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本編

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 リアム様の歯が俺の頸にグッと食い込んだ。

 噛まれた痛みが足先にまで伝わる。

 それでもリアム様はさらに歯を食いしばって首に食い込ませた。

 子宮の中には、リアム様が迸らせた白濁の蜜がたっぷりと注がれる。

 この世界では番どころか、発情もしないまま過ごすのだろうと思っていた。それなのに、こんな凄い人が運命の番だったなんて。

 この気持ちにどんな名前をつけようか。

 ……いや、きっとどんな素晴らしい言葉でも当てはまらない。

 何とも例え用のない幸福なのだ。

 αの吐精は長く、その間に何度か痙攣するように腰を打ち付ける。

 頸からリアム様の顔が離れると二人同時にベッドへと倒れ込んだ。

「マヒロ」

 優しく名前を呼ばれる。

 リアム様が頸の歯型のところを撫でた。

「痛かったね」

「大丈夫ですます……はい……」

 本当はジンジンと鈍い痛みを感じるが、今はそれ以上に幸せだ。

 素直にそう伝えられればいいんだろうけど。

「私と番になってくれてありがとう、マヒロ」

「こっちこそ、ありがとうございます。あの……お不束者ですが、よろしくお願い致します」

 リアム様に引き寄せられ、すっぽりと包み込まれた。

「あの、変なことを言ってもいいのですか?」

「なんだ? 何でも言ってみろ」

「俺、実は違う世界から来たのです。いわゆる、転生ってやつで……。それでこの世界に生まれ変わったですけれども……」

 こんな説明が通じているのかは分からない。

 でもリアム様は俺の話を最後まで頷きながら聞いてくれた。

 前世で番がいたこと、子供を堕ろしたことも、全て打ち明けた。

 転生なんて、作り話にしても酷い。

 信じてもらえなければ、それでもいいと思っていた。

 俺のことを知ってもらいたいって思ったから言っただけだ。

 話終わったあと、リアム様は少しの間考えるように黙り込んでいた。

「マヒロ、これは私のただの想像だけど……」

「はい」

「その転生をしたときに番契約が破棄された可能性もある。でもマヒロの人格がそのまま転生してるってことを踏まえて考えると……。そのαの男とは“番えていなかった”んじゃないか?」

「え……俺……先輩の番になってなかった……?」

 リアム様にそう言われ、よくよく考えてみれば、あの日確かに俺は発情期に入りかけていた。

 でもそれでも本格的にヒートを起こしているわけではなかった。先輩から噛まれたのは、その時だけだった。

 発情期の度に乱暴されて、妊娠はしたが……。

「俺……番じゃなかった……」

 そんな風に考えたこともなかった。

 頸を噛まれたから、番になったと思い込んでいただけだったのか。オメガ性がそれほど強くなかったから、その後の発情期にも気付かなかったんまだ。

「……良かった……よか……」

 嬉しくて涙が溢れ出す。

 俺は誰のものにもなっていなかった。

「マヒロは後にも先にも私だけのものだ。誰にも渡さない」

 リアム様の腕に、いっそう力が込められた。
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