12 / 19
sideルネ
12
しおりを挟む
「今、この騎士団には団長になるべき人間が育ってない。それに、これはジャスティンの意思もある」
「自分は騎士団もクサントン国からも退きました。今更戻って来いと言われても困ります。それに、誰も自分についてくる者などおりません」
この目が災いして何人もの人を傷つけた。繰り返したくはない過去だ。その状況にまた戻るなど、ディミトリにとっては苦行でしかない。とはいえ、アルチュールも隣国まで足を運び、ただでは帰らないという面持ちである。
「ディミトリ、幼き頃からお前はクサントン国で育った。その国が危機に直面している。手を貸してくれても良いんじゃないのか? 熱りが冷めるまでの間だけでも良いんだ。その力を貸してくれ」
「この目は危険です。人を死に追いやるほどなのです」
「それを求めているのだ。シスカ国の奴らを一気に仕留められる」
「血を流しても、何も解決しません。そんな戦略には反対です」
アルチュールは窪んだ眸でギョロリと睨みつけ、「この国に来て、随分と平和な脳になったんじゃないのか」と侮る。
これには隣に座っているルネが反応した。立ちあがろうとしたルネを、ディミトリが腕を伸ばして制する。
「いいか、ディミトリ。お前がこんなところで呑気に暮らすのは勿体無い。まだ若いし、戦う才能がある。淫乱王子にうつつを抜かして人生を棒に振るな」
アルチュールの言葉に全員が殺気立つ。
「王太子に向かって不敬極まりないぞ!! 口を慎め!!」
モアメドが怒鳴ったが、アルチュールは更にこちらを挑発するように続ける。
「クサントン国ではそう噂されていますよ。アステール国の王太子は男を囲って毎日情欲に溺れているとね。それで気に入らなければ処分する。あながち間違ってはいないと見受けられたが、反論できるのですか? この国では王太子の性欲が強すぎて誰も相手に出来なくなったから、クサントン国まで男漁りに来たと。そう耳にしましたがねぇ……」
ルネはアルチュールの言葉に呆然とし、ブルーの眸から静かに涙を流した。涙を拭くことも出来ず、ただただ悲しかった。間違いではない。自分には男の体液が必要で、それがないと生きてすらいられない。毎日ベッドの上で過ごす時間が一番長い。
膝に乗せた手が震えている。ディミトリが上から手を重ね、握ってくれた。
アルチュールのわざとらしい煽り文句に乗ってはいけない。何を企んでいるのか想像もつかないが、最終的な目的はディミトリではなく、ルネなのかアステール国なのか。
アルチュールの思惑が明らかになるまでは、耐えるしかない。
ルネもそのくらいは分かっている。それでも自分がディミトリの騎士としての才能を潰してしまっている事実に痛切する。
本来ならばこの国でも騎士団に入団し、自分の護衛でもさせてあげるほうが彼にとっては有意義というものだろう。
自分本位に縛り付けていたと思うと、胸が締め付けられるように苦しい。
ディミトリはそんなルネの思考を読み取ったのか、肩を抱き寄せ「何も聞かないでください」と促す。
「アルチュール様、自分は今、ここでの生活に満足しております。ジャスティン団長には本当にお世話になりましたが、それでもクサントン国に戻る選択は選びません。どうかお引き取りください」
ディミトリはあくまで冷静に、慇懃に対応した。
それでもアルチュールは腰を上げる様子もなく、ルネを侮蔑する姿勢も崩さない。これも想定内だと言わんばかりに片方の口角だけを上げ、更にルネを煽る。
「王太子はどうお考えでしょうか? この才能ある若者を自分の性奴隷として扱うのか、それとも祖国に帰し騎士として再び活躍させるのか……どちらがディミトリのためだとお思いです?」
「そ、それは……」
「殿下、この人の言うことを間に受けてはいけません」
ロジェが口を挟み、モアメドもそれに賛同する。しかし、ルネはここ最近の胸騒ぎの原因はこれだと気付き、体内で蠢く精霊たちを抑え込むことができない。
この感覚を久しぶりに味わうことになってしまうなんて……。
これは、この精霊のざわめきは……闇の精霊が暴走する前触れなのだ。
「自分は騎士団もクサントン国からも退きました。今更戻って来いと言われても困ります。それに、誰も自分についてくる者などおりません」
この目が災いして何人もの人を傷つけた。繰り返したくはない過去だ。その状況にまた戻るなど、ディミトリにとっては苦行でしかない。とはいえ、アルチュールも隣国まで足を運び、ただでは帰らないという面持ちである。
「ディミトリ、幼き頃からお前はクサントン国で育った。その国が危機に直面している。手を貸してくれても良いんじゃないのか? 熱りが冷めるまでの間だけでも良いんだ。その力を貸してくれ」
「この目は危険です。人を死に追いやるほどなのです」
「それを求めているのだ。シスカ国の奴らを一気に仕留められる」
「血を流しても、何も解決しません。そんな戦略には反対です」
アルチュールは窪んだ眸でギョロリと睨みつけ、「この国に来て、随分と平和な脳になったんじゃないのか」と侮る。
これには隣に座っているルネが反応した。立ちあがろうとしたルネを、ディミトリが腕を伸ばして制する。
「いいか、ディミトリ。お前がこんなところで呑気に暮らすのは勿体無い。まだ若いし、戦う才能がある。淫乱王子にうつつを抜かして人生を棒に振るな」
アルチュールの言葉に全員が殺気立つ。
「王太子に向かって不敬極まりないぞ!! 口を慎め!!」
モアメドが怒鳴ったが、アルチュールは更にこちらを挑発するように続ける。
「クサントン国ではそう噂されていますよ。アステール国の王太子は男を囲って毎日情欲に溺れているとね。それで気に入らなければ処分する。あながち間違ってはいないと見受けられたが、反論できるのですか? この国では王太子の性欲が強すぎて誰も相手に出来なくなったから、クサントン国まで男漁りに来たと。そう耳にしましたがねぇ……」
ルネはアルチュールの言葉に呆然とし、ブルーの眸から静かに涙を流した。涙を拭くことも出来ず、ただただ悲しかった。間違いではない。自分には男の体液が必要で、それがないと生きてすらいられない。毎日ベッドの上で過ごす時間が一番長い。
膝に乗せた手が震えている。ディミトリが上から手を重ね、握ってくれた。
アルチュールのわざとらしい煽り文句に乗ってはいけない。何を企んでいるのか想像もつかないが、最終的な目的はディミトリではなく、ルネなのかアステール国なのか。
アルチュールの思惑が明らかになるまでは、耐えるしかない。
ルネもそのくらいは分かっている。それでも自分がディミトリの騎士としての才能を潰してしまっている事実に痛切する。
本来ならばこの国でも騎士団に入団し、自分の護衛でもさせてあげるほうが彼にとっては有意義というものだろう。
自分本位に縛り付けていたと思うと、胸が締め付けられるように苦しい。
ディミトリはそんなルネの思考を読み取ったのか、肩を抱き寄せ「何も聞かないでください」と促す。
「アルチュール様、自分は今、ここでの生活に満足しております。ジャスティン団長には本当にお世話になりましたが、それでもクサントン国に戻る選択は選びません。どうかお引き取りください」
ディミトリはあくまで冷静に、慇懃に対応した。
それでもアルチュールは腰を上げる様子もなく、ルネを侮蔑する姿勢も崩さない。これも想定内だと言わんばかりに片方の口角だけを上げ、更にルネを煽る。
「王太子はどうお考えでしょうか? この才能ある若者を自分の性奴隷として扱うのか、それとも祖国に帰し騎士として再び活躍させるのか……どちらがディミトリのためだとお思いです?」
「そ、それは……」
「殿下、この人の言うことを間に受けてはいけません」
ロジェが口を挟み、モアメドもそれに賛同する。しかし、ルネはここ最近の胸騒ぎの原因はこれだと気付き、体内で蠢く精霊たちを抑え込むことができない。
この感覚を久しぶりに味わうことになってしまうなんて……。
これは、この精霊のざわめきは……闇の精霊が暴走する前触れなのだ。
16
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
主人公にはなりません
negi
BL
俺は異世界転生したらしい。
しかも転生先は俺が生前プレイしていた18禁BLゲームの主人公。
主人公なんて嫌だ!ゲームの通りにならないようにするためにはどうしたらいい?
攻略対象者と出会わないようにしたいけど本当に会わずに済むものなのか?
本編完結しました。お気に入りもありがとうございます!
おまけ更新しました。攻め視点の後日談になりました。
初心者、初投稿です。読んだことあるような内容かもしれませんが、あたたかい目でみてもらえると嬉しいです。少しでも楽しんでもらえたらもっと嬉しいです。
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる