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本編

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 一晩を衣装部屋で過ごした。

 目が覚めると、ふわふわのブランケットに包まっていた。俺が眠っている間にリアム様が掛けてくれたのだろう。

 リアム様だから、もしかすると俺が眠ってる間にベッドに移動させるかもしれないと思っていたが、その辺は俺の気持ちを優先してくれたようだった。

 目を開けた視線の先、ドアの前でリアム様が座って眠っていた。

 (まさか……リアム様もここで寝たというのか?)

 体を起こそうとしたが、リアム様が僅かに動いた気がして慌てて寝たふりをした。

 目を閉じている先で、リアム様が立ち上がる音を感じた。ゆっくりと近づいてくる。

 うっかり目を開けないように、ぎゅっと閉じた。

「マヒロ、寝ている……か……」

 俺が寝ていたら直ぐに出ていくかと思っていたが、リアム様は真ん前に腰を下ろした。

 長い指が髪を撫でる。

 不覚にも心地よい。

 硬い床で一晩寝たから、肩やら腰やらアチコチが痛い。それでもあの状況ではここ以外のどこでだって眠れなかっただろう。

 泣き過ぎた目は、閉じていても違和感を感じるほどに乾燥している。

 寝返りを打って、リアム様に背を向けた。

 壁と向き合うと、目を薄らと開けてみる。

 背後にリアム様の陰を感じるが、俺が寝返ったことで髪を撫でていた手が行き場を失い、ゆっくりと引っ込めていた。

 俺自身、昨日怒鳴ったことは反省している。

 あの時、リアム様の話を聞いていれば何かが違ったのだろうか。

 とてもそんな風には思えないが。

 でも、冷静になった今でも本当の話を聞くのは怖い。


 どちらからも喋らない時間だけが過ぎていく。


 しかし、リアム様は俺みたいに暇ではない。やがて仕事に行く時間が来たようだ。

「マヒロ、昨日から何も食べていないだろう? 食事を運んであるから、私が部屋を出たあと食べるといい。そして、頼むからベッドで眠ってくれ。あと……昨日の誤解を解きたい。仕事帰ったら、話を聞いてほしい」

 じゃあ———と言うと静かに立ち上がり、そっと衣装部屋から出ていった。

 中が暗くならないように、ドアはわざと開けられていた。

 これじゃ、俺が悪いみたいじゃないか。

 モヤモヤした気持ちが拭えない。

 自分がどうして欲しかったのさえ分からない。

 床を伝うリアム様の足音もすぐに消えてしまう。

 ただ悔しくて、どうしようもない感情が溢れて、声を殺してまた泣いた。

 どのくらいの時間をここで過ごしたのかは分からないが、ようやく衣装部屋を出た時、既に準備されていた朝食のパンは硬くなっていた。

 食欲もなく、ヤギのミルクに手を伸ばす。

 俺が好きだと分かって準備してくれていたのだろう。

 食事はこれが限界だった。

 シャワールームへ行ってみると、示し合わせたように俺のサイズの着替えが準備されていた。

 まるで俺の行動を全てを把握しているようだ。

 頭からシャワーを浴び、自分がどうするべきかを考えようとはしたものの、思考が完全に停止している。   

 ただ呆然とした時間が過ぎるだけだった。

 ジェイクなら、こういう時どうしただろうか。

 フッとジェイクの存在を思い出す。

 シャワーを止め、足元に視線を落とした。

 目を閉じれば、ジェイクの笑顔が思い浮かぶ。

「なあ、ジェイク。俺はどうすればいい?」

 近くにいれば、相談できるのに……。





 
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