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sideルネ
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「この国には男しかいないが、どのように子孫繁栄しているかを、ディミトリは知っているか?」
色気も何もない切り出し方をしてしまった。既に失敗したように感じて落胆してしまう。それでも話し始めてしまったからには全て伝えるしかない。
「知りません」と言うディミトリに、ルネは説明した。
「私のように体内に精霊を宿す者が、この国には多くいる。その者にはもう一つ特殊な機能が備わっている。それが、子を成せると言うことなのだが……」
ルネの説明に、ディミトリは素直に感動していた。特殊な力を持つアステール国の知られていなかった事実が明らかになり、男性が妊娠するという概念のなかったディミトリはただただ感心している。
そして素直すぎるディミトリは悪気もなく直接的にルネに尋ねた。
「要するに、殿下も子供が産める体……ということですか?」
「そうだ。それで……闇の精霊も消えた今、その……子を産みたい……と……思って……」
「えっ」
恥ずかしすぎて尻すぼみになる声に、ディミトリが顔を寄せる。触れるほど近寄られてルネは顔を真っ赤にして押し退けた。
ディミトリは何故ルネが逡巡しているのか、まだ理解出来ていないと表情から読み取れる。シーツでルネを包み体が冷えないようにと気遣うことは出来るのに、ルネの発する言葉にはそのままを受け入れることしかしないのは、ディミトリの良いところでもあり、短所でもある気がする。
ルネは意を決して、一思いに叫ぶように言い切った。
「お前との子を産みたいのだ!!」
言い切って、シーツに顔を埋める。ディミトリは唖然とし、全身を硬直させた。
「それは……どういう……」
「これ以上言わせるのか!? だから……その……ディミトリが、好き……だから」
「しかし、モアメドやロジェが」
「あの二人のことも、もちろん慕っている。しかしディミトリに対して持っている感情は全くも別物だ。それをモアメドたちに話たこともないのに、いつの間にか知られていたようだ。あの者たちは察しがいいから」
言い始めると、次々と説明しなくてはならなくなり、このままではディミトリのどこが好きなのかまで説明させられそうでルネは激情する。
「いい加減、理解しろ!! 私が、ディミトリとの子が欲しいと言うことは、そういうことであろう!!」
こんな荒ぶる自分はきっと可愛くない。何故もっと素直になれないのか、ここにモアメドがいればきっとルネを嗜めただろう。
たまに器用なモアメドのようになりたいと思うことがある。まさに今、あのようにスマートにディミトリに言い寄れたら、どんなに良かっただろうか……なんて考えた。
泣きそうになっていると、ディミトリが手を伸ばし、涙を拭おうとした。ルネはその手も払い除け、答えを求める。
「無理に引き受けなくて良い。人の親になるのだから、今すぐ返事をしてくれなんて言わない。ただ、私は子を産むならディミトリとの子が欲しいと思っただけだ。断られたら、出産は諦める。他の者との子を産む気はないから」
これまではルネは生きていくために体を重ねてきたが、これからは違う意味で抱いてほしいと言うことは多分伝わった。ディミトリは目を見開いて固まっているが……。
「夫婦になりたい」ともう一押しするべきかと悩んでいると、ディミトリは一点を見つめたまま呟く。
「自分なんかで良いのでしょうか」
「———馬鹿。お前だからそうしたいと言ったのだ。これは仕事でもない。断ったところで、これからの関係は今まで通りなだけだ」
「いえ、これまで通りなんて嫌です」
ディミトリは今度こそルネを制止を押しのけ、包みこむ。
「以前、自分が言ったのを覚えていますか? あなたの一部になりたいと」
「あぁ、覚えている。あの時から、ディミトリを恋愛の意味で意識していた」
「俺もです」
ディミトリがルネの眸を見つめて、ゆっくりと顔を寄せた。柔らかい唇が重なる。官能的でもない、触れただけなのに、こんなにも甘く蕩けるキスをしたのは初めてだ。
「俺は、一目惚れでしたけど」と言って照れたように笑った。「こんなに美しい人を見たのは人生で始めてでしたから」と続ける。
「———五月蝿い。別に、綺麗な人などいくらでもいる」
「いません。殿下のような美しい人など、一人もいません。俺の心にいるのは、いつだって殿下だけです」
ディミトリはきつくルネを抱きしめ、「殿下との子供、欲しいです」と囁いた。
ルネはその言葉に感極まって嗚咽を漏らして泣いた。これまでは闇の精霊がいつ暴走するのか分からない不安に苛まれてきた。パートナーとして最初こそルネを抱くのを喜んでいた者も、搾り取られる精に殆どが逃げ出し、時には暴走した闇の精霊に消し炭にされた者もいる。
そんな自分がまさか恋をする日が来るなど、思いもよらない。このまま独り身で息絶えるものだと決めつけていた。
今も幸せになって良いのか、判断しかねる問題ではある。これまで迷惑をかけてきた人たちに対して、そんなことが許されるのか。
ディミトリにそれを全て打ち明けると、「殿下が幸せになることで、これまでの人たちが報われるのではないでしょうか」と言った。
そんな発想は持ったことがない。
「私が、幸せになることで……?」
「そうです。殿下は闇の精霊を抱えながらも諦めずに生きる道を選び、そうして闇を消した。これだけでも凄いですが、後継者を産んだともなれば、多くの人が勇気付けられるとは思いませんか?」
「そう……なのか……」
色気も何もない切り出し方をしてしまった。既に失敗したように感じて落胆してしまう。それでも話し始めてしまったからには全て伝えるしかない。
「知りません」と言うディミトリに、ルネは説明した。
「私のように体内に精霊を宿す者が、この国には多くいる。その者にはもう一つ特殊な機能が備わっている。それが、子を成せると言うことなのだが……」
ルネの説明に、ディミトリは素直に感動していた。特殊な力を持つアステール国の知られていなかった事実が明らかになり、男性が妊娠するという概念のなかったディミトリはただただ感心している。
そして素直すぎるディミトリは悪気もなく直接的にルネに尋ねた。
「要するに、殿下も子供が産める体……ということですか?」
「そうだ。それで……闇の精霊も消えた今、その……子を産みたい……と……思って……」
「えっ」
恥ずかしすぎて尻すぼみになる声に、ディミトリが顔を寄せる。触れるほど近寄られてルネは顔を真っ赤にして押し退けた。
ディミトリは何故ルネが逡巡しているのか、まだ理解出来ていないと表情から読み取れる。シーツでルネを包み体が冷えないようにと気遣うことは出来るのに、ルネの発する言葉にはそのままを受け入れることしかしないのは、ディミトリの良いところでもあり、短所でもある気がする。
ルネは意を決して、一思いに叫ぶように言い切った。
「お前との子を産みたいのだ!!」
言い切って、シーツに顔を埋める。ディミトリは唖然とし、全身を硬直させた。
「それは……どういう……」
「これ以上言わせるのか!? だから……その……ディミトリが、好き……だから」
「しかし、モアメドやロジェが」
「あの二人のことも、もちろん慕っている。しかしディミトリに対して持っている感情は全くも別物だ。それをモアメドたちに話たこともないのに、いつの間にか知られていたようだ。あの者たちは察しがいいから」
言い始めると、次々と説明しなくてはならなくなり、このままではディミトリのどこが好きなのかまで説明させられそうでルネは激情する。
「いい加減、理解しろ!! 私が、ディミトリとの子が欲しいと言うことは、そういうことであろう!!」
こんな荒ぶる自分はきっと可愛くない。何故もっと素直になれないのか、ここにモアメドがいればきっとルネを嗜めただろう。
たまに器用なモアメドのようになりたいと思うことがある。まさに今、あのようにスマートにディミトリに言い寄れたら、どんなに良かっただろうか……なんて考えた。
泣きそうになっていると、ディミトリが手を伸ばし、涙を拭おうとした。ルネはその手も払い除け、答えを求める。
「無理に引き受けなくて良い。人の親になるのだから、今すぐ返事をしてくれなんて言わない。ただ、私は子を産むならディミトリとの子が欲しいと思っただけだ。断られたら、出産は諦める。他の者との子を産む気はないから」
これまではルネは生きていくために体を重ねてきたが、これからは違う意味で抱いてほしいと言うことは多分伝わった。ディミトリは目を見開いて固まっているが……。
「夫婦になりたい」ともう一押しするべきかと悩んでいると、ディミトリは一点を見つめたまま呟く。
「自分なんかで良いのでしょうか」
「———馬鹿。お前だからそうしたいと言ったのだ。これは仕事でもない。断ったところで、これからの関係は今まで通りなだけだ」
「いえ、これまで通りなんて嫌です」
ディミトリは今度こそルネを制止を押しのけ、包みこむ。
「以前、自分が言ったのを覚えていますか? あなたの一部になりたいと」
「あぁ、覚えている。あの時から、ディミトリを恋愛の意味で意識していた」
「俺もです」
ディミトリがルネの眸を見つめて、ゆっくりと顔を寄せた。柔らかい唇が重なる。官能的でもない、触れただけなのに、こんなにも甘く蕩けるキスをしたのは初めてだ。
「俺は、一目惚れでしたけど」と言って照れたように笑った。「こんなに美しい人を見たのは人生で始めてでしたから」と続ける。
「———五月蝿い。別に、綺麗な人などいくらでもいる」
「いません。殿下のような美しい人など、一人もいません。俺の心にいるのは、いつだって殿下だけです」
ディミトリはきつくルネを抱きしめ、「殿下との子供、欲しいです」と囁いた。
ルネはその言葉に感極まって嗚咽を漏らして泣いた。これまでは闇の精霊がいつ暴走するのか分からない不安に苛まれてきた。パートナーとして最初こそルネを抱くのを喜んでいた者も、搾り取られる精に殆どが逃げ出し、時には暴走した闇の精霊に消し炭にされた者もいる。
そんな自分がまさか恋をする日が来るなど、思いもよらない。このまま独り身で息絶えるものだと決めつけていた。
今も幸せになって良いのか、判断しかねる問題ではある。これまで迷惑をかけてきた人たちに対して、そんなことが許されるのか。
ディミトリにそれを全て打ち明けると、「殿下が幸せになることで、これまでの人たちが報われるのではないでしょうか」と言った。
そんな発想は持ったことがない。
「私が、幸せになることで……?」
「そうです。殿下は闇の精霊を抱えながらも諦めずに生きる道を選び、そうして闇を消した。これだけでも凄いですが、後継者を産んだともなれば、多くの人が勇気付けられるとは思いませんか?」
「そう……なのか……」
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