BLツイノベ短編集

亜沙美多郎

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男娼を買ったおじさんΩが溺愛されるお話。

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 男娼を買ったオメガ。
 三十路を前にして、未だに恋人が出来たことがない。
 極度の人見知りの上、ゲイ。

 会社の飲み会すら参加出来ないので、とても出会いなど期待出来ない。

 しかし、このまま何の経験もなく老いていく事に危機感を抱いたオメガは意を決してデリヘルに登録した。
 迎えた予約時間。約束のホテルで到着を待つ。

 部屋を訪れたのは、写真通りの高身長イケメンだった。
 入室した瞬間からフェロモンバチバチ。甘い香りに直ぐに蕩けたオメガ。
 我を忘れて男娼に初めてを捧げた。

 項を噛まれるのを恐れていたが、そんな心配も無く、ただただ気持ち良くさせて貰って終了。

 こんなにも自分を晒し出したのは初めてで、恥ずかしさも残るが「また指名して欲しい」と言われ、定期的に指名するようになる。

 イケメンなのに話しやすく、テクニックも相性も最高だ。

 毎回「かわいい」と沢山言ってくれ、自分に自信がついてきたオメガ。

 ついに人生初めての合コンに参加することになる。
 それを男娼に言うとあからさまに素っ気ない態度を取られた。

「客のプライベートなんて興味無いよね」
 なんて笑いつつ、ちょっとショックを受けている自分がいる。

 結果、合コンは散々だった。

 男娼とは普通に喋られるようになっていたから、治ったと思い込んでいた人見知り。
 しかし、自己紹介すらまともに出来ず、女性と顔も合わせられず、煽られるまま飲んだお酒で泥酔。

 さほど仲良くもないメンバーは介抱もせず帰ってしまった。

 道端で蹲るオメガ。
 店にアルファがいたらしく、ヒートを起こしかけていた。

 道行くアルファがそれに気付き路地裏に連れて行こうとする。
「怖い。やめて」

 男娼の扱いとは全く違う。
 乱暴で無理矢理で力任せにオメガを襲う。

 それでもヒートを起こした上に、泥酔しているオメガは力も出ない。
 まんまと路地裏に引きずり込まれ、服を破られる。

 溢れるフェロモンに当てられ、更に興奮するアルファ。
 泣きながら必死に叫んだのは、男娼の名前だった。

 ☆☆☆

 目覚めた事で、自分が気を失っていたと知ったオメガ。
 見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
 一見、何の変哲もないナチュラルな印象を持つ部屋。

 さっき襲われたアルファの部屋かと思い身震いするが、服は着ているから襲われてはいないようだ。

 しかし、自分には助けてくれるような友人は居ない。

 部屋の外から物音がし、ドアが開いた。入ってきたのは男娼。

「何であなたが……」
「合コンって言ってたから、仕事の後で探しに行った。そしたらアルファに襲われてるあんたを見つけた。助けて俺ん家に連れて帰った。他に聞きたいことは?」

 男娼は呆れたような、怒っているような、ぶっきらぼうな喋り方をしているが、オメガの隣に座ると顔に手を添え、親指で頬を撫でる。

「何で僕を探しに?」
「心配だったから。人見知りで俺としか喋れないのに、いきなり合コンとか言い出すからさ。気になって見に行った。そしたら案の定飲まされ過ぎて、その上襲われてるんだもん。行って良かった」

 五歳も年下の人から心配されるなんて……情けなくて泣きそうになる。
「ごめんなさい」
「こういう時は、ありがとうって言うんだよ」
「……ありがとう」
 男娼は優しく抱きしめてくれた。いつも通りの優しさに包まれ安堵する

「君を買うようになってから会社でちょっと明るくなったって言われるようになった。それが嬉しくて、少しくらいは自信を持ってもいいのかなって。でも、全然ダメだった。僕はいつまで経ってもダメなオメガだ」

 男娼の服を掴み涙を堪える。いい大人がみっともない。
 自分を変えたいなんて思わなければ良かった。
 行き場のない感情が溢れる。

「君のように、アルファになりたかった。そうすれば、少しはマシな性格になったかもしれない」
 自嘲して言う。
 バース性など関係ないと分かっている。
 不条理だとは思いながらも、何かの所為にしないと苦しみに圧迫されそうになる。
 男娼に向き合うと、虚を突いた表情になっていた。

「え、俺ベータだけど」
「え?」
「……え?」

 男娼はスマホの画面をオメガに見せる。

「プロフ欄にバース性書いてるよ?」
「本当だ。緊張し過ぎてて確認してなかった」
「俺がアルファじゃないのに、あんな風になるんだ?」

 男娼は耳元で「かわいい」と囁く。

「だって、あなたからは、いつもいい匂いがして…」
「それ、香水でしょ?それに、いい匂いがするのはオメガじゃん。いいな、アルファは。蕩けた時のあんたは、どんな匂いがするんだろな」

 頸に鼻を擦り付ける。
「俺にも、届けばいいのに」囁かれると体が疼く。

 今もこうして首筋を嬲られただけで、自分が昂っているのが分かる。
 この人を求めている。
 考えてみれば、何度も体を重ねたというにも関わらず、一度も頸を噛もうとしなかったのは、オメガのフェロモンが届いていなかったからだと言われれば納得するしかない。
 けれども、この昂った体を、どうしても今奪ってほしい。

「今から、あなたを買えますか?」
「俺、やめたんだ。売りのバイト」
「そんな……」

 元々、大学生の間だけ、割りの良いバイトとして働いていただけだと言った。
 大学四年生になり、就活も終わる頃には十分遊べる余裕ができていた。

「もう、どうでもいい人と寝るのも嫌だし」
 困ったような笑顔を見せる。

 そりゃそうだ。こんなにもカッコいい人だから、恋人がいてもおかしくない。
 仕事とはいえオメガを抱くのは不本意だっただろう。

「……今まで、ありがとうございました」
 男娼に甘えていた。優しさも、甘い時間も全てお金で買った幸せだった。
 それでも楽しかったと伝えたい。
 伝えたいのに……言葉が詰まって喋れない。
 すぐに立ち去るべきだ。これ以上迷惑な客になりたくない。

「なぁ、あんただって言ってるの、伝わってる?」
 男娼が顔を覗き込む。
 不意を突かれて思わず顔を見合わせた。
 男娼はもどかし気に頭を掻いた。

「あんたしか抱きたくないんだけど! あれだけ毎回俺に夢中って顔しておいて合コンとか普通行く? 俺でいいじゃん。アルファがいたらどうしようって、そればっか気になって仕方なかった。キャストと客の関係は終わり。ベータだけど俺の恋人になってよ」
「本当に?僕でいいの?」
「だって、あんた可愛いすぎんだもん」

 そのままベッドに押し倒される。
 今までと同じようで、全く違う。

「今日が一番感じてるね」
「発情期、始まったかも」
「そうなの?フェロモン、俺に届くくらい出してよ」

 変化が起きたのはそれからだった。
 男娼の様子がおかしい。
 異常な暑さに唸りながらオメガを抱く。

「ヤバい。あんたのフェロモン、マジで届いてるかも」
 真上から男娼の汗が滴り落ちてくる。

 オメガも今までにない感情に支配されていた。
『この人に噛まれたい』と。

「噛みたい。なんだこれ、頭ん中で誰かに操られてるみたい」
 オメガを抱きながら、男娼がアルファのようなことを言い始める。

「噛んでいい?」
 お遊びで言ってる風でもない。
 そのうち男娼の犬歯が伸びて牙になり、鬼頭球まで現れた。

「まさか、スタディング?」
 ごく稀に見られるとは知っていたが、まさか自分たちが?

 それでも男娼は確実にアルファになっていた。
 オメガのフェロモンに当てられ、頸を噛むことにだけ集中する。

 律動が激しくなるほどに、オメガの腹の中で子宮が降りて来るのが分かった。
「ここに、俺の精液注いでいい?」
「全部、全部欲しい。中に入れて!」
 男娼は最奥まで突き上げ、白濁を飛沫させた。

 ドクドクと、中で痙攣するように蠢く。
 長い吐精の合間にも、男娼が腰を何度も打ちつけた。
 中に収まりきらない白濁が、流れ出す。

 全ての行為が終わる頃、オメガの頸にはクッキリとアルファの噛み跡が刻み込まれていた。
「これで、俺だけのオメガになった!!」
 オメガを抱きしめ、喜びを二人で分かち合った。

 おしまい。
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