BLツイノベ短編集

亜沙美多郎

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勘違いから始まった恋〜運命の番は子持ちのパパ〜

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 アルファの恋人の浮気現場を見てしまった。これでもう何度目だろうか。
 遊び人だと気づいたのは付き合い始めて直ぐの頃だったけど、別れられずに今も関係が続いている。

 しかし今回の相手は、いかにも……な見た目の今までの相手とは違っている。
 ピシッと着こなしたスーツに高級車。

 まさかアルファとまで浮気するなんて。

 怒りの矛先は、浮気相手に向けられた。
 その人の職場を突き止め、会社まで言い込みに来たはいいが、そこはアルファにか就職できない大企業。
 入り口でまんまと警備員に止められてしまう始末。

「僕、人と会う約束をしてて……」
「確認を取るから、名前を言いなさい」

 思いっきり怪しまれている所に、浮気相手のアルファがエントランスから出てきた。

「君、顔色が悪いけど大丈夫かい?」

 優しく声をかけてくれた。
 そして目が合った瞬間、オメガがヒートを起こした。

「この匂い……早くこっちへ!」
 その人は近くに停めてあった自分の車に乗せてくれた。
 まさか浮気相手に助けられるとは、情けない。

 鞄から注射を取り出し太ももに打つ。
 しばらくしてヒートは治ったが、その間、アルファはオメガを襲わなかった。

 オメガは迷惑をかけたことを謝り、実はあなたに会いに来た旨を話す。

「今日は時間がないから」と連絡先を交換し、この時は終わった。

 しかしその後をメッセージを送っても、返事もなかなか届かないし、返ってきたとて仕事で会えないとしか言われなかった。
 夜は別件で忙しいと言う。

 オメガも引き下がれなくなり、意地で関係を繕う感じになってきた。

 それから一ヶ月が過ぎた頃、突然アルファから電話がかかってきた。

「急だけど時間ができたから、今から昼食がてら話をしないか」という誘いだった。
 二つ返事でOKし、待ち合わせ場所に行くと、あの時の高級車で迎えにきてくれた。

 個室のある料亭へ行くと、広い和室で二人きりになる。
「ここなら安心だろう?」
 と、オメガを気にかけてくれた。

 優しくされると、浮気のことを聞きにくくなる。
 それなのに、アルファは今日の体調まで気にかける。

「注射を打ってきたので大丈夫です」と答えると急に鋭い眼差しになり、オメガを見つめた。

「でも、君は今も甘い香りを隠しきれていない」

 え?っと思った次の瞬間には、ヒートを起こしていた。

「な……んで……こんなの、なったことないのに……」

 オメガは発情が弱く、発情期すら周期通りに来ない。ヒートなど、この人に会うまで起こしたことがなかった。

 本能がアルファを求め、目の前の人に腕を伸ばす。
 アルファはオメガを抱き寄せ、自分の腕に包み込み「やはり、君が私の『運命の番』だ」と、耳元で囁いた。

 オメガはヒートに苦しみながらも「恋人がいるだろう?」と尋ねたが、そう呼べる相手はいないと言う。

 しかし、あの時見たのは紛れもなくアルファだったし、こんな綺麗な顔を、自分が忘れるはずがないと思った。

 冷静であればもっと言い込めたが、酷くなるヒートに頭が回らなくなる。

「我慢できない。抱かせてほしい」
 と言われ、自分も限界だったオメガは体を許した。

 その場でアルファに抱かれたが、こんなに気持ちいのは初めてだった。

 お互い、何度も果てるまで求めあい、ようやくヒートが治ると、改めて「恋人になって欲しい」と言われて付き合うことになった。
 これであの遊び人と縁を切れる。

 オメガは翌日、別れを告げに行く。
 すると怒り狂った恋人はオメガに暴力を振るった。

「オメガから別れたいなんて贅沢を言うな!」と怒鳴り散らした。

 顔が腫れるほど殴られ、ようやく解放されたオメガ。もっと早くこうするべきだったと反省した。

 しかし優しい恋人ができても、仕事が忙しくて会えない日々が続く。
 仕事が忙しい人だから、もしかすると月一くらいでしか会えないかもしれない。
 今更になって不安になってくる。

 考えてみれば、どこに住んでいるのかさえ知らないと気付いた。
 本当に自分は恋人になったのか、考えれば考えるほどネガティブになってしまう。

 そんな矢先に、更なる不安が襲いかかる。

 一切、連絡の来ない休日。
 一人で街を歩いていると、子供を連れたアルファを見かけてしまった。

(子供?もしかして、結婚してる?)
 二人は似ていると思えば、どことなく雰囲気が似てる気がする。

 完全に騙された。
 よく考えてみれば、あんな大企業のアルファが、一般の大学生なんて相手にするはずはない。

 きっと、あの時はヒートに当てられ魔が差しただけなのだろうと思った。

 きっと自分はこの後、元恋人の時と同じように罵倒されるに違いない。
 それでも一言言わないと気が収まらなかった。

 オメガはアルファと子供の前に立ちはだかる。
「君…」オメガの顔を見て目を見開くアルファ。完全に動揺している。

「結婚していたなら、最初からそう言えば良いじゃないですか」
 声を出すだけで泣きそうになる。

「違う。私にはそんな相手はいないと言っただろう?」
「この子供が、何よりの証拠じゃないですか。もう、嘘をつかなくていいです。さようなら」

 一方的に言い放ち、立ち去ろうとするが、腕を掴まれ引き止められた。

「待ってくれ誤解だ、話を聞いて欲しい」と、抱き止められた。
 こんな優しい腕で抱くなんてズルい。
 振り解きたくても、力が入らない。
 アルファはその状態のまま話し始めた。

「どのタイミングで言うべきか、悩んでたんだ」
「何をですか?」
「子供のこと。私の子供じゃなくて姉の子を育てているんだ」
「お姉さんの?」
「私の姉はオメガで、番のアルファが浮気をして出て行ってからは、一人で子供を育ててた。でも育児ノイローゼになって長期入院を強いられた。その時、私が子供を引き取ったんだ」

 その頃は結婚願望もなかった。
 姉が元気になるまで……と思い、今は一人で育てていると言った。

「でも、君と出会ってしまった。運命の番を逃したくない。君は私に子供がいるなんて知ったら、断るかもしれない。この子にも傷ついてほしくない。それで慎重になっていた」

 すまない、とアルファは頭を下げた。

「そんな事、早く言ってくださいよ。僕はあなたと連絡が取れない時間が不安だったんです」
「寂しい想いをさせてしまったね。よければこれから、私の家に来てくれないか?改めて子供も紹介したい」

 アルファが育てている子供は五歳の男の子で、すぐにオメガに懐いた。
 半日ほど一緒に遊び、オメガが帰ろうとすると泣いて離さない。
 このまま泊まって行くよう言われ、アルファの家に泊まることになった。

「私は君と番になるつもりでいる。君のタイミングで良いから、ここで一緒に住んでほしい。子供と三人で」

 男の子はオメガの膝枕で眠っている。三人での生活を想像してみると、楽しさしか思い浮かばない。

「僕でよければ、よろしくお願いします」
「君しか考えられないよ」

 しかし、肝心なことが聞けていないと思い出す。
「僕の元恋人とは、どう言う関係なんですか?」
「あの子とは、関係があると言えるほどじゃないんだけど……会社のイベントで、彼がバイトをしてる会場を使うんだ。あの時はちょうど私も会場に行く用事があったから、送って行っただけだよ」
「じゃあ、僕の勘違いで……!?」

 会社まで押しかけてすみませんと謝った。
「君が勘違いをしてくれたおかげで、出会えたんだ。感謝してるよ」

 子供を寝かせ、寝室へと移動する。久しぶりに、思う存分抱いてもらった。

 こんなにもハイスペックな‪アルファが、オメガの大学生である自分に欲情している。
 息を荒らげ、オメガを快楽から逃れられなくする。

 オメガはもっともっとと誘うようにフェロモンを解き放った。
「甘い。君の香りは、私の心を掴んで離さない」
「もう、離れたくありません。あなたのものにしてください」
「煽らないで。優しくしたいから」
「あなたの好きに抱いてください」

 アルファの背中に腕を回す。
 繋がった身体が離れないよう、脚もアルファの背中で絡ませた。

 アルファはため息を零し、「じゃあ、もう止まらないから」と言って、思い切り突き上げた。

「んぁあああああっっ」
 先端から白濁を飛ばす。
 たったの一突きで果ててしまった。

「まだまだ、気持ちよくなるのは、これからだよ」
 アルファは律動を早め、オメガの奥深くまで何度も突き上げる。
 その度オメガは白濁を迸らせる。

 アルファが満足するまで抱いて貰い、その後はお風呂でまた重なった。

 これから、こんな日々が続くと思うと、思わず顔が綻ぶ。

「次の発情期に番になろう」と約束した。
 オメガはすぐに引越しをして、男三人の生活が始まった。

 元恋人は「オメガを大切にしない奴は許さない」とアルファが動き、バイトを解雇され、金輪際近づかないよう誓約書を書かせた。

 大学卒業後、二人は番になり、オメガのお腹には新しい命が芽生えた。
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