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「オメガなら誰でもいいってわけじゃないんだ。それだけは信じてほしい。俺は伊央となら、本当にこのまま生涯のパートナーになりたいと願い出たいくらいなんだ。でも昨日の今日で突拍子もないお願いをしてるし、これ以上困らせたくないから。彼氏候補……いや、番候補にして欲しいってことだけ伝えたくて。早く言っておかないと、他の人に先越されるのは嫌だからさ」
気まずそうに目を伏せる海星は、やはり可愛らしい。
伊央がどうしても叶翔を忘れられなかったり、他に好きな人ができた時は、遠慮なく言って欲しいと続ける。
「これは、自分を売り込むプレゼンみたいなもんだから聞いて欲しい。俺と伊央が番になれば、伊央の学校生活も安全が保障される。それに、叶翔ともこれまで通り遊べる。抑制剤も軽いまま過ごせるし、たとえオメガ性が強くても、助けてあげられる。そう……用心棒みたいな存在でもいいんだ、俺は。もし伊央がこの先、俺に恋愛感情を持てなかったとしても、高校生の間だけでもいい。番になってくれると嬉しい」
半ば押し切られたような気もするが、まだ発情期を経験したことのない伊央は、自分のオメガ性がどのくらい強いのかさえ把握できていない状態だ。バース性の突然変異で生活が一変したのを理解してくれる。伊央がオメガだと知っている唯一の他人というのも、心を開きやすい要因なのかもしれない。それでもこのたった二日で海星を信頼できるくらい理解しているような気持ちになっている。
伊央の気持ちは傾き始めた。
海星の言う通り、二人が番になれば叶翔にも気兼ねなく接することができる。伊央も強い抑制剤を飲まずに済む。何より、学校でヒートを起こす危険性がなくなる……と言ってもいいだろう。
番になるのは、利害関係だけを考えても名案かもしれない。伊央にしても番う相手が誰でもいいと言うわけではない。相手が海星だからこそ、この意見を尊重できる。
海星は伊央だけの都合を優先してくれと言うが、そこまで図々しくはないと言っておいた。番になるなら、お互いを大切にしあえる仲でいたい。
番になることを前向きに考えると言おうとしたその時、「でも!!」と、海星が伊央の顔を覗き込んだ。
「あのさ、番になるってことは、俺が伊央を抱くってことなんだよ」
「あっ……そっか……そうだよね……」
「だから、今日から少しずつスキンシップは増やそうと思うけど、伊央が少しでも嫌だと思ったら言って欲しい」
人の気持ちなんてコントロールしてどうにかなるもんじゃないし、無理やり自分を好きになってもらおうとも思っていないと海星は言う。
「今日はやっぱり返事を聞きたくない。時間をかけて俺って人間を分かって欲しいから。でも、伊央の発情期が来るまでに、少しでも好きになってもらえるように頑張るから」
太陽のような笑顔で海星が笑った。
「この話、考えてくれる?」
「前向きに検討する」
今朝は号泣していた伊央なのに、いつの間にか笑っていた。海星と話をしているだけで、前向きな気持ちになれる。
海星は高校を卒業すれば家を出る予定なのだという。だから最悪、伊央にも高校の三年間だけでもいいのだと言ったようだ。
伊央からしてみても、それで学校生活が保障されるなら……と、気持ちは海星と番になる方向に思考が移っている。
海星は「ありがとう」と言いながらも、「大事なことだから、しっかりと考えて」と念押しで言ってきた。
気付けば何時間も話し合っていたようだ。午前中から会っていたのに、気付けば空は薄らとオレンジ色に染まっている。
気まずそうに目を伏せる海星は、やはり可愛らしい。
伊央がどうしても叶翔を忘れられなかったり、他に好きな人ができた時は、遠慮なく言って欲しいと続ける。
「これは、自分を売り込むプレゼンみたいなもんだから聞いて欲しい。俺と伊央が番になれば、伊央の学校生活も安全が保障される。それに、叶翔ともこれまで通り遊べる。抑制剤も軽いまま過ごせるし、たとえオメガ性が強くても、助けてあげられる。そう……用心棒みたいな存在でもいいんだ、俺は。もし伊央がこの先、俺に恋愛感情を持てなかったとしても、高校生の間だけでもいい。番になってくれると嬉しい」
半ば押し切られたような気もするが、まだ発情期を経験したことのない伊央は、自分のオメガ性がどのくらい強いのかさえ把握できていない状態だ。バース性の突然変異で生活が一変したのを理解してくれる。伊央がオメガだと知っている唯一の他人というのも、心を開きやすい要因なのかもしれない。それでもこのたった二日で海星を信頼できるくらい理解しているような気持ちになっている。
伊央の気持ちは傾き始めた。
海星の言う通り、二人が番になれば叶翔にも気兼ねなく接することができる。伊央も強い抑制剤を飲まずに済む。何より、学校でヒートを起こす危険性がなくなる……と言ってもいいだろう。
番になるのは、利害関係だけを考えても名案かもしれない。伊央にしても番う相手が誰でもいいと言うわけではない。相手が海星だからこそ、この意見を尊重できる。
海星は伊央だけの都合を優先してくれと言うが、そこまで図々しくはないと言っておいた。番になるなら、お互いを大切にしあえる仲でいたい。
番になることを前向きに考えると言おうとしたその時、「でも!!」と、海星が伊央の顔を覗き込んだ。
「あのさ、番になるってことは、俺が伊央を抱くってことなんだよ」
「あっ……そっか……そうだよね……」
「だから、今日から少しずつスキンシップは増やそうと思うけど、伊央が少しでも嫌だと思ったら言って欲しい」
人の気持ちなんてコントロールしてどうにかなるもんじゃないし、無理やり自分を好きになってもらおうとも思っていないと海星は言う。
「今日はやっぱり返事を聞きたくない。時間をかけて俺って人間を分かって欲しいから。でも、伊央の発情期が来るまでに、少しでも好きになってもらえるように頑張るから」
太陽のような笑顔で海星が笑った。
「この話、考えてくれる?」
「前向きに検討する」
今朝は号泣していた伊央なのに、いつの間にか笑っていた。海星と話をしているだけで、前向きな気持ちになれる。
海星は高校を卒業すれば家を出る予定なのだという。だから最悪、伊央にも高校の三年間だけでもいいのだと言ったようだ。
伊央からしてみても、それで学校生活が保障されるなら……と、気持ちは海星と番になる方向に思考が移っている。
海星は「ありがとう」と言いながらも、「大事なことだから、しっかりと考えて」と念押しで言ってきた。
気付けば何時間も話し合っていたようだ。午前中から会っていたのに、気付けば空は薄らとオレンジ色に染まっている。
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