【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
53 / 78
spin-offージェイクと騎士ー

1

しおりを挟む
 目を覚ました時、医務室のベッドの上だった。発情Ωの女客を連れてきた時の記憶がすぐに蘇った。

 先生の姿が霞んで見える。

「……た? ……うぶ?」

 先生が何かを言っているみたいだけど、まだ頭がぼんやりして聞き取れない。

 そういえば、俺はなんでこんなところにいるんだ?

 今日は確か、パーティー会場の助っ人で働いてて……。

 そうだ! リアム様に発情して、ジェイクが助けてくれたんだった!!

 ジェイクはあれからどうなったんだろう。パーティーは無事終わったのだろうか。

 はぁ。明日は料理長に怒られるんだろうな。

 怒られて終わりならまだいい。次に住み込みで働かせてもらえるところがすぐに見つかればいいんだけど……。

「大丈夫?」

「あっ、はい」

 医務室の先生の声がようやくはっきりと聞こえた。

 先生は初老くらいの女性だが、小柄で大人しそうな見た目とは裏腹に、活発で身のこなしが軽い。しかも力も強い。

 俺が連れてきた女性も腕を力付くで固定して抑制剤の注射を打っていた。

 きっと俺のことも一人でさっさと治療したのだろう。

「あの、俺どのくらい寝てたんですか?」

「そうね、一晩ぐっすり寝たってところじゃない?」

「え? もう朝なんですか?」

「そうよ。何か急ぎの用事でも?」

「早く厨房に行かないと!! 料理長に怒られる!!」

 慌ててベッドから飛び降り、飛び出そうとすると、床に足をついた流れで膝の力が抜けそのままへたり込んだ。

「あらあら、急に動いちゃダメよ! ほら、横になって!!」

 自分よりも小柄な先生に体を支えてもらってベッドに戻る。

「昨日のホールが忙しすぎて倒れたってことにしてあるから。私からも3日ほど休まないといけないって話つけてるから。仕事の心配はしなくていいわよ」

 ぐいぐいと俺の体をベッドに押さえつけながら先生が言った。

「あの、ありがとう」

 休めるのはありがたいが、これは料理長に俺がΩってバレたんだよな。

 自業自得とは言え、ショックは大きい。

「あの、三日間ってここで寝れるってこと?」

「ああ、まぁベッドが足りなくなることはないからいいわよ。でも自分の部屋の方がリラックスできるんじゃないの?」

「いや、でももう……」

 自分の部屋なんて残ってるのか……。

 βしか従業員になれないというルールがあるこのホテルで、Ωとバレてしまえばおしまいだ。

 せめてこのまま誰にも会わずに……。

「別に、あなたがΩなんて言ってないわよ」

「えっ? なんで? だって、このホテルは……」

「まあね、それはそうなんだけど。昨日あなたのヒートを知らせてくれた従業員に頼まれたのよ。Ωっていうことは誰にも言わないでくださいって」

「ジェイクが……」

 あんなことをしてしまったのに。どこまで優しいやつなんだ!!

 熱くなった目頭を腕で拭う。

 また会えたらお礼を言おう。まあ、会えることなんてないかもしれないけどな。

 先生に甘えて、本当に三日間を医務室で寝て過ごした。

 先生は抑制剤を持たせてくれた。一番軽い、副作用もほとんどないやつだから、毎日飲みなさいって笑顔で怒られた。





☆☆☆☆☆☆☆☆

過去作にもオメガバース作品があります。

『転生したら淫紋が刻まれていたΩの俺~運命の番は闇堕ち王子~』
『家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた優美なαが出会い愛を知る』

こちらも是非お楽しみください。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

処理中です...