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海星は真剣な眼差しを伊央に向ける。冗談で言うことではないことくらい、高校生にもなれば判断できる。海星の性格上、伊央を誑かすために言ってるのはないのも理解できる。
しかし、急に番になろうと言われて二つ返事で受け入れられるような内容ではないのだ。それは伊央の価値観では、婚約同然なのだから。
そりゃ、なかなか存在しないアルファとオメガが出会ったら、運命を感じるのも無理はない。しかし、身近にいるオメガが伊央だったから手っ取り早く声を掛けたのか? と疑う気持ちがないわけでもない。
とはいえ海星から視線を逸らすこともできず、心臓は高鳴る一方で、「番になりたい」と言うその一言が、こんなにも嬉しいのだと喜悦している自分がいた。
海星は自分がとんでもないことを言っているのは自覚しているとした上で、話を進めた。
「昨日の今日で好きだなんて言っても、信憑性も何もないだろうし、伊央だって直ぐに叶翔を忘れられるわけでもないだろう? まだオメガになったばかりで、発情期とか薬とか、しばらくは色々大変だろうし」
身内にオメガがいるだけあって、かなりオメガへの理解を感じる。
海星が相手なら、何かにつけて安心しかない。
しかし海星はここで話すのを突然やめ、少しの間考え込んでしまった。
伊央は海星が何を言い出すのか想像もつかない。それでも、海星のことは素直に信じられる気がしている。海星が話し始めるまで、伊央は一言も発せず海星のタイミングを待った。
「———本当はさ、伊央がオメガだって気付いた時、協力してくれないかなって思って、近づくタイミングを測ってた」
海星は静かに話し始めた。
妹がオメガだと診断されてからしばらくして、自分にバース性の突然変異の兆候が見られ始めた。最初は勘違いだと思っていたが、急激に背が伸び、体格も男らしくなった。成長期という時期でもあるが、明らかに今までとは違う何かを感じていたという。それでも近くにオメガの人がいなかった為、確証が持てなかった。
その頃から、もし海星自身がアルファになっていたら仲の良い妹とは過ごせなくなる。今度はそれに焦りを感じ始めた。お兄ちゃんっ子の妹は、困ったことがあると親より兄を頼るほど海星を慕っているそうだ。海星も面倒見がよく、そんな妹が可愛くて仕方がない。
妹がバース性を発症した後も一緒に暮らせるようにするには、番を持つことしか思い浮かばなかった。
それでもそんな簡単にオメガと出会えるとも思っておらず、まさか入学式で前に座った生徒がオメガなんて……と、自分の嗅覚を疑ったと海星は言った。
「そんな感じで、伊央には入学式の時から目をつけてたんだ。利用しようとか、そんな風に捉えて欲しくはないんだけど……結果的にそういうことになるから、本当に頼むかどうか、今日伊央に会うまで悩んでた。でもさ、伊央の話聞いてたら、やっぱり番になりたいって思う。勿論、伊央が本当に番いたい相手ができたら、上書きして貰えばいいし、逆にもしも俺のことを好きになってくれたら、ずっと一緒にいたい。そのくらい、伊央に惹かれてるのも嘘じゃない」
海星は昨日から一緒に過ごして、やはり、このタイミングでこんなにも相性のいい人と出会えるのは運命なのでは……と思わずにはいられなかったと言った。
抑制剤を飲んでいる伊央のオメガの匂いが届いたことだってそうだし、何よりも伊央を守ってあげるのは自分がいいだなんて、昨日遊んでいる時から感じていたと打ち明けた。
照れながらにも包み隠さず話してくれる海星に、嫌悪感を抱くなんてことは全くなく、むしろストレートに伝えてくれる彼の好感度は増すばかりだ。
伊央も海星と過ごした昨日の放課後は楽しかった。一緒にいる間は叶翔のことを忘れられたし、オメガの辛さや大変さも理解してくれる。
海星はオメガになったばかりの伊央を気遣い、抑制剤の調整や体調管理、その諸々が慣れていく過程で考えてくれて構わないとまで言ってくれた。直ぐに返事が欲しいわけではないのだと。
しかし、急に番になろうと言われて二つ返事で受け入れられるような内容ではないのだ。それは伊央の価値観では、婚約同然なのだから。
そりゃ、なかなか存在しないアルファとオメガが出会ったら、運命を感じるのも無理はない。しかし、身近にいるオメガが伊央だったから手っ取り早く声を掛けたのか? と疑う気持ちがないわけでもない。
とはいえ海星から視線を逸らすこともできず、心臓は高鳴る一方で、「番になりたい」と言うその一言が、こんなにも嬉しいのだと喜悦している自分がいた。
海星は自分がとんでもないことを言っているのは自覚しているとした上で、話を進めた。
「昨日の今日で好きだなんて言っても、信憑性も何もないだろうし、伊央だって直ぐに叶翔を忘れられるわけでもないだろう? まだオメガになったばかりで、発情期とか薬とか、しばらくは色々大変だろうし」
身内にオメガがいるだけあって、かなりオメガへの理解を感じる。
海星が相手なら、何かにつけて安心しかない。
しかし海星はここで話すのを突然やめ、少しの間考え込んでしまった。
伊央は海星が何を言い出すのか想像もつかない。それでも、海星のことは素直に信じられる気がしている。海星が話し始めるまで、伊央は一言も発せず海星のタイミングを待った。
「———本当はさ、伊央がオメガだって気付いた時、協力してくれないかなって思って、近づくタイミングを測ってた」
海星は静かに話し始めた。
妹がオメガだと診断されてからしばらくして、自分にバース性の突然変異の兆候が見られ始めた。最初は勘違いだと思っていたが、急激に背が伸び、体格も男らしくなった。成長期という時期でもあるが、明らかに今までとは違う何かを感じていたという。それでも近くにオメガの人がいなかった為、確証が持てなかった。
その頃から、もし海星自身がアルファになっていたら仲の良い妹とは過ごせなくなる。今度はそれに焦りを感じ始めた。お兄ちゃんっ子の妹は、困ったことがあると親より兄を頼るほど海星を慕っているそうだ。海星も面倒見がよく、そんな妹が可愛くて仕方がない。
妹がバース性を発症した後も一緒に暮らせるようにするには、番を持つことしか思い浮かばなかった。
それでもそんな簡単にオメガと出会えるとも思っておらず、まさか入学式で前に座った生徒がオメガなんて……と、自分の嗅覚を疑ったと海星は言った。
「そんな感じで、伊央には入学式の時から目をつけてたんだ。利用しようとか、そんな風に捉えて欲しくはないんだけど……結果的にそういうことになるから、本当に頼むかどうか、今日伊央に会うまで悩んでた。でもさ、伊央の話聞いてたら、やっぱり番になりたいって思う。勿論、伊央が本当に番いたい相手ができたら、上書きして貰えばいいし、逆にもしも俺のことを好きになってくれたら、ずっと一緒にいたい。そのくらい、伊央に惹かれてるのも嘘じゃない」
海星は昨日から一緒に過ごして、やはり、このタイミングでこんなにも相性のいい人と出会えるのは運命なのでは……と思わずにはいられなかったと言った。
抑制剤を飲んでいる伊央のオメガの匂いが届いたことだってそうだし、何よりも伊央を守ってあげるのは自分がいいだなんて、昨日遊んでいる時から感じていたと打ち明けた。
照れながらにも包み隠さず話してくれる海星に、嫌悪感を抱くなんてことは全くなく、むしろストレートに伝えてくれる彼の好感度は増すばかりだ。
伊央も海星と過ごした昨日の放課後は楽しかった。一緒にいる間は叶翔のことを忘れられたし、オメガの辛さや大変さも理解してくれる。
海星はオメガになったばかりの伊央を気遣い、抑制剤の調整や体調管理、その諸々が慣れていく過程で考えてくれて構わないとまで言ってくれた。直ぐに返事が欲しいわけではないのだと。
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