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ハイタッチをした手をそのまま握りしめ、叶翔は伊央を引き寄せた。
「何があった? 俺の治療の所為? もしかして、伊央が体調悪いのか?」
突然の変化に、動揺を隠そうともしない。風紀委員の人たちの視線が叶翔と伊央に集まってしまったので、伊央は叶翔を校門を入ってすぐ脇の花壇に連れて行った。
叶翔は誰よりも場の空気を読み取り気遣う。それがこの慌てぶりだ。帰ってからゆっくり話そうと思っていたが、それは無理だと判断した。今、話さなければならない。
「あのね、僕、叶翔に最低なことしたでしょ?」
「伊央が俺に? なんもしてないけど」
叶翔は本当に何か分からないと顔を傾ける。
「喧嘩で距離が置いたのは、別に伊央だけが悪いんじゃないじゃん。俺だって子供みたいにキレたし、反省してるのは俺だって同じ」
「そうじゃなくて……その……図書室で、僕のせいで叶翔が獣化してしまって。辛い治療をする羽目になってしまって」
「ストップ!! それを言うなら、謝るのは俺のほうだろ? あの時はお互い自我を失ってた。それでも身体に負担があるのは伊央じゃないか」
「でも結果的に僕には異常はなくて、叶翔がっ」
叶翔は咄嗟に伊央の口を指で押さえた。
「伊央が悪いんじゃねぇよ。俺が、悪い。伊央をオメガだって知っててやったんだ。伊央のフェロモンを引き出したのは俺だよ。特殊性って、先生から聞いただろ? 今回の件で病院で言われた。オメガのヒートをコントロール出来るってね」
「そんな……」
保健の先生の顔が浮かぶ。先生の予想通りだった。
それでも叶翔自身、当時その自覚があったわけではない。ならばそれも本能が働いたと言うのが正解だ。ならば、やはり叶翔は悪くない。
「でも、なんでそれが伊央の匂いが消えたのと関係あるんだ?」
叶翔が話を進める。伊央に反省などする要素は僅かにもないと言い、自分が気になっているのはそこではないと付け加えた。
「海星君と、番になったんだ。叶翔とこれからも一緒にいるために」
「はぁ!!?」
伊央の発言に、叶翔はこれ以上開かないと言うところまで目を見開いた。
「海星と……俺のため……何? わけ分かんないんだけど」
「最初から説明する。今のでは言葉足らず過ぎて混乱させるだけだから。聞いてくれる?」
叶翔は戸惑いながらも頷いた。
「実は、入学してすぐの頃から番になりたいって言われてたんだ。僕はその頃オメガになったばかりで動揺してたし、叶翔とも喧嘩しちゃってて……」
「海星の話に流されたってわけか?」
「違くて。海星くんの妹もオメガで、バース性を発症してからも一緒に暮らせるために一番最善の方法を考えていた。そして僕もオメガでもアルファである叶翔と一緒にいられる方法を考えていた。それで」
「おい、待てよ。それって……」
「僕も番を持てば学校で発情しても海星君にしか匂いが届かないし、叶翔がフェロモンに当てられることもない。これまで通り一緒に遊んだりもできる。海星君は、高校卒業と共に地元を離れるから、それまでの間だけでもいいんだって。せめてそれまで家族みんなで過ごせたらって」
「お前ら、お互いの利害だけで番になったって言うのかよ……」
叶翔はさらに混乱し始めた。
その時、背後から伊央たちに近寄る影。海星だ。
「伊央、叶翔、おはよう。こんな所で立ち話?」
話しかけながら伊央と叶翔の顔色を見て、なんとなく状況を察した海星は、伊央の隣に立った。
「———番になった話かな?」
「何があった? 俺の治療の所為? もしかして、伊央が体調悪いのか?」
突然の変化に、動揺を隠そうともしない。風紀委員の人たちの視線が叶翔と伊央に集まってしまったので、伊央は叶翔を校門を入ってすぐ脇の花壇に連れて行った。
叶翔は誰よりも場の空気を読み取り気遣う。それがこの慌てぶりだ。帰ってからゆっくり話そうと思っていたが、それは無理だと判断した。今、話さなければならない。
「あのね、僕、叶翔に最低なことしたでしょ?」
「伊央が俺に? なんもしてないけど」
叶翔は本当に何か分からないと顔を傾ける。
「喧嘩で距離が置いたのは、別に伊央だけが悪いんじゃないじゃん。俺だって子供みたいにキレたし、反省してるのは俺だって同じ」
「そうじゃなくて……その……図書室で、僕のせいで叶翔が獣化してしまって。辛い治療をする羽目になってしまって」
「ストップ!! それを言うなら、謝るのは俺のほうだろ? あの時はお互い自我を失ってた。それでも身体に負担があるのは伊央じゃないか」
「でも結果的に僕には異常はなくて、叶翔がっ」
叶翔は咄嗟に伊央の口を指で押さえた。
「伊央が悪いんじゃねぇよ。俺が、悪い。伊央をオメガだって知っててやったんだ。伊央のフェロモンを引き出したのは俺だよ。特殊性って、先生から聞いただろ? 今回の件で病院で言われた。オメガのヒートをコントロール出来るってね」
「そんな……」
保健の先生の顔が浮かぶ。先生の予想通りだった。
それでも叶翔自身、当時その自覚があったわけではない。ならばそれも本能が働いたと言うのが正解だ。ならば、やはり叶翔は悪くない。
「でも、なんでそれが伊央の匂いが消えたのと関係あるんだ?」
叶翔が話を進める。伊央に反省などする要素は僅かにもないと言い、自分が気になっているのはそこではないと付け加えた。
「海星君と、番になったんだ。叶翔とこれからも一緒にいるために」
「はぁ!!?」
伊央の発言に、叶翔はこれ以上開かないと言うところまで目を見開いた。
「海星と……俺のため……何? わけ分かんないんだけど」
「最初から説明する。今のでは言葉足らず過ぎて混乱させるだけだから。聞いてくれる?」
叶翔は戸惑いながらも頷いた。
「実は、入学してすぐの頃から番になりたいって言われてたんだ。僕はその頃オメガになったばかりで動揺してたし、叶翔とも喧嘩しちゃってて……」
「海星の話に流されたってわけか?」
「違くて。海星くんの妹もオメガで、バース性を発症してからも一緒に暮らせるために一番最善の方法を考えていた。そして僕もオメガでもアルファである叶翔と一緒にいられる方法を考えていた。それで」
「おい、待てよ。それって……」
「僕も番を持てば学校で発情しても海星君にしか匂いが届かないし、叶翔がフェロモンに当てられることもない。これまで通り一緒に遊んだりもできる。海星君は、高校卒業と共に地元を離れるから、それまでの間だけでもいいんだって。せめてそれまで家族みんなで過ごせたらって」
「お前ら、お互いの利害だけで番になったって言うのかよ……」
叶翔はさらに混乱し始めた。
その時、背後から伊央たちに近寄る影。海星だ。
「伊央、叶翔、おはよう。こんな所で立ち話?」
話しかけながら伊央と叶翔の顔色を見て、なんとなく状況を察した海星は、伊央の隣に立った。
「———番になった話かな?」
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