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45 ★side海星★
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「———もう、俺とは別れるってこと?」
「そんなっっ!!」
「だって、そう言うことだろ? お腹には叶翔の子供がいて、俺との番はなかったことになってる。伊央は、その子を産みたい」
「そんな……話が飛び過ぎて……」
「じゃあ、伊央はどういうつもりで俺に話したんだ?」
「それは……診察の結果を……」
「伊央……」
海星はそこで言葉に詰まってしまった。
嘘をついて欲しいわけではない。伊央が悪いのではない。叶翔だって、意図的に妊娠させたのではない。分かっている。全て分かっているのだ。
それでも、これまで順調だった伊央との日々がこんな形で壊され、冷静な判断など出来る状態ではない。
高校を卒業しても伊央と共に過ごしたいと思っていた。地元を離れる目標は変わらないが、伊央さえ良ければ同じ大学を目指そうと言うつもりでいた。
入学式で、甘い匂いでオメガだと気付き、伊央は直ぐに気になる存在になった。素朴で、クラスでも特に目立つわけでもない。でも、何故か伊央しか目に入らなくなった。
自分の気持ちを自覚するのに時間はかからなかった。この人が好きだと認めた時から、どうにか話しかけられないかとタイミングを測っていた。けれど、伊央を見ていて、とある事に気がつく。伊央の視線はいつもただ一人を追っていると。それが叶翔だと言うこともすぐに気付いた。
海星はオメガの匂いを理由に伊央に近付き、利害関係を成立させ番になった。
もちろん、妹のことだって嘘ではない。どんな些細なキッカケでも良かった。こじつけでも良かった。伊央が自分の番になってくれるなら、理由になど拘らない。
頼ってくれると嬉しくて、笑ってくれると安らいだ。
これまで幾度となく自分の気持ちを伝えてきたが、伊央の心の中の叶翔は居座り続けていた。それでも番にさえなれば、叶翔への想いも徐々に忘れてくれるのではないかと期待していたのだ。
誰よりも側にいる存在になれば、いつの日か本当の番になれると信じてきた。
まだ、自分たちは始まったばかりだった。
今、自分が興奮しているのを自覚している。冷静にならなければ、伊央を怖がらせてしまう。
しかし何度繰り返し深呼吸をしても、興奮が冷める気配はない。
行き場のない感情は渦を巻き、海星の全てを飲み込んでいく。
いっそこのまま消えてしまえば楽になれるのかもしれないなんて、自虐的な考えさえ浮かんでくる。
目の前で俯いている伊央が、愛おしくて仕方ない。
なぜ神様は、残酷なまでに二人を引き離そうとするのか。
———沈黙は、何も解決してくれない。
この重い空気を変えるのは、海星しかいない。伊央は完全に怯えている。海星に……。
目の前で小さく丸まり膝を抱え、震えている伊央にかける言葉が……見つからない……。
海星はそっと手を伸ばした。俯いた伊央の頬にそっと触れると、体が大きく跳ねるほど驚いた。大きな眸を海星に向け、その虹彩が震えているように感じた。
これではアルファ失格だ。海星は自分に失念する。こんな風にしたかったのではない。さっきまでの怒りは一転し、焦りが襲う。
「ごめん、脅かすつもりじゃない……取り乱した。反省してる」
静かに話す。
「伊央だって、まだ受け入れられないことが沢山あるだろうに。俺がこんなんでどうすんだよな」
「———もう、怒ってない?」
「怒ってないよ」
頬に触れていた手を背中に回し、引き寄せた。
小さく丸まったまま、海星にすっぽりと収まった伊央を抱きしめた。
「———怒ってない。大丈夫」
大丈夫……は、きっと自分に言い聞かせた。そんな風に海星は思った。
伊央は静かに声を漏らしながら泣き始めてしまう。気が抜けたのと、これからの不安。いろんな感情が溢れたのだろうと思った。
伊央を抱きしめたまま、海星はスマホを手に取り電話をかける。
相手は、叶翔だ。
「そんなっっ!!」
「だって、そう言うことだろ? お腹には叶翔の子供がいて、俺との番はなかったことになってる。伊央は、その子を産みたい」
「そんな……話が飛び過ぎて……」
「じゃあ、伊央はどういうつもりで俺に話したんだ?」
「それは……診察の結果を……」
「伊央……」
海星はそこで言葉に詰まってしまった。
嘘をついて欲しいわけではない。伊央が悪いのではない。叶翔だって、意図的に妊娠させたのではない。分かっている。全て分かっているのだ。
それでも、これまで順調だった伊央との日々がこんな形で壊され、冷静な判断など出来る状態ではない。
高校を卒業しても伊央と共に過ごしたいと思っていた。地元を離れる目標は変わらないが、伊央さえ良ければ同じ大学を目指そうと言うつもりでいた。
入学式で、甘い匂いでオメガだと気付き、伊央は直ぐに気になる存在になった。素朴で、クラスでも特に目立つわけでもない。でも、何故か伊央しか目に入らなくなった。
自分の気持ちを自覚するのに時間はかからなかった。この人が好きだと認めた時から、どうにか話しかけられないかとタイミングを測っていた。けれど、伊央を見ていて、とある事に気がつく。伊央の視線はいつもただ一人を追っていると。それが叶翔だと言うこともすぐに気付いた。
海星はオメガの匂いを理由に伊央に近付き、利害関係を成立させ番になった。
もちろん、妹のことだって嘘ではない。どんな些細なキッカケでも良かった。こじつけでも良かった。伊央が自分の番になってくれるなら、理由になど拘らない。
頼ってくれると嬉しくて、笑ってくれると安らいだ。
これまで幾度となく自分の気持ちを伝えてきたが、伊央の心の中の叶翔は居座り続けていた。それでも番にさえなれば、叶翔への想いも徐々に忘れてくれるのではないかと期待していたのだ。
誰よりも側にいる存在になれば、いつの日か本当の番になれると信じてきた。
まだ、自分たちは始まったばかりだった。
今、自分が興奮しているのを自覚している。冷静にならなければ、伊央を怖がらせてしまう。
しかし何度繰り返し深呼吸をしても、興奮が冷める気配はない。
行き場のない感情は渦を巻き、海星の全てを飲み込んでいく。
いっそこのまま消えてしまえば楽になれるのかもしれないなんて、自虐的な考えさえ浮かんでくる。
目の前で俯いている伊央が、愛おしくて仕方ない。
なぜ神様は、残酷なまでに二人を引き離そうとするのか。
———沈黙は、何も解決してくれない。
この重い空気を変えるのは、海星しかいない。伊央は完全に怯えている。海星に……。
目の前で小さく丸まり膝を抱え、震えている伊央にかける言葉が……見つからない……。
海星はそっと手を伸ばした。俯いた伊央の頬にそっと触れると、体が大きく跳ねるほど驚いた。大きな眸を海星に向け、その虹彩が震えているように感じた。
これではアルファ失格だ。海星は自分に失念する。こんな風にしたかったのではない。さっきまでの怒りは一転し、焦りが襲う。
「ごめん、脅かすつもりじゃない……取り乱した。反省してる」
静かに話す。
「伊央だって、まだ受け入れられないことが沢山あるだろうに。俺がこんなんでどうすんだよな」
「———もう、怒ってない?」
「怒ってないよ」
頬に触れていた手を背中に回し、引き寄せた。
小さく丸まったまま、海星にすっぽりと収まった伊央を抱きしめた。
「———怒ってない。大丈夫」
大丈夫……は、きっと自分に言い聞かせた。そんな風に海星は思った。
伊央は静かに声を漏らしながら泣き始めてしまう。気が抜けたのと、これからの不安。いろんな感情が溢れたのだろうと思った。
伊央を抱きしめたまま、海星はスマホを手に取り電話をかける。
相手は、叶翔だ。
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