です。弛緩麻痺をさせるための塗り薬を本来なら出す器官に入れるために塗り込みました。変な感じです。人生四回目で入れられる側になったのは初めてなのです。
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