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第四章
46、読めない男
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事態が大事になっていく渦の中心に自分がいるというのは、少なからずのストレスになっている。
周りは優秀なアルファばかりで頼りになるが、その対応力、行動力について行けないのも申し訳なく思う。
こんなくだらない悩みを口に出して調査を中断させるわけにもいかず、口数は日々減っていた。
「マリユス、ティータイムにしよう」
エリペールがリリアンと共に部屋へと戻ってきた。
準備を整えると二人きりにしてくれと頼み、リリアンはそれに従った。
ソファーに並んで座ると、エリペールはそっと僕の肩を抱く。
「弱音くらい、吐けばいい」
「僕、変な顔をしていましたか?」
「マリユスはいつだって美しい。最近、憂いた表情が増えたが、そんな顔も昔を思い出して良い。ただ、我慢せず私を頼って欲しいのだ」
エリペールはなんでもお見通しだ。
素直に、この流れに気持ちも頭もついていけないと漏らした。
「何もかもが急展開だったから、無理もない。しかもマリユスに関することなのだから、デリケートに扱うべきだ」
「そんな、気を使ってもらおうなんて烏滸がましいことは考えていません。ただ、なんとなく怖くて……」
まさか自分が奴隷商に売られた原因を探る日が来るとは思いもよらない。
パトリスの姉の件にしても、彼の予想通り、命を落としていたら……そう考えるだけで、本当に足を踏み入れていいのか躊躇ってしまう。
パトリスはきっと結果がどうであれ、真実を知りたいのだろうと思われた。
僕はどうしたいのか……真実を知るべきなのか、本当は何も知らないまま平穏に過ごせる方がいいかも知れない。自分の気持ちが定まらないまま、ただ流されていくのが怖いのかもしれない。
「マリユスの嫌がることはしたくない。パトリスや他のものがなんと言おうと、私が中断させる」
「それは駄目です。もう動き出してしまったものを止めるだなんて。それに……パトリス先生は何年もの歳月をかけてここまで辿り着きました。僕の一存で諦めさせるなど、裏切りです」
「他人を気遣って自分が我慢する必要などない。ただ、私がこの件に関して手を貸しているのはマリユスとの結婚に繋がるかもしれない。それだけだ」
エリペールは何がなんでも僕との結婚を諦めないと豪語している。
そのために(一方的に)ライバル視しているパトリスにも手を貸しているのだ。
「……エリペール様が話を聞いてくれたから、少し肩の力が抜けました。もう、大丈夫です」
「決して無理だけはするな。私はマリユスに何かあると、平常心ではいられなくなる。今回の件も一人なら絶対に手を出さなかった。しかし、関わっている全員が全力でマリユスを守ってくれるだろう。だから、安心したまえ」
僕をエリペールの膝に座らせ、抱きしめた手で背中を撫でてくれる。
「誰にも、傷付いてほしくありません」
「そうだな、その為に謎を解明しなくてはならない。バルテルシー伯爵は、明らかに何かを隠している。領主としての立場を利用して、陰で何かをしている可能性も考えられる。それを知ってしまった以上、放っておくわけにはいかないのだ」
「理解しています」
エリペールの肩に頭を預けると、髪にキスを落としてくれた。
二日後、予定通りエリペールはゴーティエと共にバルテルシー伯爵邸へと赴いた。
早朝に公爵邸を出発し、帰ってきたのは深夜になった。
話が難航したのか、それとも別の理由なのか、とにかく二人の表情は芳しくない。
声をかけるのも躊躇するほどに……。
「話は明日だ」
ゴーティエの一言で、早急にベッドに入り、エリペールは疲れた様子で直ぐに寝息を立てた。
翌日、ブリューノは来られなかったがパトリスは足を運んでくれた。
「やはり、バルテルシー伯爵はイレーヌさんのことを知っているようだな」
エリペールの一言で合議が始まった。
パトリスの顔色が曇る。
「姉について、何か話していましたか」
「いや、明らかな動揺は見せたが、番だったともなんとも話さなかった」
「…………」
ゴーティエたちは、バルテルシーに「とある女性を探してほしいと依頼を受けた」と掛け合ったそうだ。
少し前から捜索をしているが、どうしてもバルテルシー街から情報が途絶えている。それで領主であるバルテルシーに、僅かな情報でもいいから知らないかと思い、訪ねた。そう話を進めた。
バルテルシーと、本妻であるグラディスと名乗る女性は、同時に顔を顰めた。
しかし「その女性を何故探しているのですか」 確信に触れさせないよう、必死に取り繕うバルテルシーの額には汗が滲んでいたとゴーティエは振り返る。
グラディスは一言も発しなかった。ただ目の前のテーブルに置かれているハーブティーだけに視線を集中させていたそうだ。
「失踪したのがいつ頃だったかと聞かれ、パトリス先生の日記に書かれてあった頃を伝えると、昔すぎて調べても情報が集まるか保証はできないと言われた」
「そんな!! バルテルシー伯爵こそが、姉の運命の番だったのですよ!?」
パトリスが珍しく声を張る。
ゴーティエがそれを視線だけで鎮めた。
「店主から聞いた子供については、衰弱死だと話してた」
八歳の子供が衰弱死……違和感を覚える。
元々体が弱かったわけでもなさそうな口振りだったらしい。
「引き続き調べる必要が大いにある」
エリペールの一言に同意する。
その数日後のことだった。
バルテルシーの方からゴーティエ宛に伝達が届いたのだ。
「一人でこちらへ伺いたいそうだ」
「私たちから来られるのは支障があるというわけですか」
エリペールの言葉に、ゴーティエは「そうのようだな」と答えた。
周りは優秀なアルファばかりで頼りになるが、その対応力、行動力について行けないのも申し訳なく思う。
こんなくだらない悩みを口に出して調査を中断させるわけにもいかず、口数は日々減っていた。
「マリユス、ティータイムにしよう」
エリペールがリリアンと共に部屋へと戻ってきた。
準備を整えると二人きりにしてくれと頼み、リリアンはそれに従った。
ソファーに並んで座ると、エリペールはそっと僕の肩を抱く。
「弱音くらい、吐けばいい」
「僕、変な顔をしていましたか?」
「マリユスはいつだって美しい。最近、憂いた表情が増えたが、そんな顔も昔を思い出して良い。ただ、我慢せず私を頼って欲しいのだ」
エリペールはなんでもお見通しだ。
素直に、この流れに気持ちも頭もついていけないと漏らした。
「何もかもが急展開だったから、無理もない。しかもマリユスに関することなのだから、デリケートに扱うべきだ」
「そんな、気を使ってもらおうなんて烏滸がましいことは考えていません。ただ、なんとなく怖くて……」
まさか自分が奴隷商に売られた原因を探る日が来るとは思いもよらない。
パトリスの姉の件にしても、彼の予想通り、命を落としていたら……そう考えるだけで、本当に足を踏み入れていいのか躊躇ってしまう。
パトリスはきっと結果がどうであれ、真実を知りたいのだろうと思われた。
僕はどうしたいのか……真実を知るべきなのか、本当は何も知らないまま平穏に過ごせる方がいいかも知れない。自分の気持ちが定まらないまま、ただ流されていくのが怖いのかもしれない。
「マリユスの嫌がることはしたくない。パトリスや他のものがなんと言おうと、私が中断させる」
「それは駄目です。もう動き出してしまったものを止めるだなんて。それに……パトリス先生は何年もの歳月をかけてここまで辿り着きました。僕の一存で諦めさせるなど、裏切りです」
「他人を気遣って自分が我慢する必要などない。ただ、私がこの件に関して手を貸しているのはマリユスとの結婚に繋がるかもしれない。それだけだ」
エリペールは何がなんでも僕との結婚を諦めないと豪語している。
そのために(一方的に)ライバル視しているパトリスにも手を貸しているのだ。
「……エリペール様が話を聞いてくれたから、少し肩の力が抜けました。もう、大丈夫です」
「決して無理だけはするな。私はマリユスに何かあると、平常心ではいられなくなる。今回の件も一人なら絶対に手を出さなかった。しかし、関わっている全員が全力でマリユスを守ってくれるだろう。だから、安心したまえ」
僕をエリペールの膝に座らせ、抱きしめた手で背中を撫でてくれる。
「誰にも、傷付いてほしくありません」
「そうだな、その為に謎を解明しなくてはならない。バルテルシー伯爵は、明らかに何かを隠している。領主としての立場を利用して、陰で何かをしている可能性も考えられる。それを知ってしまった以上、放っておくわけにはいかないのだ」
「理解しています」
エリペールの肩に頭を預けると、髪にキスを落としてくれた。
二日後、予定通りエリペールはゴーティエと共にバルテルシー伯爵邸へと赴いた。
早朝に公爵邸を出発し、帰ってきたのは深夜になった。
話が難航したのか、それとも別の理由なのか、とにかく二人の表情は芳しくない。
声をかけるのも躊躇するほどに……。
「話は明日だ」
ゴーティエの一言で、早急にベッドに入り、エリペールは疲れた様子で直ぐに寝息を立てた。
翌日、ブリューノは来られなかったがパトリスは足を運んでくれた。
「やはり、バルテルシー伯爵はイレーヌさんのことを知っているようだな」
エリペールの一言で合議が始まった。
パトリスの顔色が曇る。
「姉について、何か話していましたか」
「いや、明らかな動揺は見せたが、番だったともなんとも話さなかった」
「…………」
ゴーティエたちは、バルテルシーに「とある女性を探してほしいと依頼を受けた」と掛け合ったそうだ。
少し前から捜索をしているが、どうしてもバルテルシー街から情報が途絶えている。それで領主であるバルテルシーに、僅かな情報でもいいから知らないかと思い、訪ねた。そう話を進めた。
バルテルシーと、本妻であるグラディスと名乗る女性は、同時に顔を顰めた。
しかし「その女性を何故探しているのですか」 確信に触れさせないよう、必死に取り繕うバルテルシーの額には汗が滲んでいたとゴーティエは振り返る。
グラディスは一言も発しなかった。ただ目の前のテーブルに置かれているハーブティーだけに視線を集中させていたそうだ。
「失踪したのがいつ頃だったかと聞かれ、パトリス先生の日記に書かれてあった頃を伝えると、昔すぎて調べても情報が集まるか保証はできないと言われた」
「そんな!! バルテルシー伯爵こそが、姉の運命の番だったのですよ!?」
パトリスが珍しく声を張る。
ゴーティエがそれを視線だけで鎮めた。
「店主から聞いた子供については、衰弱死だと話してた」
八歳の子供が衰弱死……違和感を覚える。
元々体が弱かったわけでもなさそうな口振りだったらしい。
「引き続き調べる必要が大いにある」
エリペールの一言に同意する。
その数日後のことだった。
バルテルシーの方からゴーティエ宛に伝達が届いたのだ。
「一人でこちらへ伺いたいそうだ」
「私たちから来られるのは支障があるというわけですか」
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