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人魚の祈り
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ソラルは人間と人魚のハーフ。
異種間の恋愛は禁止されている国で、両親は密かに愛を育みソラルが生まれた。
珍しいサルビアブルーの髪に、深いグリーンの瞳、真っ白な肌。
ソラルは海そのもののような存在だった。
ソラルは人間の男の子に恋をした。いけないことだとは分かっていても、この気持ちを抑えることはできない。
その子はユリスといって、同じスクールに通う友達だ。
ユリスはみんなからモテた。誰とでも直ぐに仲良くなるし、毎日のように誰かから告白される。
そんなユリスが、ソラルの髪や瞳が綺麗だと会うたびに褒めてくれる。それまでは嫌いだった自分の容姿を好きになれたのは、紛れもないユリスのおかげだ。
「俺、ソラルの髪好きだ。サラサラしてて、光の加減で違う色にも見える。本物の海みたいだ」
髪に触れる指がくすぐったい。
もっと触って欲しいし、ユリスの髪にも触れてみたい。
自分もユリスのことが好きだと言ってみたい。
でも人魚の血が流れてる自分は、ユリスに恋する権利は与えられていない。
せめて側にいさせて欲しい。毎晩、月夜に祈りを捧げる。
『友達でいいから、一緒にいさせてください』と。
しかし十二歳になった頃から、ソラルの体には変化が起きた。
肌の一部に鱗が張り付いている。
「これ……人魚の……」
ハーフだけど、子供の頃は髪や肌の色は違っても、その他は人間と変わらない。
なのに、歳を重ねるにつれ、鱗は体を蝕むように広がっていく。こんなのはユリスに見せられない。きっと気持ち悪がるに決まっている。
それに人魚だと知られるのは、本当の別れを意味しているのだ。
ソラルは海の近くに引っ越すことにした。
最後の別れを告げに会いに行く。
「今まで、ありがとう」とだけ、言うつもりだった。自分の気持ちを伝えてはいけないと。それでも我慢しきれなかったのは、ユリスがソラルを好きだと言ったから。
「離れたくない! ずっと側にいてくれると思ってた」
「僕も、僕もユリスが好き。でも……ダメなんだ。僕たちは一緒にはいられない」
「なんでだよ! 俺がまだ子供だから?」
正直、ユリスが自分の気持ちをぶつけてくれるのは嬉しかった。
それでも運命は変えられない。
「そうじゃない。最後だから言うけど、僕は人魚の血が流れている。だから……」
「だったらどうしたって言うんだよ! 俺が好きって言ったら好きなんだよ。ソラルが俺を好きって言ったのは嘘?」
「嘘じゃない。好き。大好き。でも行かなくちゃ」
ユリスはソラルをキツく抱きしめ「卒業したら、絶対迎えに行く」と言った。小指を絡ませて約束する。
そうして離れ離れになってしまった。
毎日毎日、ユリスに思いを馳せて過ごす日々。
その間にもソラルの人魚化は進み、今では脚だけにとどまらず、腰にまで鱗が迫っている。瞳と同じ深いグリーンと、髪の毛と同じサルビアブルーの鱗。
常に濡らしていないと表面がひび割れてしまうため、ソラルは1日の半分は海に浸かって過ごしていた。
「今夜も星が綺麗だ」
海から見る夜空は、視界の端から端まで星と月しか見えない。
ユリスと離れて、もう五年が過ぎようとしていた。ソラルも二十歳を迎える間近。
きっとユリスは、ソラルの存在を忘れているのだろう。
子供の口約束だったのだ。
それでも月夜に祈りを捧げるのは、癖のようなもので、見てしまえば祈らずにはいられない。
「ユリスに会いたい」
月は今夜も「大丈夫だよ」と慰めるように優しく輝く。
こんな姿になった自分を見られたくはない。会いたいけど、会いたくない。
このまま海の泡となって消えてしまえば、楽になれるのだろうか。
もし、自分が人魚姫のように泡となって消えるなら、最後に願うのは、きっとユリスの幸せだろう。
「ユリス、どうか幸せになって……」
海から出た。
暗闇の中に人影を確認した。顔がハッキリ見えないが、ソラルは涙が溢れて蹲る。
その人はソラルの前でしゃがむと、髪に触れて「迎えにきたよ」と囁いた。
おしまい。
異種間の恋愛は禁止されている国で、両親は密かに愛を育みソラルが生まれた。
珍しいサルビアブルーの髪に、深いグリーンの瞳、真っ白な肌。
ソラルは海そのもののような存在だった。
ソラルは人間の男の子に恋をした。いけないことだとは分かっていても、この気持ちを抑えることはできない。
その子はユリスといって、同じスクールに通う友達だ。
ユリスはみんなからモテた。誰とでも直ぐに仲良くなるし、毎日のように誰かから告白される。
そんなユリスが、ソラルの髪や瞳が綺麗だと会うたびに褒めてくれる。それまでは嫌いだった自分の容姿を好きになれたのは、紛れもないユリスのおかげだ。
「俺、ソラルの髪好きだ。サラサラしてて、光の加減で違う色にも見える。本物の海みたいだ」
髪に触れる指がくすぐったい。
もっと触って欲しいし、ユリスの髪にも触れてみたい。
自分もユリスのことが好きだと言ってみたい。
でも人魚の血が流れてる自分は、ユリスに恋する権利は与えられていない。
せめて側にいさせて欲しい。毎晩、月夜に祈りを捧げる。
『友達でいいから、一緒にいさせてください』と。
しかし十二歳になった頃から、ソラルの体には変化が起きた。
肌の一部に鱗が張り付いている。
「これ……人魚の……」
ハーフだけど、子供の頃は髪や肌の色は違っても、その他は人間と変わらない。
なのに、歳を重ねるにつれ、鱗は体を蝕むように広がっていく。こんなのはユリスに見せられない。きっと気持ち悪がるに決まっている。
それに人魚だと知られるのは、本当の別れを意味しているのだ。
ソラルは海の近くに引っ越すことにした。
最後の別れを告げに会いに行く。
「今まで、ありがとう」とだけ、言うつもりだった。自分の気持ちを伝えてはいけないと。それでも我慢しきれなかったのは、ユリスがソラルを好きだと言ったから。
「離れたくない! ずっと側にいてくれると思ってた」
「僕も、僕もユリスが好き。でも……ダメなんだ。僕たちは一緒にはいられない」
「なんでだよ! 俺がまだ子供だから?」
正直、ユリスが自分の気持ちをぶつけてくれるのは嬉しかった。
それでも運命は変えられない。
「そうじゃない。最後だから言うけど、僕は人魚の血が流れている。だから……」
「だったらどうしたって言うんだよ! 俺が好きって言ったら好きなんだよ。ソラルが俺を好きって言ったのは嘘?」
「嘘じゃない。好き。大好き。でも行かなくちゃ」
ユリスはソラルをキツく抱きしめ「卒業したら、絶対迎えに行く」と言った。小指を絡ませて約束する。
そうして離れ離れになってしまった。
毎日毎日、ユリスに思いを馳せて過ごす日々。
その間にもソラルの人魚化は進み、今では脚だけにとどまらず、腰にまで鱗が迫っている。瞳と同じ深いグリーンと、髪の毛と同じサルビアブルーの鱗。
常に濡らしていないと表面がひび割れてしまうため、ソラルは1日の半分は海に浸かって過ごしていた。
「今夜も星が綺麗だ」
海から見る夜空は、視界の端から端まで星と月しか見えない。
ユリスと離れて、もう五年が過ぎようとしていた。ソラルも二十歳を迎える間近。
きっとユリスは、ソラルの存在を忘れているのだろう。
子供の口約束だったのだ。
それでも月夜に祈りを捧げるのは、癖のようなもので、見てしまえば祈らずにはいられない。
「ユリスに会いたい」
月は今夜も「大丈夫だよ」と慰めるように優しく輝く。
こんな姿になった自分を見られたくはない。会いたいけど、会いたくない。
このまま海の泡となって消えてしまえば、楽になれるのだろうか。
もし、自分が人魚姫のように泡となって消えるなら、最後に願うのは、きっとユリスの幸せだろう。
「ユリス、どうか幸せになって……」
海から出た。
暗闇の中に人影を確認した。顔がハッキリ見えないが、ソラルは涙が溢れて蹲る。
その人はソラルの前でしゃがむと、髪に触れて「迎えにきたよ」と囁いた。
おしまい。
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