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1章 

2 巨人族の国

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 小人族の住む森から南にくだると、巨人族の巨国になります。小人族も三つの国があるように、巨人族もいくつかの国があると父王から聞いております。タイタン、ギガス、ユミル、トロルとなりますが、その中のタイタン国の王様に僕は嫁ぐわけなのです。

 それにしても、巨人族の馬車は大きすぎて、まるで遊園地の魔法の絨毯かバイキングという遊具に乗ったような気分です。

 つまり、酔いました。吐きそうです。

「あのーすみません……停めてください」

 三度目の懇願でやっと停まってくれた馬車を出て、林の端で少し吐いてしまいましたが、お陰で巨人の国を見ることが出来ました。窓はあるのですが、僕の上背では顔も出ないのです。

 巨大輓馬の前に出た僕は、その規模の大きさに口を開けてしまいました。高い城壁で張り巡らせた街。町ではなく、街です。

 巨大な木の門は検問所を兼ねているのでしょう。その間から見える街並みはアパートのような住まいがあります。商家や露店もあるようです。なだらかな坂のその向こうにもまたやや低めの城壁があり王都になるようですね。

 僕が立っている林では開墾地域なのか畑を作っているようです。もう夕方ですし、そろそろ食事の支度を始める頃ですので、出入りも少ないのでしょう。居住区と狩猟農作地を分けているのは小人族も同じです。江戸町民の住み方に似ていると思います。あ、あくまで豆知識です。

「……三妃様」

 あ、僕のことでしたか、すみません。何度も呼ばれていました。振り返った僕にまた視線を歪めた使者さん、もう、すみません、醜い姿を晒していまして。

「夜まで王宮に着かねばなりません。馬車にお戻りください」

 しかし……苦行の乗り物です、この馬車は。

 戸惑っていますと、

「小人族か?小人族だよな、ちっせーなー。俺が乗せてやろうか」

と男性の声が背後から聞こえてきました。振り向くと灰色狼並の巨大な黒い狼さんがいます。狼好きにはたまらないサイズ感です。もふりたいです。でも、飼い主の男性はどこにいるのですか?誰が僕に……

「ちび助、俺も王宮に呼ばれているんだ。乗せてやるよ」

 ……目の前の狼さんの声でしたか。とても澄んだいい声です。

「本当ですか?こちらの馬車は少し……」

 黒狼さんは伏せをして僕が背中に乗るのを待ってくれます。見ず知らずですが、赤頭巾でも女の子でもない僕には無害なはずです。

「お願いします」

 大きな背中は案外スマートで、ロバよりも跨りやすいのです。首の毛は長く、そこを掴むように言われました。もふもふで気持ちいいです。

「に……っ」

「ちっちっちっー!使者殿は荷物運びを頼む。このちび助は俺が責任持って運ぶ」

 黒狼さんはふわりと立ち上がると、たんたんと足を踏み鳴らし走り出したのです。

「わあ……」

 風を切り走る狼さんの動きに慣れると、門で取り調べられるわけでもなく簡単に入って行った後を振り返りました。

 門の近くと門の奥では少し趣きがちがいました。何でしょう地面に座っている子供は土を食べているように見えます。物乞いなのか木皿を出してぼんやりしている老人もいます。門の裏の一角は、低所得者層……いいえ、スラム化しています。あまり良くない傾向です。

 街の中ほどではアパートが多くそれなりに煮炊きの煙が上がっています。素朴な街並みに安堵します。

「黒狼さん」

「ロキだ」

「ロキさん」

「『さん』付けするな、こそばゆい。そんな身分じゃねえし、呼び捨てしろ」

 大通りを走る黒狼とその背中に乗る僕はちらちらと通る巨人の親子に見られています。あの女の子、小さいのに僕より大きいのです。

「王様はどんな方でしょう」

「あいつは馬鹿だ」

「馬鹿ですか……困りましたね」

 馬鹿ですか……周りの方々がしっかりしていれば問題ありませんが、暴君であると辛いのです。一回目の人生で嫌というほど思い知りました。

「あいつは元々王の器じゃない。兄貴が王だったんだ。王が戦いの傷で死んで、直系の二番めだから奴が継いだ。ただそれだけの木偶だぜ」

 よくご存知ですね。ロキは関係者ですか。

 次の門は滑らかな石造りの塀に扉がはめ込まれていて、そこを通り過ぎるとまた綺麗なお屋敷が並んでいます。ヨーロッパの中世の街並みに似ていますね。

 王城を真ん中にし、王城に近い屋敷は領地を持たない禄高制の中級貴族の屋敷です。門に近い方は王城で働く下級貴族の屋敷でしょう。上級貴族は領地を持っているので、領地に屋敷を持つことになります。

 こちらの扉も楽々突破して、ロキは王城の城門にやってきました。

「ちび助、名前は?」

「タークです」

「んじゃ、またな」

 ロキはそのまま王城の庭の生垣に入って行ってしまいました。門番の衛兵さんは取り残された僕を見て、顔を見合わせて背けます。それを見上げていたら、

「こちらは小人族の花嫁、第三妃にあらせられます」

 少し遅れて馬車か入って来てくれて助かりました。

「このお方が……」

「はい。ドワフ族第六皇子タークです。よろしくお願いします」

 ついやってしまうお辞儀にびっくりされましたが、僕は王城の中へ案内され……皆さんの歩幅に合いません。使者さんが待ってくれて僕の荷物も持ってくれています。

「皆さん背が高くて……」

 褐色の肌の使者さんは困った顔をして、ひょいと僕を片腕に抱き上げてくれました。

「皆様お待ちですので、どうかご容赦を」

 つまり歩くのが遅いわけです。僕を片腕に抱き上げた使者さんがぽつりと言いました。

「まさか、受けてくださるとは思えませんで、私は斬首を覚悟しておりました」

「そうなんですか。斬首はあんまりですね」

 暴君ですか、困りましたね。

「第三妃様は恐ろしくないのですか?巨人族に嫁ぐのですよ」

「小人族一醜い僕に、王様は興味もないでしょうから、大丈夫です」

 使者さんが驚いて、

「小人族ではそうなのですね、だから……。もうじき広間に到着いたします。公爵、子爵様方がいらっしゃいます。赤い絨毯をまっすぐお進みください」

 何メートルあるのでしょうか、この黒檀の扉は。衛兵さんが二人がかりで左右開いた扉から僕は一人中へ入りました。
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