【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
24 / 56

24

しおりを挟む
「伊央は本当にそれで後悔しない?」
 海星が尋ねる。海星からすれば断る理由がない。
 元々は海星の方から伊央に番になってほしいと頼んでいた。それが完全なる利害関係でもいいと。高校を卒業するまでの間だけでもいいと言ったのは海星だった。

 海星は伊央と一緒に過ごすようになってから、本当の恋愛の意味で好意を寄せるようになっていたから、伊央の恋心が叶翔に向いたままでも受け入れる覚悟はあった。
 番になれば、少なからず伊央の匂いを独り占めできるし、このままずっと一緒にいられる可能性も生まれる。

「僕にはそれ以外に、問題の解決策が考えつかないんだ。海星君を利用するのは心苦しいけど」
「それは伊央が気にすることじゃない。本を正せば、利害関係だけで番になろうと話を持ちかけたのは俺の方だ。体の関係になるのも含めて、俺は伊央ならいいと思った。だからこれまで優しくしたのだって、全ての行動に下心があったと捉えてくれて構わない。それは本当だから。俺は伊央に選んで欲しくてスゲー頑張ったから、この気持ちが届いたならこれ以上嬉しいことはないよ。まぁ、今では普通に好きだしな」

 海星がさらりとこんなことを言うのを、伊央は嬉しいと同時に羨ましい気持ちもあった。
 自分がこんな風に叶翔に言えていたら、海星に迷惑をかけずに済んだ話なのだ。それは自分でも分かっている。自分が妙なところで対応できなくて、深読みして悩みすぎて逃げたくなる。自分自身が大嫌いな部分であった。

 でも海星は出会った頃からそんな伊央のマイナスなところもフォローしてくれる。
 叶翔に対しての好きと全く同じ種類かどうかは、未だに分からないでいるが、悠馬への好きと海星への好きは明らかに違うということには気付いた。要するに、友達以上の気持ちを海星に対して抱いているのは嘘ではない。

 伊央とて、アルファなら誰でもいいわけでない。

「僕も、話しかけてくれたアルファが海星くんで良かったと思ってる。海星君がいなかったら、初めての発情期も乗り越えられなかったと思うし……」

 伊央は自分の精一杯を海星に伝えた。「好きだ」とは、言っていいのか分からないし、恥ずかしくて、どちらにせよ伊央に「好き」と言う言葉を口にするのは、かなりハードルが高い。
 なかなか海星のようにはなれないと伊央は思った。

「番になるからには、俺たちは恋人になるべきだ」
 海星から言われ、伊央もやっと自分たちの関係に名前ができたと安堵する。
「うん、海星君ならいい」と言うと、海星は「ありがとう」と返した。

「伊央の心が、ずっと叶翔に向いているのは分かってる。でも、高校の三年間だけは伊央の時間を俺にください。その後はまた伊央がどうしたいか、考えればいい」

「うん、僕も海星君だから番になるって決めたのは分かってほしい。これを他のアルファから言われても応じなかった。誰よりも海星君を信じてるし、これからも頼りたい。叶翔には言えないことも、海星君になら打ち明けられる。親友よりも信頼してる。まだ恋愛の感情なのかは分からないけど、唯一無二なのは本当だから」

「それだけで、十分だよ。伊央、次の発情期に番になろうね」
 海星は病院の後は寄り道せず、伊央の家まで送った。

「今日は部屋には上がらずに帰るよ。俺がいたら寝られないだろう? 夜に眠れなかった分、少しでも体を休めた方がいい」

「別に異常なかったから大丈夫だけど、本当に眠いからそうするね」

「あのさ、夏休みに入ったら、俺の家で過ごさない?」

「いいの? 嬉しい。是非行かせてもらうよ」

 海星がいるだけで、何もかもがいい方向に向かっている気になれる。
 伊央はワクワクする気持ちを考えながら、自室へと戻った。
 ベッドに横になると、すぐにうつらうつらとし始める。

 自分の気持ちを伝えるのは難しいけれど、ちゃんと伝わって安心した。
 これからは、叶翔に対しても同じように伝えられるようになりたいと思った伊央だった。


 こうして、夏休みに入った。
 叶翔からはあれからメッセージや電話でのやり取りをするようになったが、実際に会うのは難しい状況となった。
 叶翔に後遺症が見られたからだ。

 図書館で獣化した叶翔は、特殊性アルファということもあり、他のアルファとは性質が違う。
 アルファ性を暴走させてしまったことで後遺症が残る可能性が出てきた叶翔は、経過観察のため通院を続けていた。
 普段の生活で違和感はないと話していたが、血液検査の結果が毎回安定していないのが医者としては気がかりだったようだ。

『もしかすると、近くに相性のいいオメガがいるだけで、また獣化する可能性を捨てきれない。そのオメガの男の子とは距離を置いてほしい』と医者から言われてしまったのだと、電話越しに話す。

『また伊央と一緒にいたいと思った矢先にこれだよ。でも、また電話できるようになっただけでも良かったけどさ』
 分かりやすく落胆している叶翔だったが、伊央は内心ほっとしていた。
 
 夏休みに入ったということもあり、教室で側に寄ることもない。

『ヒートを起こしたオメガや、相性のいいオメガに対しては危険だという心構えが必要だが、それ以外は普段通り生活できるから』
 医者からそう言われたそうだ。

『そんなこと言っても、俺の日常って、殆ど伊央じゃん? 既に日常じゃなくなってるんだけど』
「仕方ないよ。また取り返しのつかない事態になれば、今度こそ立ち直れなくなっちゃう」
『まぁな。俺だって、もう伊央に怖い思いさせたくねぇし。こうして話せるようになっただけでも伊央を感じられる。いっそ、電話越しに伊央の匂いが届けばいいのに』
「それじゃあ、距離を置いてる意味ないでしょう」

 二人して笑った。
 今はこの距離感が心地いい。
 顔を見ると、癖のように緊張してしまう。オメガの匂いが漏れていないか、ヒートを起こさないか、そればかりが気になって、きっと叶翔と一緒にいても心ここに在らずなのは、自分で容易く想像できる。

『血液検査が安定してくれれば問題ないんだけどな』
「治療は薬だけ?」
『そう。これがまた副作用が酷くてさ。胃は痛いし眠気もきついし、まじで夏休みも台無しだよ。何もできねぇ』
「今は、大丈夫なの?」
『ベッドに横になってる。薬飲んだ後は大体こんな感じ。でもそんなずっとも眠れないしさ、伊央と話してると気が紛れるからいい』

 叶翔は自分がそんな状態になっても、伊央の体に何事もなくて良かったと言ってくれる。
 
 もし、自分からオメガの匂いが消えれば……。
 叶翔とまた友達から始めるために海星と番になる約束をした。
 番が成立すれば、叶翔も気遣う必要がなくなるし、伊央自身も余計なことを考えずに会いに行ける。

 叶翔の話を聞いて、改めて早く海星と番になって叶翔の不安要素を消したいと思った。

 初めての発情期から考えて、次は夏休み中に始まるのではないかと予測している。
 二学期までに番になれれば……。
 そう願っていた伊央の希望はこの後叶えられることとなる。

 しかし伊央の体に異変が表れるのは、もっともっと先の話だったのだ。この時は、まだ知る由もなかったのだが……。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜

MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね? 前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです! 後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛 ※独自のオメガバース設定有り

処理中です...