【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
1 / 78
本編

1

しおりを挟む
 窮屈なジャケットの袖に腕をはめると、俺は大きくため息を漏らした。

 着なれない硬っ苦しい真っ黒のスーツは、後にも先にも今しか着ないだろう。

「おい、助っ人! そんなボサボサの頭でホールに立つなよ?」
 先輩従業員から早速お叱りを受けた。

 鏡に映った自分の顔はいまだ見慣れない。

 異世界に転生したのが……二ヶ月? 三ヶ月? まあ、数ヶ月ほど前に遡る。

 前世の記憶はあるものの、外見は全く違っていた。

 前世の俺はこんな金髪の髪ではなかった。カラーリングもしたことがない真っ黒のサラサラショートヘアーを、無理矢理オールバックに固めていた。でも転生した今、髪の長さは肩くらいまである、金髪ストレートヘアーになっていた。目はブルー……というより水色と言った方が良さそうだ。

 その上体が華奢なものだから、大体は年相応に見られない。

 二十六歳で転生したからこっちの世界でも二十六歳で通しているが、見た目だけだと、成人しているようには見えない。その辺を歩いている学生のほうがよほど大人びて見える。

 普段はこのホテルの厨房で下準備や皿洗いを任されている。転生した後、数日街を彷徨ったあげく、野垂れ死にそうになったところを助けてくれたオッサンがいた。その人の伝手で紹介してもらったのがこの仕事だった。

 忙しい厨房の雑用係で、ラフな服装しかしたことがない。

 こんな高級なホテルの厨房で、綺麗に身なりを整えているのは厨房長くらいのものだ。後は忙しく動き回れるような、着なれたラフな服装をしている料理人が殆どである。

 そんな俺がなぜ、今こんな真っ黒なスーツを着ているかというと、ホール係に欠員が出てしまったからだ。

 それで下っ端である俺を、厨房長が差し出したというわけ。

「こんなサラサラ金髪のどこがボサボサなんだよ」

 サラサラだけは前世から変わっていない。仕方なく手首に嵌めていたヘアゴムで髪を一つに束ねる。

 言われていた集合場所は今日のパーティー会場であった。

 このホテルに来てから、従業員用の部屋と厨房の行き来しかなかったから、こんな豪華なホールに入っただけで緊張してしまう。

 他の従業員に紛れて列に並んだのに、早速、姿勢を正せ! と怒鳴られた。

(おお、怖っ)

「今夜の騎士団員のパーティーはリアム・ラミレス騎士団長も参加される! 要するに、街中の女性が訪れるくらいの覚悟をしておいて丁度いい。今日は特別に、女性の入場は時間予約制になっている。チケットの確認を間違えないように!」

「「「はいっ!!」」」

 従業員が揃って返事をすると、各持ち場へと散っていく。

「君、見ない顔だね。名前はなんていうの?」

 隣に並んでいた、すらりと背の高い男性に声を掛けられた。

「タチバナマヒロ。マヒロでいいよ。普段は厨房にいるんだけど、今日は欠員が出たからってこっちに回されて……」

「ああ、助っ人に来てくれたのは君だったのか。俺はジェイク。よろしくね」

 ジェイクは見た目からして人の良さが伝わってくる。斜め分けされた黒髪はウェーブさせてサイドに流している。襟足は短く切り揃えられていて、清潔感もある。普通に話していても口角が上がり、笑えば目尻が下がる。その上人見知りもしない。

 ここの従業員はβしかいないはずなのに、ジェイクはどう見てもαにしか見えなかった。

 とにもかくにも、ジェイクが話しかけてくれたおかげで、俺はなんとか今夜のパーティーを切り抜けようという気持ちになれたのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》 歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。   ほのぼのです。よろしくお願いします。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...