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第二章
25、隔離
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綺麗に整えられたベッドに横たわると、エリペールはその足でゴーティエの元へと赴いた。
自分も呼ばれると思っていたのは自惚れだった。
話はエリペールだけで充分だと言えば確かにそうだ。
そもそも『ラングロワ』の名前をもらったとはいえ、本当の家族ではない。
話し合いの場に呼んでもらえるなど、烏滸がましいにも程がある。
それにエリペールだけが呼ばれたということは、やはり少なからずゴーティエは反対しているのだろう。
祝福なら、僕も一緒に呼ばれるはずだ。
感情に任せて番にならなくて良かったと心底思った。
初めての発情期のキッカケがエリペールとのキスで、そのまま一晩中抱いてくれたのは幸いだった。
体力的な疲労は感じるが、オメガ性は落ち着いていて、ヒートの心配も必要ない。
エリペールが帰ってくるまで、眠っていようと目を閉じたタイミングで、リリアンが部屋へ来た。
「マリユスさん。申し上げにくいのですが、ブランディーヌ様からの下命で、エリペール様がいない間に隔離部屋へ移動するようにと……」
「はい」
困苦の表情を浮かべるリリアンに「すぐに行きます」と返事をする。
「体調はいかがですか?」
「大丈夫です。一人で歩けます。アルファの方だけ避けなければいけないですが」
「配慮しますね」
簡単に着替えを済まし、部屋を出る。
エリペールの匂いのするものを持って行きたかったが、やめておいた。
この発情期の間、一緒にいられないということは、番になれる未来はない。
要するに、ゴーティエとブランディーヌは「諦めろ」と言っているも同然。
最悪の場合、発情期が終わっても同じ部屋では過ごせない可能性だってある。両親の方がエリペールの性格を熟知している。
エリペール自身が番になろうとしていた人が部屋にいて、何もないわけはない。
僕の発情期後の自室も、隔離部屋ということになるだろう。
エリペールは隔離部屋がどの棟のどの部屋なのかを教えられていない。
密室にしてしまえば、オメガのフェロモンが外にまで届くこともないはずだ。
それでもブランディーヌが準備してくれた部屋だから、仕事は継続して続けさせてもらえる。
これで良い。
何度も頭の中でシュミレーションしていた展開ではないか。
寂しいなど、もう一度会いたかったなど、望んではならない。
隔離部屋には既に、最低限の生活ができるほどの荷物が運び込まれていた。
室内から隣の浴室に直結していて、ヒートが回復すればいつでも体を流すこともできる。
今後は発情期が終わるまでの間、リリアンが僕の専属として世話をしてくれるそうだ。
「医師を呼んでいますので、後ほど伺いますね。必要なものは概ね運び入れていますが、何かあればその都度仰ってください」
リリアンが退室すると、ベッドに崩れ落ちるように横たわる。
気丈に振る舞ってきたが限界だった。
胸が締め付けられるほど声に出せない思いが涙となって溢れてくる。
背中を丸め、両手で顔を覆って自分以外のものを遮断した。
いっそ無慈悲に捨ててくれた方がマシだったかもしれない。同じ敷地内に、二度と会えないエリペールがいると思うだけで、焦がれ苦しむのは目に見えている。
今の僕にはブランディーヌの優しさが残酷に思えてしまった。
今頃、エリペールはゴーティエたちとどんな話し合いになっているだろうか。
きっとそれによって処遇が決まると思われた。
エリペールはなんとしてでも僕を自分の部屋に連れ戻そうとするだろう。
ゴーティエとブランディーヌは反対を押し切るような気がしている。そして、ゴーティエたちの意見の方が正しいというのも、悲しいほど理解できる。
「……エリペール様……」
さっきまで触れていた手、包み込む体、囁く声……匂い、眼差し、口付け。
閉じた眸の中で全て鮮明に生きている。
僕に感情というものを与えてくれた。
彼だから……彼でなければ……この身体を満たせない。
エリペールの匂いを嗅いだわけでもないのに、想っただけでヒートをぶり返した。
腹の奥が熱い。たっぷりと注がれたアルファの精が「私を求めろ」と叫んでいるみたいだ。
脚衣の中に手を入れ、芯を通し始めたそれを慰めるように扱く。
昨晩枯れるほど吐精したけれど、既に先端からは白蜜が溢れ出している。
擦れば擦るほど劣情は加速し、エリペールを求めてしまう。
触って欲しい。側にいて欲しい。優しく髪を撫でて、力強くこの体の最奥を貫いて欲しい。
「あっ、ぅ……ふぅ……ん……エリペール様、エリペール様……」
名前を呼べば呼ぶほどヒートは酷くなる。
そうとは分かっていても、意識して我慢できるものでもなかった。
脚衣を脱ぎ、孔に指を挿れてみる。
オメガの液はするりと受け入れたが、この細い指では物足りなさを強調するだけだった。
「足りない。寂しい……もっと太くて、奥まで届くような……エリペール様の……んぅ……ぅぅ……」
涙でぐちょぐちょになっても手は止められない。
アルファの精を求められない今、ヒートを治める術は何もない。
頭の中はエリペールだけで占領されている。
他のことは何も考えられなかった。
一人で発情期を乗り越えられる自身はない。
本当にこの苦しさは七日そこそこで終わってくれるのだろうか。
ブランディーヌは発情期の間も気が紛れるようにと、景色の良い部屋を宛てがってくれたが、とても窓の外に目を向ける余裕はなかった。
ベッドでどれだけ悶え苦しんでも、誰も助けてはくれない。
自分も呼ばれると思っていたのは自惚れだった。
話はエリペールだけで充分だと言えば確かにそうだ。
そもそも『ラングロワ』の名前をもらったとはいえ、本当の家族ではない。
話し合いの場に呼んでもらえるなど、烏滸がましいにも程がある。
それにエリペールだけが呼ばれたということは、やはり少なからずゴーティエは反対しているのだろう。
祝福なら、僕も一緒に呼ばれるはずだ。
感情に任せて番にならなくて良かったと心底思った。
初めての発情期のキッカケがエリペールとのキスで、そのまま一晩中抱いてくれたのは幸いだった。
体力的な疲労は感じるが、オメガ性は落ち着いていて、ヒートの心配も必要ない。
エリペールが帰ってくるまで、眠っていようと目を閉じたタイミングで、リリアンが部屋へ来た。
「マリユスさん。申し上げにくいのですが、ブランディーヌ様からの下命で、エリペール様がいない間に隔離部屋へ移動するようにと……」
「はい」
困苦の表情を浮かべるリリアンに「すぐに行きます」と返事をする。
「体調はいかがですか?」
「大丈夫です。一人で歩けます。アルファの方だけ避けなければいけないですが」
「配慮しますね」
簡単に着替えを済まし、部屋を出る。
エリペールの匂いのするものを持って行きたかったが、やめておいた。
この発情期の間、一緒にいられないということは、番になれる未来はない。
要するに、ゴーティエとブランディーヌは「諦めろ」と言っているも同然。
最悪の場合、発情期が終わっても同じ部屋では過ごせない可能性だってある。両親の方がエリペールの性格を熟知している。
エリペール自身が番になろうとしていた人が部屋にいて、何もないわけはない。
僕の発情期後の自室も、隔離部屋ということになるだろう。
エリペールは隔離部屋がどの棟のどの部屋なのかを教えられていない。
密室にしてしまえば、オメガのフェロモンが外にまで届くこともないはずだ。
それでもブランディーヌが準備してくれた部屋だから、仕事は継続して続けさせてもらえる。
これで良い。
何度も頭の中でシュミレーションしていた展開ではないか。
寂しいなど、もう一度会いたかったなど、望んではならない。
隔離部屋には既に、最低限の生活ができるほどの荷物が運び込まれていた。
室内から隣の浴室に直結していて、ヒートが回復すればいつでも体を流すこともできる。
今後は発情期が終わるまでの間、リリアンが僕の専属として世話をしてくれるそうだ。
「医師を呼んでいますので、後ほど伺いますね。必要なものは概ね運び入れていますが、何かあればその都度仰ってください」
リリアンが退室すると、ベッドに崩れ落ちるように横たわる。
気丈に振る舞ってきたが限界だった。
胸が締め付けられるほど声に出せない思いが涙となって溢れてくる。
背中を丸め、両手で顔を覆って自分以外のものを遮断した。
いっそ無慈悲に捨ててくれた方がマシだったかもしれない。同じ敷地内に、二度と会えないエリペールがいると思うだけで、焦がれ苦しむのは目に見えている。
今の僕にはブランディーヌの優しさが残酷に思えてしまった。
今頃、エリペールはゴーティエたちとどんな話し合いになっているだろうか。
きっとそれによって処遇が決まると思われた。
エリペールはなんとしてでも僕を自分の部屋に連れ戻そうとするだろう。
ゴーティエとブランディーヌは反対を押し切るような気がしている。そして、ゴーティエたちの意見の方が正しいというのも、悲しいほど理解できる。
「……エリペール様……」
さっきまで触れていた手、包み込む体、囁く声……匂い、眼差し、口付け。
閉じた眸の中で全て鮮明に生きている。
僕に感情というものを与えてくれた。
彼だから……彼でなければ……この身体を満たせない。
エリペールの匂いを嗅いだわけでもないのに、想っただけでヒートをぶり返した。
腹の奥が熱い。たっぷりと注がれたアルファの精が「私を求めろ」と叫んでいるみたいだ。
脚衣の中に手を入れ、芯を通し始めたそれを慰めるように扱く。
昨晩枯れるほど吐精したけれど、既に先端からは白蜜が溢れ出している。
擦れば擦るほど劣情は加速し、エリペールを求めてしまう。
触って欲しい。側にいて欲しい。優しく髪を撫でて、力強くこの体の最奥を貫いて欲しい。
「あっ、ぅ……ふぅ……ん……エリペール様、エリペール様……」
名前を呼べば呼ぶほどヒートは酷くなる。
そうとは分かっていても、意識して我慢できるものでもなかった。
脚衣を脱ぎ、孔に指を挿れてみる。
オメガの液はするりと受け入れたが、この細い指では物足りなさを強調するだけだった。
「足りない。寂しい……もっと太くて、奥まで届くような……エリペール様の……んぅ……ぅぅ……」
涙でぐちょぐちょになっても手は止められない。
アルファの精を求められない今、ヒートを治める術は何もない。
頭の中はエリペールだけで占領されている。
他のことは何も考えられなかった。
一人で発情期を乗り越えられる自身はない。
本当にこの苦しさは七日そこそこで終わってくれるのだろうか。
ブランディーヌは発情期の間も気が紛れるようにと、景色の良い部屋を宛てがってくれたが、とても窓の外に目を向ける余裕はなかった。
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