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双子のライオン騎士様は甘いケーキを手放せない
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獣人の世界。
ここには第二次性が存在する。殆どがそれを持たないノーマルだが、後天的に発症するフォーク、その捕食の対象となるのがケーキだ。
ケーキは無自覚でフォークに捕食された時、ようやく第二次性を自覚する。
それはウサギ獣人も然り……自分はノーマルと思い込んでいた。
しかし街を歩いていると、突然、大柄の男から路地裏に引き摺り込まれた。
牛獣人であった。
呼吸を荒げ、ヨダレを垂らしている。
「三年前にフォークを発症してから、味覚を失っていた。久しぶりに甘さを味わえる」
まさか自分がケーキだったなんて……と怯えるウサギ獣人。
自分のような華奢で弱い種族が牛に敵う筈もない。
頬に大きな舌が這う。全身に鳥肌が立った。
(怖い。気持ち悪い)
助けを呼びたいが、恐怖心で声も出なかった。
「甘い。甘い」牛は我を忘れてウサギ獣人を舐め回した。
「や、やめて!」
やっと声が出たが、あまりにも小さかった。
服を乱暴に破られ上肢が露わになる。身を縮めるが手首を掴まれ投げ飛ばされた。
背中を強く打ち、もはや抵抗する気力もない。
(もう、自分は助からない)
諦めかけた時、牛の動きがピタリと止まる。
「何をしている!?」
その牛の背後から張り詰めた凛々しい声がした。
虚な目で視線を向けると、二人の騎士団員が立っていた。
丸い耳が見える。ライオンだろう。
牛の背に剣を突きつけていた。
「ケーキの捕食は同意がないとしてはいけない」
「どう見ても、襲っているようにしか見えないが?」
よく似た声で二人が攻め立てると、牛は震え出した。
「違います。コイツから誘ってきたんですよ。甘いから舐めろって」
嘘をついて取り繕うが、通用しない。
「許されると思うな」
牛の腕を捻り上げ、悲鳴を上げる牛をそのまま連行した。
その様子を呆然と見送る。あっという間の出来事だった。
自分がケーキなのもショックだったし、これからはこんなことが珍しくなく起こるかと思うと、怖くて仕方なかった。
その場から動けない。
服もボロボロだし、足に力が入らない。
気が抜けて、涙が次々と溢れた。
数分後、さっきの騎士団員の二人が走って戻ってきた。
手には服を持っている。
「大丈夫か?待たせたな」
「よく頑張ったな」
一人が頭を撫でてくれた。並ぶ同じ顔を見比べる。
きっと兄弟だろうと思った。
さっきの牛獣人とは全く違う、大きくて安心感を与えてくれる手。
「立てるか?」と聞かれたが、顔を横に振る。
「発情してる?」
「やばい。甘い匂いが増してる」
とにかく病院に運ぼうとするが、ウサギ獣人が嫌だと言った。
「何を言っている。俺たちだってフォークなんだぞ」
「僕、好きになった人にしか発情しない体質なんです」
あどけない顔をしているが、しっかり成人している。
それでも発情期が始まる平均年齢を過ぎても一向にそれは訪れなかった。
検査してもらった結果、自分からの好意がなければ発情しないと診断された。
今、こうなっているのは、ウサギ獣人が騎士団員に一目惚れをしたという証拠なのだ。
「でもさ、どっちに対して?」
「それは分からないです。でも二人に、舐めて欲しいです」
顔を真っ赤にしてお願いした。自分でもビックリだ。
人見知りをするタイプで、気を許した人としかまともに喋れないくらいなのだ。
それが、助けてくれたとはいえ、初対面の人に「舐めろ」なんて……。
騎士団員は目配せをし、大きくため息を吐いた。
「まずは手当。話はそれからだ」
「家まで運ぶよ。案内して」
三人でウサギの家に帰る。
救急箱を出すと慣れた手つきで手当を施す。
気を利かせてくれているのか、ずっと体のどこかに触れてくれていた。
人助けなんてきっと他の人にもやっている。
(こんなことも、やってるのかな)
そう思っただけで胸が張り裂けそうだった。
やはり、自分は騎士団員に心底惚れている。
「あの、さっきさっきの話なんですけど」
「ああ、忘れてなかったのか」
「僕が良いって言えば、フォークは舐めても良いんですよね?」
「そうだが……」
「もしかして、もう専属のケーキがいますか?」
「……いない」
「でしたら、その……試してもらえませんか」
「本当にいいのか?」
深く頷く。
二人から舐められたいと、早くも体が疼いている。
それに、さっきの牛獣人の気持ち悪さを上書きしてほしい。
ソファに座ったまま、騎士団員に腕を伸ばすと、兄から口付けられた。
「甘い」
軽く触れただけなのに、兄は歓喜にしばし放心状態になる。
その隙に弟からも口付けられる。
「本当に、ケーキってこんなに甘いのか」
二人とも、学生の頃にフォークを発症し、十年近くも味覚のないまま過ごしていた。
食べるのは、もはや作業でしかなくなっていた。
「あの、僕は美味しいですか?」
「あぁ、とてもな」
「ずっと味わっていたくなる」
しかし、この先の行為は傷が治ってからだと言い、その後もキスしかしてもらえなかった。
ウサギの方が耐えるのに必死だったが、二人が自分たちの服を沢山持って来てくれたので、巣作りをして気を紛らわせ、傷の治療に専念した。
一ヶ月後
「本当に、二人の専属ケーキでいいの?」
「今更、聞かないでください。どっちか一人なんて選べません」
「俺らも、離す気ないけどな」
三人の甘い生活がスタートした。
⭐︎ケーキバース⭐︎
フォーク→後天的に発症し、それと同時に一切の味覚を失う。ケーキの体液だけを甘いと感じる。
ケーキ→大抵は無自覚。なので、フォークを防御する術を持たない。ケーキ自体に発情期はない。
この話での発情はウサギによるもの。
ここには第二次性が存在する。殆どがそれを持たないノーマルだが、後天的に発症するフォーク、その捕食の対象となるのがケーキだ。
ケーキは無自覚でフォークに捕食された時、ようやく第二次性を自覚する。
それはウサギ獣人も然り……自分はノーマルと思い込んでいた。
しかし街を歩いていると、突然、大柄の男から路地裏に引き摺り込まれた。
牛獣人であった。
呼吸を荒げ、ヨダレを垂らしている。
「三年前にフォークを発症してから、味覚を失っていた。久しぶりに甘さを味わえる」
まさか自分がケーキだったなんて……と怯えるウサギ獣人。
自分のような華奢で弱い種族が牛に敵う筈もない。
頬に大きな舌が這う。全身に鳥肌が立った。
(怖い。気持ち悪い)
助けを呼びたいが、恐怖心で声も出なかった。
「甘い。甘い」牛は我を忘れてウサギ獣人を舐め回した。
「や、やめて!」
やっと声が出たが、あまりにも小さかった。
服を乱暴に破られ上肢が露わになる。身を縮めるが手首を掴まれ投げ飛ばされた。
背中を強く打ち、もはや抵抗する気力もない。
(もう、自分は助からない)
諦めかけた時、牛の動きがピタリと止まる。
「何をしている!?」
その牛の背後から張り詰めた凛々しい声がした。
虚な目で視線を向けると、二人の騎士団員が立っていた。
丸い耳が見える。ライオンだろう。
牛の背に剣を突きつけていた。
「ケーキの捕食は同意がないとしてはいけない」
「どう見ても、襲っているようにしか見えないが?」
よく似た声で二人が攻め立てると、牛は震え出した。
「違います。コイツから誘ってきたんですよ。甘いから舐めろって」
嘘をついて取り繕うが、通用しない。
「許されると思うな」
牛の腕を捻り上げ、悲鳴を上げる牛をそのまま連行した。
その様子を呆然と見送る。あっという間の出来事だった。
自分がケーキなのもショックだったし、これからはこんなことが珍しくなく起こるかと思うと、怖くて仕方なかった。
その場から動けない。
服もボロボロだし、足に力が入らない。
気が抜けて、涙が次々と溢れた。
数分後、さっきの騎士団員の二人が走って戻ってきた。
手には服を持っている。
「大丈夫か?待たせたな」
「よく頑張ったな」
一人が頭を撫でてくれた。並ぶ同じ顔を見比べる。
きっと兄弟だろうと思った。
さっきの牛獣人とは全く違う、大きくて安心感を与えてくれる手。
「立てるか?」と聞かれたが、顔を横に振る。
「発情してる?」
「やばい。甘い匂いが増してる」
とにかく病院に運ぼうとするが、ウサギ獣人が嫌だと言った。
「何を言っている。俺たちだってフォークなんだぞ」
「僕、好きになった人にしか発情しない体質なんです」
あどけない顔をしているが、しっかり成人している。
それでも発情期が始まる平均年齢を過ぎても一向にそれは訪れなかった。
検査してもらった結果、自分からの好意がなければ発情しないと診断された。
今、こうなっているのは、ウサギ獣人が騎士団員に一目惚れをしたという証拠なのだ。
「でもさ、どっちに対して?」
「それは分からないです。でも二人に、舐めて欲しいです」
顔を真っ赤にしてお願いした。自分でもビックリだ。
人見知りをするタイプで、気を許した人としかまともに喋れないくらいなのだ。
それが、助けてくれたとはいえ、初対面の人に「舐めろ」なんて……。
騎士団員は目配せをし、大きくため息を吐いた。
「まずは手当。話はそれからだ」
「家まで運ぶよ。案内して」
三人でウサギの家に帰る。
救急箱を出すと慣れた手つきで手当を施す。
気を利かせてくれているのか、ずっと体のどこかに触れてくれていた。
人助けなんてきっと他の人にもやっている。
(こんなことも、やってるのかな)
そう思っただけで胸が張り裂けそうだった。
やはり、自分は騎士団員に心底惚れている。
「あの、さっきさっきの話なんですけど」
「ああ、忘れてなかったのか」
「僕が良いって言えば、フォークは舐めても良いんですよね?」
「そうだが……」
「もしかして、もう専属のケーキがいますか?」
「……いない」
「でしたら、その……試してもらえませんか」
「本当にいいのか?」
深く頷く。
二人から舐められたいと、早くも体が疼いている。
それに、さっきの牛獣人の気持ち悪さを上書きしてほしい。
ソファに座ったまま、騎士団員に腕を伸ばすと、兄から口付けられた。
「甘い」
軽く触れただけなのに、兄は歓喜にしばし放心状態になる。
その隙に弟からも口付けられる。
「本当に、ケーキってこんなに甘いのか」
二人とも、学生の頃にフォークを発症し、十年近くも味覚のないまま過ごしていた。
食べるのは、もはや作業でしかなくなっていた。
「あの、僕は美味しいですか?」
「あぁ、とてもな」
「ずっと味わっていたくなる」
しかし、この先の行為は傷が治ってからだと言い、その後もキスしかしてもらえなかった。
ウサギの方が耐えるのに必死だったが、二人が自分たちの服を沢山持って来てくれたので、巣作りをして気を紛らわせ、傷の治療に専念した。
一ヶ月後
「本当に、二人の専属ケーキでいいの?」
「今更、聞かないでください。どっちか一人なんて選べません」
「俺らも、離す気ないけどな」
三人の甘い生活がスタートした。
⭐︎ケーキバース⭐︎
フォーク→後天的に発症し、それと同時に一切の味覚を失う。ケーキの体液だけを甘いと感じる。
ケーキ→大抵は無自覚。なので、フォークを防御する術を持たない。ケーキ自体に発情期はない。
この話での発情はウサギによるもの。
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