BLツイノベ短編集

亜沙美多郎

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臆病者のSubは、俺様Domに支配され愛を知る

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 突然出されたコマンドに抗えなかった。
 放課後の教室。
 クラスのカースト一位の『Dom様』

 罰ゲームだと分かったのは、全てのプレイが終わった後だった。

 同じグループのメンバーがあちこちに隠れていたらしく、ゾロゾロと出てきて笑いながら帰って行った。

 一人取り残されたSubは、教室で嗚咽が出るほど泣いた。
 誰も助けてはくれない。

 残骸を一人で掃除し、帰宅した。
 ベッドに項垂れると、スマホが光る。

『動画、撮ったから』
 Dom様からのメッセージ。
 震えが止まらない。
 もう高校には行けないと思ったが、立て続けにメッセージが届く。

『明日も休むなよ。休めばクラスで動画流すから』

 奴隷生活が始まる。
 いわゆるパシリにされた。

 クラスでも目立たないSubの自分。
 常に前髪とメガネで顔を隠して息を潜めるように過ごしていた。

 Sub性が強く、キツイ薬を服用していて、常に気分が悪かった。

 パシリにされても抗えないのは、Dom様からの命令はどんなものでも自分のSub性を補ってくれたから。

 休み時間にゆっくり本を読む時間は無くなったけれど、その代わり薬が良く効いてくれるようになり、次第に顔色も人間らしい色になっていく。

 Dom様は自分を脅して命令しては楽しんでいた。
 スマホを持っているとドキリとしたけど、数日経った今でも、あの動画は誰にも見せてはいないように感じた。

 プレイは、Dom様の気分によって突然始まる。
 あの日のように、仲間が見ていると思っていたが、そうではなかった。

 Dom様の圧倒的支配は、グループ内でも確立されているようだ。
 プレイをする時は単独行動をとっているらしい。

 Dom様のプレイは回数を重ねる程に変わっていった。
 Subだから感じるのかもしれない。

 最初は傲慢でしかなかったのが、今では支配欲を感じる。
 それがコマンドの重さとなり、のしかかる。

 決して甘くはない命令。
 しかし、『その標的はお前だけだ』と、言われているような気持ちになる。

 こんな関係が三ヶ月ほど経った頃、初めてサブスペースを体験した。

 Dom様が頭を撫でてくれた瞬間。
 ふわっ体が軽くなった。

(あぁ、Dom様に惹かれている)
 自分の気持ちを自覚した瞬間でもあった。

 Dom様にとっては遊び相手の一人でしかないのは分かっている。
 だから、この気持ちを言ってはいけない。

 自分の全てを晒し出し話せる相手が、たった一人だけいる。幼馴染で親友の女の子。ハキハキと物申す性格だ。

 Dom様の事もざっくりと相談に乗ってもらっていた。
「あんな奴、やめておけ」
 ごもっともな意見を言われ続けている。

「もっと優しいDomがいる」
 それはそうだ。
 あんな俺様Domなんて、そもそも本気で相手にしてもらえない。

 でも駄目だと思うほどに気持ちは大きくなっていく。

「Dom様しか知らないからでしょ」
 と彼女は言った。
 他の人と試せなど、いかにもノーマルらしい発想だと思ったが、一理あると納得してしまう。

「恋したいなら、その鬱陶しい前髪とメガネをさっさとやめなさい」
 悪戯っ子のように笑いながら髪をくしゃくしゃに掻き乱す。
「やめてよぉ」
 珍しく呼び出されなかった放課後、久しぶりに肩の力が抜けた。

 しかし、その様子をDom様に見られていたらしく、夜に電話がかかってきた。

『あの女は誰だ?』
 機嫌が悪い。
「今日は、呼び出されてないはず……」
『誰だと聞いてる。彼女か? あいつもDomか? お前は俺だけでは足りず、他のやつともプレイをしてるのか?』
「してない。誰とも、してない」

 電話越しにも威圧を感じる。
 放たれたグレアに息苦しさを感じる。

『それが本当なら今すぐプレイさせろ』
 直ぐにMAPを共有し、自宅へと招き入れた。

「跪け!」
 言い放った瞬間、腰の力が抜けたように床にへたり込んだ。
 Sub性が滾り、次々出されるコマンドに法悦となる。
 夢中で命令に従った。

「お前は俺の奴隷だろ? 自覚しろ」
 そう言い残しDom様は帰って行った。

 体の細胞から喜びが満ちている。
 Sub性もあるが、誰かから必要とされているのが嬉しいと感じた。

 しかしそれから少し経った頃、今度はDom様のメンバーから呼び出される。

「Dom様が呼んでる」
 そう言われてついて行くが、そこにDom様はいなかった。

 旧校舎の誰も使わない教室。
 Dom様のグループ内の数人のDomがいる。

「あいつだけの相手してないで、俺らの相手もしてくれるよな? Subちゃん♡」

 騙されたと思っても遅い。

『脱げ』
 一人のDomがコマンドを出す。
 震える手で制服のボタンを外していく。

 上肢には、Dom様の噛み跡がいっぱい付いていた。

「ズリィ。俺にも付けさせて」
 Dom達の雄叫びが、不協和音のように響く。

 命令には逆らえない。
 Dom様以外の舌が体を這うだけで、全身に鳥肌が立つ。
 Domの命令なら、誰でも同じかと思っていたが、全く違う。
 Dom様から罰ゲームでプレイされた時でも、こんな拒否反応は起こらなかった。

「お前、気持ち悪いんだよ!」
 鳩尾みぞおちに拳が食い込む。
 別のDomが『舐めろ』と言って下半身を突き出した。
 また別の手が体を触っている。

 気持ち悪い。怖い助けて。
 頭の中でDom様を名を叫ぶ。

 すると一人の生徒が突然倒れた。
 何事かと思った瞬間、別の一人も蹴り飛ばされ、机で背中を強打した。
 主犯の男が後退りしている。

 Dom様が自分の背後に立っていると気付いた。

 主犯の男はDom様の放つグレアで立っていられなくなる。

「テメーら、俺のSubに手出してんじゃねぇよ」
「お前だって、遊びだっただろ」
「今は違う。こいつは俺専用のSubだ。お前らでも手を出すのは許さない」
「は? こんな地味なSubに本気になってんのかよ」
「そうだっつったらどうする?」

 喋りながら、服を着せてくれた。
 Dom様の制服のジャケットに包まれ、抱き上げられる。

「お前ら反省するまでそうしてろ」
 再びグレアを浴びせ、教室を出る。

「後でお仕置きな」
 そう言って口付けた。
 初めてDom様からキスをされた。
 メガネが邪魔だと言って外させる。

「その前髪も切れよ。そしたら、俺しか見えないように命令してやるから」
「僕はずっと、Dom様のことしか見えてない」
「は? あんな酷いことされて、喜んでんのかよ?」
「でも、その奥にある優しさも伝わってたから。僕が他のDomから狙われないように、してくれたんだよね?」
「……ったく、そんなの気付かなくていんだよ」

 担がれたまま、Dom様の家まで連れて行かれ、望むままのプレイにサブスペースに入った。

「奴隷なんて思ってなかったからな」
 そう言って口付ける。
 こんな官能的なキスをされると、正気には戻れないかもしれないと、恍惚な眼差しを送る。

「お前、その顔誰にも見せんなよ」

 その後、パートナーの証であるカラーを貰ったSubちゃんでした。

 おしまい。
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