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sideルネ
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「……プロミネンス……」
ルネの動きが静止する。ディミトリの真っ赤な眸に、目が釘付けになっていた。
『太陽の瞳』
それはこの国において、代々言い伝えられてきた眸である。この瞳を持つ者こそ、幸運をもたらす。それが、ディミトリだった。
「ルネ、俺を見てくれ」
哀願するディミトリの目元に手を伸ばす。ルネの体の中で、再び異変が始まった。
『太陽の瞳』に、闇の精霊が灼かれ始めたのだ。
「あ、ぁぁ……はぁ、ぁ……」
「大丈夫。目を逸らさないで。貴方の闇を、俺が祓ってみせる」
ディミトリが更に顔を寄せる。ルネも視線を逸らせないでいた。逸らしてはいけないと、本能が訴えているように感じる。
太陽の瞳が体内で燃え上がらせる炎は、じりじりと闇を消していく。
徐々にルネの体の力が抜けていった。ディミトリの腕にかけていた手の力が抜けたかと思うと、そのままソファーに倒れ込む。
「な、何だと……」
アルチュールが怯む。ディミトリの眸は相手の力を抑えるどころか、死に至らせるほど強い。なのに、その力に闇の精霊だけが消されているなんてことが起こるなんて、全くの想定外だと、その表情が全てを物語っていた。
ディミトリがアルチュールに顔を向け、「許さない」と唸った。
「ひっ……た、助けてくれ……」
「お前からここに来たんだ。帰らせるわけがないだろう」
「そ、そんなことを言うな、ディミトリ。私たちはもう二十年以上も苦楽を共にした仲じゃないか」
「見苦しいぞ、アルチュール。お前を敬う気持ちなど、僅かにもない。生きて帰れると思うな」
両眼を出したディミトリは、アルチュールを抑えるのに視線だけで十分だった。
「———トリ……ディミ、トリ……」
我を取り戻したルネが、掠れた声でディミトリを呼んだ。
「殿下、殿下。分かりますか? 俺の名前を呼べますか?」
「———ディミトリ」
「はい」
ディミトリはルネの手を取り、自分の頬に当てる。ここにいると知らせるように。
そしてさらにルネを見つめ、暴走した闇の精霊を灼きつくした。
するとルネの漆黒の髪が、光り輝く月のような白金に変わった。
「闇が……なくなったのか……」
煌めく白金の髪やまつ毛が眩いほど美しい。ルネはディミトリの腕の中で意識を失ったが、ディミトリの賭けが勝った。
ルネの精霊の強さであれば、きっとこの左目が効くと信じていた。そしてそれは無事成功に終わったのだ。
ディミトリはアルチュールを睨みつけると、その視線でアルチュールを押さえつけた。
「待ってくれ、これは私の独断で動いているわけではない。団長が……」
「死んだのではなかったのか」
「あ、いや……その……」
アルチュールは嘘をついていた。ディミトリはアルチュールを殺さない程度に力で捩じ伏せ意識を失わせた。
ようやくドアを開くと、公務に出ていた国王が慌てて帰ってきたところだった。
「国民が、森の精霊が変だと騒いでいたから、急いで帰ってきたのだ」
国王は早口で「ルネは無事か」と尋ねる。
ディミトリは大切に抱えたまま、国王にルネを見せた。
「この色は……」
「闇が、消えました」
「なんと……あぁ、神様……」
国王がディミトリに跪く。こんな未来を期待するのも許されないと気丈に振る舞ってきたが、まさか闇を祓える時が来るとはと、僥倖に涙した。
国王とモアメドたちにより、アルチュールは従騎士と共に連れて行かれた。
ルネの動きが静止する。ディミトリの真っ赤な眸に、目が釘付けになっていた。
『太陽の瞳』
それはこの国において、代々言い伝えられてきた眸である。この瞳を持つ者こそ、幸運をもたらす。それが、ディミトリだった。
「ルネ、俺を見てくれ」
哀願するディミトリの目元に手を伸ばす。ルネの体の中で、再び異変が始まった。
『太陽の瞳』に、闇の精霊が灼かれ始めたのだ。
「あ、ぁぁ……はぁ、ぁ……」
「大丈夫。目を逸らさないで。貴方の闇を、俺が祓ってみせる」
ディミトリが更に顔を寄せる。ルネも視線を逸らせないでいた。逸らしてはいけないと、本能が訴えているように感じる。
太陽の瞳が体内で燃え上がらせる炎は、じりじりと闇を消していく。
徐々にルネの体の力が抜けていった。ディミトリの腕にかけていた手の力が抜けたかと思うと、そのままソファーに倒れ込む。
「な、何だと……」
アルチュールが怯む。ディミトリの眸は相手の力を抑えるどころか、死に至らせるほど強い。なのに、その力に闇の精霊だけが消されているなんてことが起こるなんて、全くの想定外だと、その表情が全てを物語っていた。
ディミトリがアルチュールに顔を向け、「許さない」と唸った。
「ひっ……た、助けてくれ……」
「お前からここに来たんだ。帰らせるわけがないだろう」
「そ、そんなことを言うな、ディミトリ。私たちはもう二十年以上も苦楽を共にした仲じゃないか」
「見苦しいぞ、アルチュール。お前を敬う気持ちなど、僅かにもない。生きて帰れると思うな」
両眼を出したディミトリは、アルチュールを抑えるのに視線だけで十分だった。
「———トリ……ディミ、トリ……」
我を取り戻したルネが、掠れた声でディミトリを呼んだ。
「殿下、殿下。分かりますか? 俺の名前を呼べますか?」
「———ディミトリ」
「はい」
ディミトリはルネの手を取り、自分の頬に当てる。ここにいると知らせるように。
そしてさらにルネを見つめ、暴走した闇の精霊を灼きつくした。
するとルネの漆黒の髪が、光り輝く月のような白金に変わった。
「闇が……なくなったのか……」
煌めく白金の髪やまつ毛が眩いほど美しい。ルネはディミトリの腕の中で意識を失ったが、ディミトリの賭けが勝った。
ルネの精霊の強さであれば、きっとこの左目が効くと信じていた。そしてそれは無事成功に終わったのだ。
ディミトリはアルチュールを睨みつけると、その視線でアルチュールを押さえつけた。
「待ってくれ、これは私の独断で動いているわけではない。団長が……」
「死んだのではなかったのか」
「あ、いや……その……」
アルチュールは嘘をついていた。ディミトリはアルチュールを殺さない程度に力で捩じ伏せ意識を失わせた。
ようやくドアを開くと、公務に出ていた国王が慌てて帰ってきたところだった。
「国民が、森の精霊が変だと騒いでいたから、急いで帰ってきたのだ」
国王は早口で「ルネは無事か」と尋ねる。
ディミトリは大切に抱えたまま、国王にルネを見せた。
「この色は……」
「闇が、消えました」
「なんと……あぁ、神様……」
国王がディミトリに跪く。こんな未来を期待するのも許されないと気丈に振る舞ってきたが、まさか闇を祓える時が来るとはと、僥倖に涙した。
国王とモアメドたちにより、アルチュールは従騎士と共に連れて行かれた。
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