15 / 33
番を夢見るオカン系男子の不器用な恋【番外編-七夕の夜】
しおりを挟む
蒼斗が丸二日帰ってきていない。
大学から直ぐのマンションに住んでいるにも関わらず、他の生徒と共に課題に取り組んでいる。
合間でこっちに帰ってきている様子はあるが、完全にすれ違い。
ずっと一緒にいるから、たったの二日会っていないだけで、一週間は会っていないように感じてしまう。
今年の七夕は晴れると予報で言っていた。あと数日。その頃には落ち着いているはずだ。
ベランダに笹を飾った。折り紙で飾りを作り笹にかけていく。
つい先日まで通っていた保育実習で、子どもたちと作ったのを思い出し、早くも懐かしく思う。
蒼斗は七夕を楽しんだことがあるのだろうか。幼い頃は特に勉強一筋だったと聞いている。願い事を書いてと言えば、なんて書くのか興味津々だ。
「ふぅ……ちょっと休憩しよ」
このところ少し風邪気味だった。実習が終わり、疲れが出たのかもしれない。
こんな時に、蒼斗がいてくれたら甘えられるのに。
今夜も晩御飯いらないと、メッセージが届いていた。
一人なら簡単に済ませようと思い、少し横になることにした。
寝室に入る。
気持ちが蒼斗を求めていて、無意識にクローゼットを開けて蒼斗の服を手に取った。
「蒼斗の匂い……」
それだけで、空いた隙間が埋められるような気持ちになる。
腕に抱えられるだけ服を取り出し、ベッドに移動した。
服に埋もれて横になると、蒼斗に包み込まれているような錯覚に陥る。
いつの間にか眠っていた。
次に起きた時も、体のダルさは取れていなかった。
むしろ熱っぽさが増しているようにも感じる。あまり食欲が湧かない。一人だからか。
早く蒼斗の忙しい期間が終わってくれればいいのに。
なんて、自分も先日まで実習で忙しくしていたから、寂しいとは言えない。
ドラッグストアまで歩いて行く。
夜風が顔の熱っぽさを冷やしてくれるみたいで心地いい。
今夜も星が綺麗だった。七夕の夜も、このくらい綺麗だといいと思う。
風邪薬とスポーツドリンクを何本か買っておいた。あとは……。
適当に買い物を済ませると、マンションへと戻る。
なんとか買ったものを片付けると、再び寝室へ行く。
さっきの服をそのままにしておいて良かった。
パジャマに着替え、蒼斗の服の中に潜り込んだ。
結局翌日から、三日ほど大学を休んでしまった。
ひたすら眠っていた。
蒼斗からのメッセージにも気付かないくらいにぐっすりと寝た。
「今日で忙しいの終わる……良かった」
今夜は一緒に晩御飯が食べられそうだ。
見渡せば部屋が荒れている。
当たり前だ。
家事を担当している自分が寝込んでいたのだから。
急いで掃除洗濯に取り掛かる。
「蒼斗、帰れてないのか」
いつもなら洗濯カゴに入ってるはずの洗濯物がない。
きっと他の生徒と一緒に大学で寝泊まりしているのだろう。
そういえば今日は七夕。
お疲れ様も兼ねてご馳走を作ることにした。
夕方遅くになって、ようやく蒼斗が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり、疲れたでしょ? ご飯、準備できてるよ」
「待って、先に翔真吸わせて」
抱き付くや否や、首元に顔を埋める。
「翔真の匂いがする」
「当たり前だろ、俺なんだから」
「ご飯よりも翔真が食べたい」
「バカ言ってないで、着替えてきなよ」
照れ隠しに憎まれ口を叩いてしまう。
蒼斗が寝室のドアを開けた瞬間、服を片付けてなかったと思い出した。
しかし時すでに遅し……。
「翔真、これは?」
「えーと、あのさ……なんていうか……」
「オメガの巣作り……」
恥ずかしすぎて顔から火が出そうになる。
「蒼斗が帰ってくるまでって思ってたから。あとで片付けようと思って……」
「ふぅ~ん。なるほどね」
翔真を見ながらニヤニヤ笑っている。
「もう、しないから! 忘れて!」
「無理、こんな可愛いことされて忘れるわけないじゃん」
軽々と翔真を抱き上げる。
「あ、あのさ。今日七夕だよ」
「話逸らすなよ。で? 七夕が何?」
「ベランダ行こう」
抱かれたまま、ベランダに移動する。
翔真の飾りを見て、感嘆の声を上げた。
「これ、翔真が? スゲー可愛い。さすがは保育科だな」
「この短冊に願い事を書いて飾るんだよ」
「翔真はもう書いたの? 見せて?」
「あ、あのさ……これなんだけど……」
先に書いた短冊を渡す。
それを読んだ蒼斗が、息を呑んで目を見開いた。
「これって……まさか、翔真?」
「風邪っぽいなって思ってたんだけど、薬飲む前に一応と思って調べたんだ。そしたら、陽性反応が出てて……」
妊娠検査薬を差し出す。
そこにはクッキリとピンク色の線が映し出されていた。
「翔真……」
感極まって蹲る蒼斗。
短冊には『赤ちゃんが無事産まれますように』と書いてあった。
「あの……産んでもいい?」
「当たり前じゃん。俺……俺たちの……大切にする。今までよりずっと。ありがとう、翔真。体、大事にしろよ」
「うん……ありがとう。ダメって言われたらどうしようかと思ってた」
「そんなの言うわけないじゃん。俺たちの番の証。大学のことはちゃんと二人で考えよう」
蒼斗の短冊には『立派な父親になる!!』と、お願い事ではなく宣言が書かれた。
大学から直ぐのマンションに住んでいるにも関わらず、他の生徒と共に課題に取り組んでいる。
合間でこっちに帰ってきている様子はあるが、完全にすれ違い。
ずっと一緒にいるから、たったの二日会っていないだけで、一週間は会っていないように感じてしまう。
今年の七夕は晴れると予報で言っていた。あと数日。その頃には落ち着いているはずだ。
ベランダに笹を飾った。折り紙で飾りを作り笹にかけていく。
つい先日まで通っていた保育実習で、子どもたちと作ったのを思い出し、早くも懐かしく思う。
蒼斗は七夕を楽しんだことがあるのだろうか。幼い頃は特に勉強一筋だったと聞いている。願い事を書いてと言えば、なんて書くのか興味津々だ。
「ふぅ……ちょっと休憩しよ」
このところ少し風邪気味だった。実習が終わり、疲れが出たのかもしれない。
こんな時に、蒼斗がいてくれたら甘えられるのに。
今夜も晩御飯いらないと、メッセージが届いていた。
一人なら簡単に済ませようと思い、少し横になることにした。
寝室に入る。
気持ちが蒼斗を求めていて、無意識にクローゼットを開けて蒼斗の服を手に取った。
「蒼斗の匂い……」
それだけで、空いた隙間が埋められるような気持ちになる。
腕に抱えられるだけ服を取り出し、ベッドに移動した。
服に埋もれて横になると、蒼斗に包み込まれているような錯覚に陥る。
いつの間にか眠っていた。
次に起きた時も、体のダルさは取れていなかった。
むしろ熱っぽさが増しているようにも感じる。あまり食欲が湧かない。一人だからか。
早く蒼斗の忙しい期間が終わってくれればいいのに。
なんて、自分も先日まで実習で忙しくしていたから、寂しいとは言えない。
ドラッグストアまで歩いて行く。
夜風が顔の熱っぽさを冷やしてくれるみたいで心地いい。
今夜も星が綺麗だった。七夕の夜も、このくらい綺麗だといいと思う。
風邪薬とスポーツドリンクを何本か買っておいた。あとは……。
適当に買い物を済ませると、マンションへと戻る。
なんとか買ったものを片付けると、再び寝室へ行く。
さっきの服をそのままにしておいて良かった。
パジャマに着替え、蒼斗の服の中に潜り込んだ。
結局翌日から、三日ほど大学を休んでしまった。
ひたすら眠っていた。
蒼斗からのメッセージにも気付かないくらいにぐっすりと寝た。
「今日で忙しいの終わる……良かった」
今夜は一緒に晩御飯が食べられそうだ。
見渡せば部屋が荒れている。
当たり前だ。
家事を担当している自分が寝込んでいたのだから。
急いで掃除洗濯に取り掛かる。
「蒼斗、帰れてないのか」
いつもなら洗濯カゴに入ってるはずの洗濯物がない。
きっと他の生徒と一緒に大学で寝泊まりしているのだろう。
そういえば今日は七夕。
お疲れ様も兼ねてご馳走を作ることにした。
夕方遅くになって、ようやく蒼斗が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり、疲れたでしょ? ご飯、準備できてるよ」
「待って、先に翔真吸わせて」
抱き付くや否や、首元に顔を埋める。
「翔真の匂いがする」
「当たり前だろ、俺なんだから」
「ご飯よりも翔真が食べたい」
「バカ言ってないで、着替えてきなよ」
照れ隠しに憎まれ口を叩いてしまう。
蒼斗が寝室のドアを開けた瞬間、服を片付けてなかったと思い出した。
しかし時すでに遅し……。
「翔真、これは?」
「えーと、あのさ……なんていうか……」
「オメガの巣作り……」
恥ずかしすぎて顔から火が出そうになる。
「蒼斗が帰ってくるまでって思ってたから。あとで片付けようと思って……」
「ふぅ~ん。なるほどね」
翔真を見ながらニヤニヤ笑っている。
「もう、しないから! 忘れて!」
「無理、こんな可愛いことされて忘れるわけないじゃん」
軽々と翔真を抱き上げる。
「あ、あのさ。今日七夕だよ」
「話逸らすなよ。で? 七夕が何?」
「ベランダ行こう」
抱かれたまま、ベランダに移動する。
翔真の飾りを見て、感嘆の声を上げた。
「これ、翔真が? スゲー可愛い。さすがは保育科だな」
「この短冊に願い事を書いて飾るんだよ」
「翔真はもう書いたの? 見せて?」
「あ、あのさ……これなんだけど……」
先に書いた短冊を渡す。
それを読んだ蒼斗が、息を呑んで目を見開いた。
「これって……まさか、翔真?」
「風邪っぽいなって思ってたんだけど、薬飲む前に一応と思って調べたんだ。そしたら、陽性反応が出てて……」
妊娠検査薬を差し出す。
そこにはクッキリとピンク色の線が映し出されていた。
「翔真……」
感極まって蹲る蒼斗。
短冊には『赤ちゃんが無事産まれますように』と書いてあった。
「あの……産んでもいい?」
「当たり前じゃん。俺……俺たちの……大切にする。今までよりずっと。ありがとう、翔真。体、大事にしろよ」
「うん……ありがとう。ダメって言われたらどうしようかと思ってた」
「そんなの言うわけないじゃん。俺たちの番の証。大学のことはちゃんと二人で考えよう」
蒼斗の短冊には『立派な父親になる!!』と、お願い事ではなく宣言が書かれた。
2
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる