29 / 78
本編
29
しおりを挟む
ホテルを出る時に、ジェイクが見送りに来てくれた。
五日間はホテルで過ごすと思っていたが、予定よりもだいぶ早く出発する運びとなり、慌てて会いに来たそうだ。どこまでもいい奴だな、と思う。
番になった報告をすると、一瞬目を見開き、その後すぐニッコリと微笑んで「おめでとう」と言ってくれた。
「これからラミレス邸まで?」
「ああ、そうだ。君には随分世話になった。礼を言う」
「いえ、仕事ですので」
ジェイクは俺たちが番になったことは誰にも言わないから安心していいよ、と言う。
「マヒロ、またいつでも遊びにおいで」
「ジェイク、色々全部ありがとう。お前がいてくれて本当によかった」
とんでもない。と首を横に振る。
「さあ、乗って……」
ジェイクと握手を交わすと、リアム様に促され馬車へ乗り込んだ。
今日の馬車はカナリ広い。昨日乗った馬車とはランクが違う。
黒塗りのボディーに金ピカの装飾が施され、ドアには何かの紋章がデカデカと付いている。昨日乗ったのにはドアに小さな窓が付いているだけだったが、これには大きなガラス張りの窓があり、とても開放的だ。
まるで、おとぎ話のお姫様にでもなったかのような気分になる。
リアム様は優雅に街の様子を眺めている。
時折、こちらに手を振ってくる住人に手を振って応えていた。
やはり有名人なんだ。と感心して、俺は移動中ずっとリアム様を観察していた。
リラックスしているだろうに、背筋はピンと伸びていて、手の振り方なんかも気品溢れている……ように感じる。
業務用であろう笑顔だって、一般人とは違う気高さを醸し出している……気がする。
街の人はみんな嬉しそうにリアム様を見ていた。向かい合って座っている俺には誰も興味がないようで、誰とも目が合わなかった。
みんなリアム様に気づいて欲しくて一生懸命なのだ。
これが騎士団長の威厳というやつか。ホテルの中だけでは分からなかった、全く違う表情を垣間見ることができた。
やがて馬車は高い塀に沿って進む。どこまで続くんだろう……と思うほど長い真っ白な塀には、合間合間にロートアイアンのフェンスになっている部分があり、そこから中を伺うことができた。
敷地の中は度肝を抜かれるほどの豪邸と、緑豊かな庭には噴水も見えた。
(噴水とかあるんだ!?)
凄すぎる。どう見ても大金持ちの屋敷だ。
噂には聞いていたが、想像以上にゴージャスな家だった。
こんなの前世だとネットでしか見たことがない。生活感のない外観は、本当に人が住んでいるのかと不思議に思ってしまう。
塀沿いのずっと向こうに視線を送ると、人が立っているのが見える。
きっとあそこが門だろう。
「マヒロ、もうすぐ我が家だ」
街を離れた頃から無口だったリアム様が口を開く。
「え? 家なんて……どこにあるの?」
キョロキョロと辺りを見渡しても、豪邸の周辺にはなにもない。
馬車はスピードを落とし、この豪邸の門の前で停まった。
「待って!! まさか、リアム様の家って!!! ここですのか!?」
ビックリしすぎて声が裏返ってしまった。
門番が重いロートアイアンの門を両側へ開けていく。
完全に門が開くと、また前進し始めた。間違いなく馬車はこの豪邸の敷地内へと進んでいく。
何かの間違いではないのだろうか。
騎士団長ってこんな凄い家に住んでいるのか。
あんぐりと開いた口が塞がらない。
そんな俺の心情は無視して、馬車は滑らかな石畳の上を進み、噴水に沿って迂回し、その向こう側にある玄関の前で停まった。
「さあ、着いた」
馬車の扉が開かれた。
五日間はホテルで過ごすと思っていたが、予定よりもだいぶ早く出発する運びとなり、慌てて会いに来たそうだ。どこまでもいい奴だな、と思う。
番になった報告をすると、一瞬目を見開き、その後すぐニッコリと微笑んで「おめでとう」と言ってくれた。
「これからラミレス邸まで?」
「ああ、そうだ。君には随分世話になった。礼を言う」
「いえ、仕事ですので」
ジェイクは俺たちが番になったことは誰にも言わないから安心していいよ、と言う。
「マヒロ、またいつでも遊びにおいで」
「ジェイク、色々全部ありがとう。お前がいてくれて本当によかった」
とんでもない。と首を横に振る。
「さあ、乗って……」
ジェイクと握手を交わすと、リアム様に促され馬車へ乗り込んだ。
今日の馬車はカナリ広い。昨日乗った馬車とはランクが違う。
黒塗りのボディーに金ピカの装飾が施され、ドアには何かの紋章がデカデカと付いている。昨日乗ったのにはドアに小さな窓が付いているだけだったが、これには大きなガラス張りの窓があり、とても開放的だ。
まるで、おとぎ話のお姫様にでもなったかのような気分になる。
リアム様は優雅に街の様子を眺めている。
時折、こちらに手を振ってくる住人に手を振って応えていた。
やはり有名人なんだ。と感心して、俺は移動中ずっとリアム様を観察していた。
リラックスしているだろうに、背筋はピンと伸びていて、手の振り方なんかも気品溢れている……ように感じる。
業務用であろう笑顔だって、一般人とは違う気高さを醸し出している……気がする。
街の人はみんな嬉しそうにリアム様を見ていた。向かい合って座っている俺には誰も興味がないようで、誰とも目が合わなかった。
みんなリアム様に気づいて欲しくて一生懸命なのだ。
これが騎士団長の威厳というやつか。ホテルの中だけでは分からなかった、全く違う表情を垣間見ることができた。
やがて馬車は高い塀に沿って進む。どこまで続くんだろう……と思うほど長い真っ白な塀には、合間合間にロートアイアンのフェンスになっている部分があり、そこから中を伺うことができた。
敷地の中は度肝を抜かれるほどの豪邸と、緑豊かな庭には噴水も見えた。
(噴水とかあるんだ!?)
凄すぎる。どう見ても大金持ちの屋敷だ。
噂には聞いていたが、想像以上にゴージャスな家だった。
こんなの前世だとネットでしか見たことがない。生活感のない外観は、本当に人が住んでいるのかと不思議に思ってしまう。
塀沿いのずっと向こうに視線を送ると、人が立っているのが見える。
きっとあそこが門だろう。
「マヒロ、もうすぐ我が家だ」
街を離れた頃から無口だったリアム様が口を開く。
「え? 家なんて……どこにあるの?」
キョロキョロと辺りを見渡しても、豪邸の周辺にはなにもない。
馬車はスピードを落とし、この豪邸の門の前で停まった。
「待って!! まさか、リアム様の家って!!! ここですのか!?」
ビックリしすぎて声が裏返ってしまった。
門番が重いロートアイアンの門を両側へ開けていく。
完全に門が開くと、また前進し始めた。間違いなく馬車はこの豪邸の敷地内へと進んでいく。
何かの間違いではないのだろうか。
騎士団長ってこんな凄い家に住んでいるのか。
あんぐりと開いた口が塞がらない。
そんな俺の心情は無視して、馬車は滑らかな石畳の上を進み、噴水に沿って迂回し、その向こう側にある玄関の前で停まった。
「さあ、着いた」
馬車の扉が開かれた。
22
お気に入りに追加
1,489
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる