55 / 78
spin-offージェイクと騎士ー
3
しおりを挟む
騎士団員はとにかくパーティーが好きだ。
十日毎くらいのペースでダンスパーティーを開く。
そのお蔭で、ルイさんともよく顔を合わせるようになっていた。
初めてパーティーへ来た日から、ほぼ毎回ベルガルドさんに連れられてきているのに、未だに華やかな場所に慣れる気配はなかった。
それどころか、ますます緊張と周りへの警戒心が強まっている気さえする。
俺にはようやく少し心を開いてくれていそうな感触はあるが、ここでグイグイ迫ればまた扉を閉められそうだ。慎重に接しなければならない。
しかし嬉しいことにパーティー会場でいつもベルガルドさんの背後に隠れているが、俺を見るや否や、子犬のように走り寄ってくる。
その度、抱き止めたくなるのを必死に我慢していると彼は知らない。
とはいえ走り寄った後は俺の陰に身を潜め、パーティーを抜け出すタイミングを見計らっているだけなのだけど……。
「まだ、このような雰囲気には慣れませんか?」
俺の腕から少し顔を出し、会場を見ているルイさんが頷く。
ホテルの従業員からすると、折角来てくれたのだから楽しんでほしい。
「今日、よければ少し踊ってみませんか? もちろん私と」
思い切って誘ってみると、目を見開き勢いよく首を横に振った。
俺の腕を掴む手に力が入る。
そんなに嫌がらなくても……と思いながら、その怯えた子犬のような彼を構いたくて仕方がない。
パーティーでこんなにも怯えている彼が、騎士団員として働いている姿を想像しようとしてもまるで思い描けない。
ベルガルドさんが剣の腕はいいと言っていた。
その様子を見る機会があればいいのに……。と横目で眺めながら考えていた。
「そうだ。ガーデンを散歩しませんか?」
「……外?」
会場の熱気で殆ど聞こえないルイさんの声を、なんとか逃さず聞くことができた。
「そうです。ルイさん、人の熱気に酔ってきたんじゃないですか?」
「い、行きます!!」
思ったよりも良い反応が返ってきた。
よっぽど会場から出たいのか、俺の腕をぐいっと引っ張り顔を寄せた。
「あっ……。すみま……せん」
「くすくす……、いえ、嬉しいですよ。では、こちらからどうぞ」
ダンスをしている輪とは反対の方向へ歩き出す。
ホテルの中庭は程よい広さのガーデンがあり、ここでティータイムを取ることもできる。宿泊中の楽しみの一つにして頂けることが多い。
「わぁ……綺麗……」
ルイさんもガーデンを気に入ってくれたようだ。緑豊かなのが良いのかもしれない。
ライトアップされた木々が、神秘的な光を放っている。
「こちらに座りましょう」
ベンチに誘導して並んで腰を下ろす。
ルイさんが座った途端、ため息を吐いた。
「ルイさんの出身はどこです?」
「えっ、あっ、あの……田舎者って分かります……よね? やっぱり……」
会場にいる時より、随分しっかりと返事をしてくれる。
二人きりの方が緊張しないのだろうか。
「ルイさんの見た目で言ってるんじゃありません。この街の方がダンスパーティーが生きがいのような方ばかりなので」
「そうですね……僕は農業が盛んな田舎から出てきました」
「それは凄い! 剣が得意だと仰っていましたが、田舎から騎士団に入るのは難しいでしょう?」
しかもルイさんが在籍する騎士団はリアム様が騎士団長を務める、もっとも人気の騎士団だ。
「運が良かっただけです……」
なんて誤魔化すように言うけれど、運だけで入れるような騎士団じゃない。
「剣はいつから習っているのですか?」
「……習ったことない」
「本当に?」
話せば話すほど興味が湧いてくる。小柄で童顔、それでいて騎士団に入れるほどの剣術を身につけているのに、剣を習ったことがないなんて……。
いつもなら、そろそろ会場を抜け出して帰っている時間なのだが……本当は帰したくない。
「そろそろ、出られますか?」
「あ、はい。もう帰りたいです」
やはり、無理矢理はいけないか……。
「会場に戻らずに帰れますので、こちらからどうぞ」
エントランスに直接つながっているドアを案内した。
チラチラと俺を見上げる視線を感じている。きっと俺からも見てしまえば、また俯いてしまうだろう。
軽く会釈をしただけで飛び出すようにホテルを後にした。
足早に帰るルイさんの背中を見送った。
十日毎くらいのペースでダンスパーティーを開く。
そのお蔭で、ルイさんともよく顔を合わせるようになっていた。
初めてパーティーへ来た日から、ほぼ毎回ベルガルドさんに連れられてきているのに、未だに華やかな場所に慣れる気配はなかった。
それどころか、ますます緊張と周りへの警戒心が強まっている気さえする。
俺にはようやく少し心を開いてくれていそうな感触はあるが、ここでグイグイ迫ればまた扉を閉められそうだ。慎重に接しなければならない。
しかし嬉しいことにパーティー会場でいつもベルガルドさんの背後に隠れているが、俺を見るや否や、子犬のように走り寄ってくる。
その度、抱き止めたくなるのを必死に我慢していると彼は知らない。
とはいえ走り寄った後は俺の陰に身を潜め、パーティーを抜け出すタイミングを見計らっているだけなのだけど……。
「まだ、このような雰囲気には慣れませんか?」
俺の腕から少し顔を出し、会場を見ているルイさんが頷く。
ホテルの従業員からすると、折角来てくれたのだから楽しんでほしい。
「今日、よければ少し踊ってみませんか? もちろん私と」
思い切って誘ってみると、目を見開き勢いよく首を横に振った。
俺の腕を掴む手に力が入る。
そんなに嫌がらなくても……と思いながら、その怯えた子犬のような彼を構いたくて仕方がない。
パーティーでこんなにも怯えている彼が、騎士団員として働いている姿を想像しようとしてもまるで思い描けない。
ベルガルドさんが剣の腕はいいと言っていた。
その様子を見る機会があればいいのに……。と横目で眺めながら考えていた。
「そうだ。ガーデンを散歩しませんか?」
「……外?」
会場の熱気で殆ど聞こえないルイさんの声を、なんとか逃さず聞くことができた。
「そうです。ルイさん、人の熱気に酔ってきたんじゃないですか?」
「い、行きます!!」
思ったよりも良い反応が返ってきた。
よっぽど会場から出たいのか、俺の腕をぐいっと引っ張り顔を寄せた。
「あっ……。すみま……せん」
「くすくす……、いえ、嬉しいですよ。では、こちらからどうぞ」
ダンスをしている輪とは反対の方向へ歩き出す。
ホテルの中庭は程よい広さのガーデンがあり、ここでティータイムを取ることもできる。宿泊中の楽しみの一つにして頂けることが多い。
「わぁ……綺麗……」
ルイさんもガーデンを気に入ってくれたようだ。緑豊かなのが良いのかもしれない。
ライトアップされた木々が、神秘的な光を放っている。
「こちらに座りましょう」
ベンチに誘導して並んで腰を下ろす。
ルイさんが座った途端、ため息を吐いた。
「ルイさんの出身はどこです?」
「えっ、あっ、あの……田舎者って分かります……よね? やっぱり……」
会場にいる時より、随分しっかりと返事をしてくれる。
二人きりの方が緊張しないのだろうか。
「ルイさんの見た目で言ってるんじゃありません。この街の方がダンスパーティーが生きがいのような方ばかりなので」
「そうですね……僕は農業が盛んな田舎から出てきました」
「それは凄い! 剣が得意だと仰っていましたが、田舎から騎士団に入るのは難しいでしょう?」
しかもルイさんが在籍する騎士団はリアム様が騎士団長を務める、もっとも人気の騎士団だ。
「運が良かっただけです……」
なんて誤魔化すように言うけれど、運だけで入れるような騎士団じゃない。
「剣はいつから習っているのですか?」
「……習ったことない」
「本当に?」
話せば話すほど興味が湧いてくる。小柄で童顔、それでいて騎士団に入れるほどの剣術を身につけているのに、剣を習ったことがないなんて……。
いつもなら、そろそろ会場を抜け出して帰っている時間なのだが……本当は帰したくない。
「そろそろ、出られますか?」
「あ、はい。もう帰りたいです」
やはり、無理矢理はいけないか……。
「会場に戻らずに帰れますので、こちらからどうぞ」
エントランスに直接つながっているドアを案内した。
チラチラと俺を見上げる視線を感じている。きっと俺からも見てしまえば、また俯いてしまうだろう。
軽く会釈をしただけで飛び出すようにホテルを後にした。
足早に帰るルイさんの背中を見送った。
3
お気に入りに追加
1,489
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる