【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。

亜沙美多郎

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「———海星くん」
 海星は学校を早退して家まで来てくれたのだ。どかどかと階段を登ってくる足音が聞こえる。昼近くになっていた。何時間も自慰をしていたことに驚いてしまったが、それよりもやはり海星は来てくれたという喜びが勝る。

 海星と長い時間を過ごすようになってから、自宅の合鍵を海星に預けてい他のだ。これは本当に良かったと思った。
 これも海星からの提案で、「もしも発情期が始まれば、玄関に鍵をかけておかないと危険だ。でもそれでは俺が助けてあげられないかもしれない。だから合鍵をもらえないだろうか」と言われたのは、つい先週のことだった。

 ずっと気になっていたのだと、その時海星が話していたのを思い出す。オメガの発情期は概ね三ヶ月毎の場合が多く、それだと伊央も来月には初めての発情期を経験するかもしれないと、伊央よりも真剣に考えてくれていた。
 結果的に海星が思っていたよりも一ヶ月も早く伊央の発情期が来てしまい、自宅の鍵を渡していたことにホッとしたのは伊央も海星も同じであった。

 海星は部屋のドアを開けるなり、鼻をキツく摘む。オメガのフェロモンはそれほどまでに強いらしい。元々、伊央自身が突然変異していることに気付いていない時から、オメガの匂いを察していた海星だ。本当の発情期の匂いは、その数倍も強いだろう。

 海星の目の前で伊央が淫らな姿でベッドに横たわっている。部屋中オメガの匂いと、吐精したツンと酸味のある匂いを漂わせ、これでアルファを誘惑するつもりはないと言ったとしても、なんの説得力も持たない状況だった。

 それでも海星は鞄を床に落とすと、伊央に近付き背後から抱きしめる。

「絶対に襲わない。手伝ってやるだけだから」
 そう言って、屹立を扱いてくれた。大きな手で伊央の可愛らしい屹立を包みこむ。それを上下に律動させた。自分でするより数倍気持ちいい。

「あっ、んっ……海星く……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
 そう言うと、今度は孔に這入っている伊央の指をそっと抜き、代わりに自分の指を突っ込んだ。
「ひゃんっ……奥、当たってる……」
 自分では届かなかった一番疼く場所に、海星の指は簡単に到達した。内壁を擦られるたびに腰が痙攣を起こす。
 耳にかかる海星の荒い呼吸も、やけに官能的に感じた。

「や、いく……いっちゃうぅぅ~~!!」
「いいよ、イって。伊央」
「んぁぁああっっ!!」
 伊央は海星の手に白濁を飛沫させた。それでもまだ伊央のヒートが治ったわけではない。アルファが現れたことで、更に求めてしまっている。

 海星はそれに応えるように孔と屹立を弄る手を止めなかった。
「何回もイっていいから」
「でも、手を汚してしまった」
「気にするな。今は自分のことだけ考えろ」
「んっ、ふぅ、ん……」
「気持ちいい?」
「気持ちい……気持ちいいよぅーーー!!」

 気付けば伊央は四つん這いの体勢になり、海星はその上から覆い被さって前と後ろを同時に責めている。あまりの快楽に伊央は自ら腰を揺すっていた。
 腰に海星の固く怒張したものが当たっている。いっそこれを挿れて欲しいとすら願ってしまう。オメガの本能が、アルファの精を渇望している。
 それでも海星のお陰で、いきなり一線を越えずにヒートを収めることができた。

「———治ったようだな」
「ごめんね。こんなこと頼んで」
「なんで? 嬉しいよ。俺を頼ってくれて」
 海星と共にベッドに倒れ込むと、向き合いになり、伊央の頭を撫でてくれた。
 とても心地いい。
 恥ずかしい姿を見られてしまったが、それでも海星に連絡して良かったと思った。

「恥ずかしい姿でもなんでも見せてよ。全部、受け止めるから」
 海星の言葉はいつも伊央を救ってくれる。それを手放しに喜べないのは、頭のどこかで叶翔のことが忘れられていないからだ。
 
 海星の胸に顔を埋める。オメガになって初めての発情期、一人でなんとかしようとしていた自分が情けない。こんな状況になり、オメガは一人では生きていけないことを思い知らされた。悔しくて涙が止まらない。

 それに今日は来てくれた海星も、一週間続くと言われる発情期をずっと付き合ってもらうわけにもいかない。
 学校も、オメガの発情期は欠席も免除されるが、アルファに関しては番以外は認められない。もしかすると、海星はそこまで見込んで番になりたいと言ったのかもしれなかった。
 彼ならそれも十分に有り得る。

 泣きながらも頭をフル回転させ、色んなことを考えてしまう。
 自分がどうするべきか。このまま海星を頼っていいのか。叶翔に対する好きと、海星に対する好きが同じ種類のものなのか。
 未だに答えを出していない自分を問い詰める。

 しかし、考え込んだところで正解が見つかるわけもない。
 咄嗟に海星を頼ってしまったことへの罪悪感が生まれてしまった。

「海星君、やっぱり、ごめんなさい」
 顔を埋めたまま、謝罪する。すると海星はい伊央を抱きしめている腕に力を込めた。
「謝らないで。頼ってくれて嬉しいんだってば。どうせなら、ありがとうって言ってよ」
 きっと、海星は伊央の悩みを悟っている。だから初めて話した日から二ヶ月が経っても、答えを出すことを急かさないのだ。
「あ、ありが……とう」

 それでもいつまでも海星の親切心に甘えるわけにはいかない。向き合うなら、正面から堂々と向き合いたいし、一人になるなら覚悟を決めなくてはならない。伊央はまた考え込んでしまう。
 すると海星が口を開いた。
「あのさ、究極の選択を迫ってるわけじゃないから」
「それは……どういう……」
「番になるかならないか、俺たちのゴールはそこかもしれない。でもさ、今はまだ焦らなくていいじゃん」
「でも、海星君にこんなことまでさせておいて」
「そういうことじゃなくて。もっとラフに行こうって話。俺ら、まだ出会って二ヶ月だぜ? そんなの、まだお互いの全部を知れるわけないだろ? そりゃ、発情期には頼ってほしい。俺も伊央のフェロモンに当てられてないわけじゃないし。それでも伊央が良いって言うまでは、絶対に自分の服は脱がない。伊央が俺を信用して体を預けても良いって思えるまで、俺はいつまでも待つよ」

 海星の言葉でまた救われた。
 こう言う時、伊央はいつも「いいよ」と言いたくなってしまう。でもその都度海星は応えようとする伊央を止めてしまう。
「俺はズルい計算もして、伊央にアピールしてるから。考えるのは冷静になってからでいい。じゃないとフェアじゃない」

 いかにも体育会系という感じがする。それでも「アルファでもオメガでも、平等な関係でいたいから」と言ってくれる海星の心に、また一歩踏み込んでしまうのだった。

「発情期が終わったら、病院に行かなくちゃいけない」
「俺も付き添うよ。オメガ病棟まではいけないだろうけど。病院で待ってる」
「うん、頼りにしてる」

 今は、こう言うので精一杯の伊央だった。
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