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本編
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パーティー当日。
重い足取りで会場へと向かう。場所は前と同じだ。
さすがリアム様が参加されるとあって、毎回一番広い会場が当てがわれるらしい。
客にはリアム様の気になる相手が従業員であることはバレないように、細心の注意が払われているそうだ。
もしそれが分かってしまえば、客足の遠ざかる原因になりかねない。
それを防ぐためにも、『あの日、気なる女性がいたらしい』という噂を流しているそうだ。
そのお蔭か、リアム様の出席する日が増えたと同時に、客足もよくなりホテルの売上も右肩上がりだ。とまで周りの従業員たちが噂してた。
確かに、ここ最近は特に忙しい日が多かった。
あれもリアム様が原因だったのか。
従業員たちの噂話のおかげで、事情が割とよく把握できた。
「マヒロ!!」
背後から呼び止められて振り返ると、ジェイクがこっちに手を振っている。
「ジェイク!!」
一ヶ月ぶりに見るジェイクは、相変わらず爽やかな好青年だ。
勢いで歩み寄ったものの、お互いあの時の気まずさを捨て切れてはいなかった。
「あっ、あの……元気、だった?」
「うん……ジェイクも?」
「ああ。元気だった……」
もどかしい時間が体感で数分は流れた。
「「あっ! あのさ!! あの時は! ごめん」ありがとう」
「「えっ?」」
「なんでジェイクがごめんなんて言うんだ?」
「いや、だって俺はマヒロにトラウマを与えてしまったんじゃないかって、思って……」
「なんでだよ! ジェイクには感謝しかねえよ!! ジェイクのお陰で大事にならずに済んだんだ」
「そう思ってくれてると救われるよ」
「……俺こそ、ごめん。このホテルで働いてるのに抑制剤を飲んだことがなくて。あの日も、発情したこともないから大丈夫だろうって……根拠のない自信だけで……結局迷惑かけちゃった」
ジェイクは少し悲しそうな表情をした。
「俺には、発情しないのにな」
「え? 別にジェイクにだけ発情しないんじゃないよ。誰にもしないんだ。だから、あの時パニックになっちゃって」
「……そうじゃなくて」
ジェイクが顔を寄せる。
壁際で並んでいた俺たちだから、周りの従業員たちは気にもかけていない。
それをちゃんと確認しつつ、ジェイクが俺の首元に顔を埋める。
「前の時も、こうして耳元で何度か話をした。こんなに近づいても、マヒロは発情なんてしなかった」
それなのに……。と、今度は俺の顔を見て髪に手を添える。
「リアム様の姿を見た途端、マヒロは発情した」
「いや、俺だって……したくてしたんじゃない……」
「分かってる。その気持ちも分かってる。でも、それならば俺に発情して欲しかったなって。ふふ……嫉妬しただけだ」
「ジェイク……」
そんな風に思ってくれていたなんて……。
ジェイクはどこまでもいい奴だ。
「……お、俺さ……」
つい、誰にも話していなかった事実を言う気持ちになった。
と言うよりも、ジェイクだから聞いて欲しくなったのだ。
「いたんだ。前に……番が……」
「そうなの?」
「ん……。まあ、あんまいい奴じゃなかったんだけどさ……」
転生する前……。俺がまだ高校生だった時。
親しくしていた先輩がαだった。それを知ってて連んでいた。
先輩は派手な見た目と性格で、常にオメガの彼女を何人か囲ってたし、俺のことは普通に可愛がってる後輩……という扱いをしてくれてた。
それが……。
重い足取りで会場へと向かう。場所は前と同じだ。
さすがリアム様が参加されるとあって、毎回一番広い会場が当てがわれるらしい。
客にはリアム様の気になる相手が従業員であることはバレないように、細心の注意が払われているそうだ。
もしそれが分かってしまえば、客足の遠ざかる原因になりかねない。
それを防ぐためにも、『あの日、気なる女性がいたらしい』という噂を流しているそうだ。
そのお蔭か、リアム様の出席する日が増えたと同時に、客足もよくなりホテルの売上も右肩上がりだ。とまで周りの従業員たちが噂してた。
確かに、ここ最近は特に忙しい日が多かった。
あれもリアム様が原因だったのか。
従業員たちの噂話のおかげで、事情が割とよく把握できた。
「マヒロ!!」
背後から呼び止められて振り返ると、ジェイクがこっちに手を振っている。
「ジェイク!!」
一ヶ月ぶりに見るジェイクは、相変わらず爽やかな好青年だ。
勢いで歩み寄ったものの、お互いあの時の気まずさを捨て切れてはいなかった。
「あっ、あの……元気、だった?」
「うん……ジェイクも?」
「ああ。元気だった……」
もどかしい時間が体感で数分は流れた。
「「あっ! あのさ!! あの時は! ごめん」ありがとう」
「「えっ?」」
「なんでジェイクがごめんなんて言うんだ?」
「いや、だって俺はマヒロにトラウマを与えてしまったんじゃないかって、思って……」
「なんでだよ! ジェイクには感謝しかねえよ!! ジェイクのお陰で大事にならずに済んだんだ」
「そう思ってくれてると救われるよ」
「……俺こそ、ごめん。このホテルで働いてるのに抑制剤を飲んだことがなくて。あの日も、発情したこともないから大丈夫だろうって……根拠のない自信だけで……結局迷惑かけちゃった」
ジェイクは少し悲しそうな表情をした。
「俺には、発情しないのにな」
「え? 別にジェイクにだけ発情しないんじゃないよ。誰にもしないんだ。だから、あの時パニックになっちゃって」
「……そうじゃなくて」
ジェイクが顔を寄せる。
壁際で並んでいた俺たちだから、周りの従業員たちは気にもかけていない。
それをちゃんと確認しつつ、ジェイクが俺の首元に顔を埋める。
「前の時も、こうして耳元で何度か話をした。こんなに近づいても、マヒロは発情なんてしなかった」
それなのに……。と、今度は俺の顔を見て髪に手を添える。
「リアム様の姿を見た途端、マヒロは発情した」
「いや、俺だって……したくてしたんじゃない……」
「分かってる。その気持ちも分かってる。でも、それならば俺に発情して欲しかったなって。ふふ……嫉妬しただけだ」
「ジェイク……」
そんな風に思ってくれていたなんて……。
ジェイクはどこまでもいい奴だ。
「……お、俺さ……」
つい、誰にも話していなかった事実を言う気持ちになった。
と言うよりも、ジェイクだから聞いて欲しくなったのだ。
「いたんだ。前に……番が……」
「そうなの?」
「ん……。まあ、あんまいい奴じゃなかったんだけどさ……」
転生する前……。俺がまだ高校生だった時。
親しくしていた先輩がαだった。それを知ってて連んでいた。
先輩は派手な見た目と性格で、常にオメガの彼女を何人か囲ってたし、俺のことは普通に可愛がってる後輩……という扱いをしてくれてた。
それが……。
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