BLツイノベ短編集

亜沙美多郎

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ヤクザの嫁になる仕事をするハメになりました。

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「月十三万でどう?」
「は? お前、それ本気で言ってんの?」

 突然話を持ちかけて来たのは、高校時代の同級生だった悪友。
 連んではいたものの、お互いの家に遊びに行くわけでもなく、その辺でテキトーに時間を潰していた。
 家がその筋だと噂に聞いたことはあったが、実際どうなのか本人から聞いたことはない。
 別に真実なんて興味もなかった。
 あの頃は、ただ退屈な時間をいかに潰すかだけ。それだけで精一杯だった。

 テキトーに女を引っ掛けて、テキトーに遊ぶ。
 何故か学校は好きだったから、成績が悪いなりに普通に卒業できた。

 振り返ってみれば、こいつは当時から金の羽振りがよく、一緒に遊ぶ時は全て奢りだった。

 お互い大学に進学はせず、それぞれの道へと進む。
 俺は片親で育ち、その母も新しい男と蒸発。
 それ以来、会ってもいない。

 生活のため、金目当てでホストをしたが、性に合わず直ぐに辞めた。
 その後なんとか夜の仕事を転々とし、食い繋いでいたが、突然家にヤクザがやってきた。

「これ、オタクの母親の名前で間違いないな?」
「あぁ? そうだけど。生憎そいつはもう、ここには居ないぜ?」
「それが分かってるから、坊ちゃんを訪ねて来たんだよっ」

 バカ丁寧に喋りながら、最後の言葉を発すると同時に見事な蹴りを腹に喰らう。

「ぐっ……な、何すん……」

 蹲ったところに、そいつがしゃがみ、持っていた紙を突きつけた。

「知らん間に連帯保証人にされちゃってたパターンね。かわいそうに。悪い母親だぁ」

 全く同情もしてないと、口調で分かる。
 そして記載されていた額を見て、目ん玉が飛び出るかと思った。

「は? 一、十、百……こんなの払えるわけねぇだろが!!」
「でも、こっちも貸したからには返してもらわねぇとな」
「いっ! 離せよ」

 髪を鷲掴みにしてきたヤクザに向かって、唾を飛ばす。
 これがいけなかった。完全に頭に血が上ったそいつは、俺をアパートから引き摺り出し、車に乗せた。

 金を返さないまま海に沈められることはないだろうと、妙に冷静に考えた。

 着いた先はどうやら事務所のようだった。

「若、こいつ言うこと聞きそうになかったんで、連れて来ました」

 室内に投げ飛ばされる。

「イッテェ! もっと優しく扱えよ」
 背後を睨みつけていると、「あれ? 久しぶりじゃん」と、頭上から聞き覚えのある声がした。
「は?」
 視線を上げると、卒業ぶりに会うそいつが目の前にいた。

「お前、やっぱヤクザだったのかよ」
「まぁ、自分から言うことでもないし。そっかー、あの女のガキってあんただったのねぇ」
「あんなやつ、母親でもなんでもねぇよ。それだって、あいつが勝手に……とにかく俺はそんな金、払えねぇからな」
「じゃあさ、返済完了するまでここで働くか?」
「俺にヤクザになれっての?」
「組に入れなんて言わねぇよ。あんた、ビビりじゃん」
「ビビってねぇよ!! で、その条件飲むなら何すりゃいいんだよ」
「俺の嫁になれ」

 ……何言ってんだ、こいつ。

「お前、頭大丈夫?」
「正気、正気。いや~、一度は諦めたんだけどさ、こんなタイミングで再会なんて、運命だと思わん?」
「思いたくはないけど、仕方ねぇよな。って、何を諦めたんだよ?」
「俺、あんたのこと狙ってたんだよな。高校生の時。キャー恥ずかしい♡」
「……全然恥ずかしそうじゃねぇけど。ってか、え、お前、ゲイなの?」
「そうなの♡だから、結婚とかも避けて来たんだけどさ。あんたがいれば最強じゃん」

 ……やっぱり、どっか頭のネジが緩んでそうだ。

「冷静になれ」
「なってるよ。俺はずっと冷静だ。だから、月十三万で俺の嫁になれ。そうすれば十年で返済完了。もれなく利息は免除だ」
「は、やっす」
「三食昼寝付き、俺もついてくる」

 得意気に言うには内容がぶっ飛んでる。
 でも……借金に追い回されるより、体売られるより、こいつと居た方が楽でいいか。
 なんて考えると、腑に落ちた。

「今、楽して返済できれば良いかって考えたっしょ?」
「バッ、馬鹿野郎! んなわけねーだろ。まぁ、でも、なってやるよ。お前の嫁」
「キスもしてくれたら、もうちょい上乗せするぜ?」
「しねーわ!!!」
「はいはい、それは追い追いね~」

 こうして、悪友とのドタバタ夫夫生活が始まったのであった……。
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