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オメガバチェラー
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オメガバチェラーパーティーが開催された。
これは御曹司のアルファだけが参加できる、
半年に一度の割合で行われる婚活パーティー。
極上のオメガを娶り、質の良い子供を産ませたいアルファがこぞって参加する。
今回は特に注目されていた。兄弟のオメガバチェラー。
タイプは違えどそれぞれに容姿端麗。
彼らの見た目だけでも心を奪われるアルファが多い上『必ずアルファを産む』という保証付きの家系だ。
会場はアルファが殺到し、兄弟オメガの登場を今か今かと待っている。
そんな控室では、一番上等のアルファを手に入れてやると意気込む兄と、参加をキャンセルしたい弟。
正反対の思いを抱え過ごしていた。
「どうせ俺たちオメガは、子供を産むのが仕事。それなら少しでも良い家に嫁いで、一生楽して生きていくのがいいに決まってる」
「でも僕は好きな人と結婚したい」
「そんなヌルい世の中じゃないだろ。一般人じゃあるまいし。俺たちの家系は代々アルファを産むためだけに集められた擬似家族。裕福に育ててもらえたんだ。文句言わずに決められたレールを進むしかない」
兄の言うことは正しい。
この家は昔から施設から引き取られた養子ばかりが育てられている。
見た目の良さは大前提。
その他、能力、健康状態と様々な検査をし、合格した者のみが引き取られる。
特に重要視されるのは『必ずアルファを産む体質』であるかどうか。
これに関しては、独自の検査方法があるようだった。
なので兄弟とはいえ、兄とは血の繋がりは無い。
施設では、兄が後から入ってきた。
三歳の歳の差は、子供にとっては凄く大きく感じた。
兄は常に本を読んでいて、礼儀正しく、勉強ができて、他の子供とは全く違うオーラをまとっていた。
弟は施設で他の子供達に馴染めていなかった。
いつも孤独だった弟にとって、兄は眩しい存在だった。
初めて尊敬した人だったし、仲良くなりたいと思った。
二人はすぐに意気投合し、朝から晩寝る時まで一緒に過ごしていた。
一つのベッドで寝落ちするまで語り合う。
バース性が同じオメガだと分かってからは、より関係性が深くなっていく。
オメガを発症してからは、お互いのヒートを鎮めるために、何度か体を重ねたこともある。
兄に触れられるほど、彼に向けた気持ちは意味を変えていく。
それが恋愛のものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
密かに抱いた感情は、日を追うごとに膨らんでいく。
決して悟られてはいけない気持ち。
きっと自分は弟のような存在だから、こんなにも優しくしてもらえている。
だから、この関係を何としても守らなければいけない。
弟は、兄に対する気持ちよりもこの関係の安定を選んだ。
その時に兄への気持ちは諦めた。
同じ家の養子として受け入れられることが決まった時は本当に嬉しかった。
施設を出られるのは勿論のこと、何よりも今後、兄と堂々と一緒にいられることが一番嬉しかった。
それから今日という日までは幸せそのものだ。
施設とは違い各々広い個室が与えられ、学校も送迎付き、抑制剤も質の良いものを与え良いものを与えてくれた。
その時間があまりにも幸せすぎて、今日という日は、弟にとって地獄でしかなかった。
二人のサポートやくを務めているベストマンが控室を訪れる。
いよいよ、アルファたちにお披露目の時が来た。
「ほら、行くぞ。お互い、いい人に巡り会えるといいな」
兄の表情が少し曇ったように見えたのは、気のせいだろうか。
ベストマンと共に美しい姿勢で歩く兄の後ろ姿をじっと見つめる。
今日パートナーが見つかれば、そのままこのホテルの一室で番になる。
何号室かは、自分たちには教えられていない。お互いを匿うのを防ぐ為だろう。
このパーティーに、逃げ場などないのだ。
パーティー会場では、司会者が仰々しく二人を紹介する。
どよめき立っている空気に圧倒されながらも、兄はステージに向かった。
その時、弟の手を取り甲に口付けた。
「兄さんっ」
引き留めたかったが、口を開いた瞬間、兄は「行ってくる」とだけ言った。
その目は怯えていた。
兄の姿を見たアルファは一斉に歓声を上げる。
誰もが兄をいやらしい目で見ている。
許せない。気持ち悪い。
でも次はこの視線が自分にも降り注がれる。
名前を呼ばれると、吐き気を我慢しながらステージに出た。
兄の時と同じようにアルファの興奮した声が会場内に響き渡る。
兄はアルファ性に反応し、早くもヒートを起こしかけているようで、呼吸が少し乱れていた。
そのフェロモンに当てられたのか、アルファたちは一層欲情を露わにした。
早くオークションを始めろとヤジが飛ぶ。
そう、これは婚活パーティーという名のオメガオークションなのだ。
自分たちを養子に迎え入れた義父は、こうして極上のオメガを売る事を生業としている。
それは子供の自分たちに相当なお金をかけて育てたとしても、その経費など比にならない程儲かるはずだ。
裕福層だけをターゲットにしている。
オメガを少しでも高く売るため、自分たち養子はそれに似合った人間になるよう手間暇をかけて育てられる。
身寄りのない施設育ちの子供にたっぷりを贅沢をさせることで、義父に逆らえない関係性を植え付ける。
そして自分たちは、極上のアルファを産むためだけに日々鍛錬しろと洗脳される。
弟だけがその教育が染み込まなかったのは、どこかで兄を諦めきれていなかったからだ。
兄と
番になれなくとも、ただ一緒に生きていきたい。
その想いで義父の洗脳を避けていた。
どうにかして、このパーティーから逃げ出したい。
そんな想いとは裏腹に、オークションは始まってしまった。
「まずはお兄さんから!さぁ、より高額を提示した方だけが、この美しいオメガの番になれますよ!はい三番……十八番……」
価格はみるみる跳ね上がっていく。
この金額が自分たちの価値なのだ。
オークショニアが上手くアルファたちを煽り、値段は上限を知らないかの如く、平常心を保っていられないほどの額が飛び交う。
「さぁ、他には?もう、決まってしまいますよ?……では五番の方がお兄さんを落札です」
五番のアルファだけがガッツポーズをし、他全員のため息や愚痴が混ざり合った。
兄が五番のアルファの元へと誘導される。
僅かに兄の手が震えていた。
こんなにも大勢のアルファに晒され、今日会ったばかりの人の番になる。
兄を落札できなかったアルファの熱い視線が、一気に弟に向けられた。
残るバチェラーは弟のみ。
必ず自分が落札してやると言わんばかりに、目が血走っている。
オークショニアが再びマイクを構えた。
「それでは弟さんのオークションに移ります。これがラストチャンス!ここまでの極上のオメガとは、早々出会えません。はい、百十五番、二十番、五十六番……まだまだ!八十六番……」
兄を落札できなかったアルファたちは、さっきよりも勢いを増して値段を積み上げていく。
兄の額をあっさりと超えた。それでもまだ誰も諦めようとしない。
電話をかける者、会場内を走り回る者、目まぐるしく熱気と叫び声が乱反射する。
少しずつ諦める人が出てきた頃、弟の落札者が決まった。
「三十八番、落札です!」
この一言で、弟の番の相手が決まった。
すぐに個室へと移動するよう促される。
アルファは気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
落札できた喜びに、興奮冷めやらない様子で、洗い鼻息をオメガにかけた。
嫌とは言えない。
無言で着いていくと、部屋に入る前から体を求めてきた。
「あの、まだ部屋じゃな……」
「口答えするな!俺が買ったオメガだ、言う通りにしろ」
そのセリフで、自分の行く末を見た気がした。
アルファは乱暴に部屋に放り込み、ヒートを起こせと欲求してくる。
しかし弟は一向に発情しない。
アルファは益々機嫌が悪くなり、カバンから注射器を取り出した。
「こうするしか方法がないだろう」
「い、嫌だ……やめて……」
抵抗も虚しく太腿に針を突き刺す。
発情誘発剤だ。
少し経つと、体が熱くなってきた。
こんなことをしてまで……。
力無くアルファを睨みつける。
「それ相当の額を払ったんだ。その分しっかり働け」
要するに、このアルファの性奴隷となったわけだ。
「さっさと股を開け!」と罵倒する。
嫌だと思った。逃げるなら今しかない。
今ならまだ動ける。
弟は、組み敷こうとするアルファの股間を蹴り上げ、部屋を飛び出した。
誘発剤の性で、発情して上手く足が動かない。
蹲りたくなるのを、必死に耐えた。
背後からアルファの怒り狂った雄叫びが聞こえ、慌ててエレベータのボタンを押す。
すると、同じ階に止まった箱の中から出てきたのは兄と落札者だった。
兄の頬にうっすらと痣が見えた。
この落札者も、同じように乱暴をしたのだろう。
弟は兄の手を咄嗟に握ると、落札者だけを通路に残し、エレベーターに乗り込んだ。
「何をやっているんだ」
兄が怒りを露わにした。
「逃げよう、兄さん」
「そんなのできるわけない」
「出来る……かもしれないでしょ」
「どうやってこのホテルから出る気なんだ」
兄は、弟のヒートに気付いた。顔が赤いし、呼吸が乱れている。
エントランスのあるホールで降り、避難用の階段から降りた。
どこに向かうかは決めていない。それでも、
「僕は兄さんが好きだ」
「今、言うことじゃないだろ」
「好きだ。だから、離れたくない」
兄も弟の手をしっかりと握り返す。
「ここまで来れば、逃げ切るしかないだろ」
ホテルの裏側に出たらしい。
そこに一人の男性を発見した。自分たちのベストマンだ。
二人の姿に気付き、ギョッとした顔を見せたが、手招きをして車に乗せてくれた。
「どうしたの?」
ベストマンが聞く。
落札者から乱暴に扱われ、弟は発情誘発剤も打たれ、怖くなって二人で逃げ出したと説明する。
ベストマンは事情を把握すると、車を発進させた。
「どこに行くんですか?」
「取り急ぎ、俺のマンションが安全で良いだろう」
ベストマンにはベータしかいない。
もう義父の家にも帰れなくなった今、ベストマンに従うのが賢明だ。
マンションの最上階に彼は自宅を構えていた。
一人暮らしだから、部屋はいくつか空いているそうで、その一つを貸してくれた。
「内側から鍵がかかるから。とにかく弟の発情が収まるまで、そにいなよ。話はそれからだ」
兄は「ありがとう」というと、弟と二人でその部屋に入る。
鍵を閉めるとベッドに寝かせた。「
兄さん、お願い」
抱いてほしいと視線で訴える。
兄も弟のヒートに当てられ発情した。
パーティーの時からアルファに囲まれ、ヒートの兆候が見られていた。
気を抜いた途端それが爆発したのだろう。
弟を組み敷くと濃厚な口付けを交わす。
「ずっと好きだった」
兄が言う。
叶わない夢だと思い込んで口にしなかったと。
弟も同じ気持ちだったと伝える。
このまま我慢するべきだと思っていたが、オークションで兄が落札された時、気持ちを伝えなかったのをとても後悔した。
「もうどこにも行き場はない。二人でいよう、兄さん」
「俺も、お前と一緒にいたい」
発情が収まるまで、何時間もかけて抱き合う。
兄の愛蜜が注がれるたび、幸せで満たされていく。
どこまでも逃げる覚悟だった。
連れ戻されるのは絶対に嫌だ。
その日は思いのまま求め合い、そのまま眠った。
次の日になるとベストマンが朝ごはんを準備してくれ、今後の相談をする。
「僕たち、戻りたくありません」
強い意志を示す。
ベストマンは「いいんじゃない?」と言った。
「いいんですか?」
あまりにもアッサリと言うものだから、逆に聞き返してしまった。
彼曰く、落札後、すぐに義父に支払いを済ませる。
全て現金一括払い。
その後は落札者の好きにしていいというルールらしい。
「しかし、一つ重要なことある」
支払いを済ませた時点で所有権は落札者のものとなり、その後、義父は一切関与しないというものだ。
「あんた達のように逃げ出したオメガもいる。勿論、番になった者もいる。どちらにせよ、それは落札者自身にかかっているんだ。逃げられるのも落札者次第ってわけだ」
義父にとってオメガは商品であり、売れればまた次のオメガを売れるまでに仕上げる。
落札者のアフターフォローまで出来ないのも納得だ。
「じゃあ、俺たちも」
「あぁ、このまま自由に暮らせばいい」
ベストマンは落ち着くまでここで居てもいいと言ってくれた。
その後、空き部屋が出たからと言って、そこに入居させてくれた。
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」と兄がベストマンに尋ねた。
「バチェラーが幸せになるまで世話をすることだから。まぁ……落札後まで世話をしたのは、俺の受け持ちでは初めてだけどな」
笑いながら言う。
兄と弟もつられて笑った。
「これからは、あんた達の人生だ。笑って生きろ」
幸せな未来へ、後押しするように二人ごと抱きしめてくれた。
その後、弟は双子のアルファを産み、四人で幸せに暮らしましたとさ。
おしまい。
⭐︎⭐︎⭐︎
読んで頂き、ありがとうございます。
X(旧Twitter)に投稿したツイノベを、加筆修正しながらまとめました。
一旦、ここで完結にします。
またツイノベが貯まったら第二弾のまとめを作ろうと思います。
よければX(旧Twitter)にも遊びに来てください。
Xプロフ欄にマシュマロもありますので、こちらのコメ欄でもどちらでも、感想やリクエストなど、是非お寄せください。
過去作、【オメガの擬似体験ができる媚薬】を飲んだら好きだったαに抱き潰された。も、ツイノベが発信元です。
この話の連載バージョンが読みたい!というご意見等も、お待ちしております。
これは御曹司のアルファだけが参加できる、
半年に一度の割合で行われる婚活パーティー。
極上のオメガを娶り、質の良い子供を産ませたいアルファがこぞって参加する。
今回は特に注目されていた。兄弟のオメガバチェラー。
タイプは違えどそれぞれに容姿端麗。
彼らの見た目だけでも心を奪われるアルファが多い上『必ずアルファを産む』という保証付きの家系だ。
会場はアルファが殺到し、兄弟オメガの登場を今か今かと待っている。
そんな控室では、一番上等のアルファを手に入れてやると意気込む兄と、参加をキャンセルしたい弟。
正反対の思いを抱え過ごしていた。
「どうせ俺たちオメガは、子供を産むのが仕事。それなら少しでも良い家に嫁いで、一生楽して生きていくのがいいに決まってる」
「でも僕は好きな人と結婚したい」
「そんなヌルい世の中じゃないだろ。一般人じゃあるまいし。俺たちの家系は代々アルファを産むためだけに集められた擬似家族。裕福に育ててもらえたんだ。文句言わずに決められたレールを進むしかない」
兄の言うことは正しい。
この家は昔から施設から引き取られた養子ばかりが育てられている。
見た目の良さは大前提。
その他、能力、健康状態と様々な検査をし、合格した者のみが引き取られる。
特に重要視されるのは『必ずアルファを産む体質』であるかどうか。
これに関しては、独自の検査方法があるようだった。
なので兄弟とはいえ、兄とは血の繋がりは無い。
施設では、兄が後から入ってきた。
三歳の歳の差は、子供にとっては凄く大きく感じた。
兄は常に本を読んでいて、礼儀正しく、勉強ができて、他の子供とは全く違うオーラをまとっていた。
弟は施設で他の子供達に馴染めていなかった。
いつも孤独だった弟にとって、兄は眩しい存在だった。
初めて尊敬した人だったし、仲良くなりたいと思った。
二人はすぐに意気投合し、朝から晩寝る時まで一緒に過ごしていた。
一つのベッドで寝落ちするまで語り合う。
バース性が同じオメガだと分かってからは、より関係性が深くなっていく。
オメガを発症してからは、お互いのヒートを鎮めるために、何度か体を重ねたこともある。
兄に触れられるほど、彼に向けた気持ちは意味を変えていく。
それが恋愛のものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
密かに抱いた感情は、日を追うごとに膨らんでいく。
決して悟られてはいけない気持ち。
きっと自分は弟のような存在だから、こんなにも優しくしてもらえている。
だから、この関係を何としても守らなければいけない。
弟は、兄に対する気持ちよりもこの関係の安定を選んだ。
その時に兄への気持ちは諦めた。
同じ家の養子として受け入れられることが決まった時は本当に嬉しかった。
施設を出られるのは勿論のこと、何よりも今後、兄と堂々と一緒にいられることが一番嬉しかった。
それから今日という日までは幸せそのものだ。
施設とは違い各々広い個室が与えられ、学校も送迎付き、抑制剤も質の良いものを与え良いものを与えてくれた。
その時間があまりにも幸せすぎて、今日という日は、弟にとって地獄でしかなかった。
二人のサポートやくを務めているベストマンが控室を訪れる。
いよいよ、アルファたちにお披露目の時が来た。
「ほら、行くぞ。お互い、いい人に巡り会えるといいな」
兄の表情が少し曇ったように見えたのは、気のせいだろうか。
ベストマンと共に美しい姿勢で歩く兄の後ろ姿をじっと見つめる。
今日パートナーが見つかれば、そのままこのホテルの一室で番になる。
何号室かは、自分たちには教えられていない。お互いを匿うのを防ぐ為だろう。
このパーティーに、逃げ場などないのだ。
パーティー会場では、司会者が仰々しく二人を紹介する。
どよめき立っている空気に圧倒されながらも、兄はステージに向かった。
その時、弟の手を取り甲に口付けた。
「兄さんっ」
引き留めたかったが、口を開いた瞬間、兄は「行ってくる」とだけ言った。
その目は怯えていた。
兄の姿を見たアルファは一斉に歓声を上げる。
誰もが兄をいやらしい目で見ている。
許せない。気持ち悪い。
でも次はこの視線が自分にも降り注がれる。
名前を呼ばれると、吐き気を我慢しながらステージに出た。
兄の時と同じようにアルファの興奮した声が会場内に響き渡る。
兄はアルファ性に反応し、早くもヒートを起こしかけているようで、呼吸が少し乱れていた。
そのフェロモンに当てられたのか、アルファたちは一層欲情を露わにした。
早くオークションを始めろとヤジが飛ぶ。
そう、これは婚活パーティーという名のオメガオークションなのだ。
自分たちを養子に迎え入れた義父は、こうして極上のオメガを売る事を生業としている。
それは子供の自分たちに相当なお金をかけて育てたとしても、その経費など比にならない程儲かるはずだ。
裕福層だけをターゲットにしている。
オメガを少しでも高く売るため、自分たち養子はそれに似合った人間になるよう手間暇をかけて育てられる。
身寄りのない施設育ちの子供にたっぷりを贅沢をさせることで、義父に逆らえない関係性を植え付ける。
そして自分たちは、極上のアルファを産むためだけに日々鍛錬しろと洗脳される。
弟だけがその教育が染み込まなかったのは、どこかで兄を諦めきれていなかったからだ。
兄と
番になれなくとも、ただ一緒に生きていきたい。
その想いで義父の洗脳を避けていた。
どうにかして、このパーティーから逃げ出したい。
そんな想いとは裏腹に、オークションは始まってしまった。
「まずはお兄さんから!さぁ、より高額を提示した方だけが、この美しいオメガの番になれますよ!はい三番……十八番……」
価格はみるみる跳ね上がっていく。
この金額が自分たちの価値なのだ。
オークショニアが上手くアルファたちを煽り、値段は上限を知らないかの如く、平常心を保っていられないほどの額が飛び交う。
「さぁ、他には?もう、決まってしまいますよ?……では五番の方がお兄さんを落札です」
五番のアルファだけがガッツポーズをし、他全員のため息や愚痴が混ざり合った。
兄が五番のアルファの元へと誘導される。
僅かに兄の手が震えていた。
こんなにも大勢のアルファに晒され、今日会ったばかりの人の番になる。
兄を落札できなかったアルファの熱い視線が、一気に弟に向けられた。
残るバチェラーは弟のみ。
必ず自分が落札してやると言わんばかりに、目が血走っている。
オークショニアが再びマイクを構えた。
「それでは弟さんのオークションに移ります。これがラストチャンス!ここまでの極上のオメガとは、早々出会えません。はい、百十五番、二十番、五十六番……まだまだ!八十六番……」
兄を落札できなかったアルファたちは、さっきよりも勢いを増して値段を積み上げていく。
兄の額をあっさりと超えた。それでもまだ誰も諦めようとしない。
電話をかける者、会場内を走り回る者、目まぐるしく熱気と叫び声が乱反射する。
少しずつ諦める人が出てきた頃、弟の落札者が決まった。
「三十八番、落札です!」
この一言で、弟の番の相手が決まった。
すぐに個室へと移動するよう促される。
アルファは気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
落札できた喜びに、興奮冷めやらない様子で、洗い鼻息をオメガにかけた。
嫌とは言えない。
無言で着いていくと、部屋に入る前から体を求めてきた。
「あの、まだ部屋じゃな……」
「口答えするな!俺が買ったオメガだ、言う通りにしろ」
そのセリフで、自分の行く末を見た気がした。
アルファは乱暴に部屋に放り込み、ヒートを起こせと欲求してくる。
しかし弟は一向に発情しない。
アルファは益々機嫌が悪くなり、カバンから注射器を取り出した。
「こうするしか方法がないだろう」
「い、嫌だ……やめて……」
抵抗も虚しく太腿に針を突き刺す。
発情誘発剤だ。
少し経つと、体が熱くなってきた。
こんなことをしてまで……。
力無くアルファを睨みつける。
「それ相当の額を払ったんだ。その分しっかり働け」
要するに、このアルファの性奴隷となったわけだ。
「さっさと股を開け!」と罵倒する。
嫌だと思った。逃げるなら今しかない。
今ならまだ動ける。
弟は、組み敷こうとするアルファの股間を蹴り上げ、部屋を飛び出した。
誘発剤の性で、発情して上手く足が動かない。
蹲りたくなるのを、必死に耐えた。
背後からアルファの怒り狂った雄叫びが聞こえ、慌ててエレベータのボタンを押す。
すると、同じ階に止まった箱の中から出てきたのは兄と落札者だった。
兄の頬にうっすらと痣が見えた。
この落札者も、同じように乱暴をしたのだろう。
弟は兄の手を咄嗟に握ると、落札者だけを通路に残し、エレベーターに乗り込んだ。
「何をやっているんだ」
兄が怒りを露わにした。
「逃げよう、兄さん」
「そんなのできるわけない」
「出来る……かもしれないでしょ」
「どうやってこのホテルから出る気なんだ」
兄は、弟のヒートに気付いた。顔が赤いし、呼吸が乱れている。
エントランスのあるホールで降り、避難用の階段から降りた。
どこに向かうかは決めていない。それでも、
「僕は兄さんが好きだ」
「今、言うことじゃないだろ」
「好きだ。だから、離れたくない」
兄も弟の手をしっかりと握り返す。
「ここまで来れば、逃げ切るしかないだろ」
ホテルの裏側に出たらしい。
そこに一人の男性を発見した。自分たちのベストマンだ。
二人の姿に気付き、ギョッとした顔を見せたが、手招きをして車に乗せてくれた。
「どうしたの?」
ベストマンが聞く。
落札者から乱暴に扱われ、弟は発情誘発剤も打たれ、怖くなって二人で逃げ出したと説明する。
ベストマンは事情を把握すると、車を発進させた。
「どこに行くんですか?」
「取り急ぎ、俺のマンションが安全で良いだろう」
ベストマンにはベータしかいない。
もう義父の家にも帰れなくなった今、ベストマンに従うのが賢明だ。
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一人暮らしだから、部屋はいくつか空いているそうで、その一つを貸してくれた。
「内側から鍵がかかるから。とにかく弟の発情が収まるまで、そにいなよ。話はそれからだ」
兄は「ありがとう」というと、弟と二人でその部屋に入る。
鍵を閉めるとベッドに寝かせた。「
兄さん、お願い」
抱いてほしいと視線で訴える。
兄も弟のヒートに当てられ発情した。
パーティーの時からアルファに囲まれ、ヒートの兆候が見られていた。
気を抜いた途端それが爆発したのだろう。
弟を組み敷くと濃厚な口付けを交わす。
「ずっと好きだった」
兄が言う。
叶わない夢だと思い込んで口にしなかったと。
弟も同じ気持ちだったと伝える。
このまま我慢するべきだと思っていたが、オークションで兄が落札された時、気持ちを伝えなかったのをとても後悔した。
「もうどこにも行き場はない。二人でいよう、兄さん」
「俺も、お前と一緒にいたい」
発情が収まるまで、何時間もかけて抱き合う。
兄の愛蜜が注がれるたび、幸せで満たされていく。
どこまでも逃げる覚悟だった。
連れ戻されるのは絶対に嫌だ。
その日は思いのまま求め合い、そのまま眠った。
次の日になるとベストマンが朝ごはんを準備してくれ、今後の相談をする。
「僕たち、戻りたくありません」
強い意志を示す。
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「いいんですか?」
あまりにもアッサリと言うものだから、逆に聞き返してしまった。
彼曰く、落札後、すぐに義父に支払いを済ませる。
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その後は落札者の好きにしていいというルールらしい。
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支払いを済ませた時点で所有権は落札者のものとなり、その後、義父は一切関与しないというものだ。
「あんた達のように逃げ出したオメガもいる。勿論、番になった者もいる。どちらにせよ、それは落札者自身にかかっているんだ。逃げられるのも落札者次第ってわけだ」
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落札者のアフターフォローまで出来ないのも納得だ。
「じゃあ、俺たちも」
「あぁ、このまま自由に暮らせばいい」
ベストマンは落ち着くまでここで居てもいいと言ってくれた。
その後、空き部屋が出たからと言って、そこに入居させてくれた。
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」と兄がベストマンに尋ねた。
「バチェラーが幸せになるまで世話をすることだから。まぁ……落札後まで世話をしたのは、俺の受け持ちでは初めてだけどな」
笑いながら言う。
兄と弟もつられて笑った。
「これからは、あんた達の人生だ。笑って生きろ」
幸せな未来へ、後押しするように二人ごと抱きしめてくれた。
その後、弟は双子のアルファを産み、四人で幸せに暮らしましたとさ。
おしまい。
⭐︎⭐︎⭐︎
読んで頂き、ありがとうございます。
X(旧Twitter)に投稿したツイノベを、加筆修正しながらまとめました。
一旦、ここで完結にします。
またツイノベが貯まったら第二弾のまとめを作ろうと思います。
よければX(旧Twitter)にも遊びに来てください。
Xプロフ欄にマシュマロもありますので、こちらのコメ欄でもどちらでも、感想やリクエストなど、是非お寄せください。
過去作、【オメガの擬似体験ができる媚薬】を飲んだら好きだったαに抱き潰された。も、ツイノベが発信元です。
この話の連載バージョンが読みたい!というご意見等も、お待ちしております。
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成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
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『双子でポメバースを発症したお話。』ですU^ェ^U💕
公開された日付を拝見して、未読と思っておりましたが…😅
ポメやシバを先生方がツイノベされていた頃の作品ですかね?
双子のポメくんでは気づかなかったのですが、お兄ちゃん🤭の登場で、あ〜〜😂思い出しました❗
もしかして、と思ったら、やはり😍でした🙌
私、ツイノベで拝読済でございました😅
お兄ちゃん…いいのかなぁ〜とちょっとドキドキ💗しながら、あのオチで安心して、良かったなぁ〜🤗
と思った事を覚えております。
亜沙美先生のツイノベだったのですね😶🌫️コソッ
あの時も今も🙏楽しませていただきましたよ🩷
ありがとうございました👍✨
♡iku様♡
あの時読んで下さってたんですね!!内容まで覚えてくれてるなんて驚き嬉しいです✨
投稿日を確認して、多分ここのはツイノベ始めて2ヶ月以内のものばかりだと思いますw
ikuさんとの出会いはBL小説大賞からだと思っていたので、それより以前の投稿を読んで下さってると分かり歓喜です🙌
周りの方もツイノベムーブメントを起こしていた頃で、それがBL小説大賞に繋がってるんですよねぇ。(感慨深い)
私はツイノベ始めたのが遅い方だったので、あの頃置いて行かれないように必死だったなーって思い出しましたが、今でも必死は変わらないですw