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sideルネ
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「今、この騎士団には団長になるべき人間が育ってない。それに、これはジャスティンの意思もある」
「自分は騎士団もクサントン国からも退きました。今更戻って来いと言われても困ります。それに、誰も自分についてくる者などおりません」
この目が災いして何人もの人を傷つけた。繰り返したくはない過去だ。その状況にまた戻るなど、ディミトリにとっては苦行でしかない。とはいえ、アルチュールも隣国まで足を運び、ただでは帰らないという面持ちである。
「ディミトリ、幼き頃からお前はクサントン国で育った。その国が危機に直面している。手を貸してくれても良いんじゃないのか? 熱りが冷めるまでの間だけでも良いんだ。その力を貸してくれ」
「この目は危険です。人を死に追いやるほどなのです」
「それを求めているのだ。シスカ国の奴らを一気に仕留められる」
「血を流しても、何も解決しません。そんな戦略には反対です」
アルチュールは窪んだ眸でギョロリと睨みつけ、「この国に来て、随分と平和な脳になったんじゃないのか」と侮る。
これには隣に座っているルネが反応した。立ちあがろうとしたルネを、ディミトリが腕を伸ばして制する。
「いいか、ディミトリ。お前がこんなところで呑気に暮らすのは勿体無い。まだ若いし、戦う才能がある。淫乱王子にうつつを抜かして人生を棒に振るな」
アルチュールの言葉に全員が殺気立つ。
「王太子に向かって不敬極まりないぞ!! 口を慎め!!」
モアメドが怒鳴ったが、アルチュールは更にこちらを挑発するように続ける。
「クサントン国ではそう噂されていますよ。アステール国の王太子は男を囲って毎日情欲に溺れているとね。それで気に入らなければ処分する。あながち間違ってはいないと見受けられたが、反論できるのですか? この国では王太子の性欲が強すぎて誰も相手に出来なくなったから、クサントン国まで男漁りに来たと。そう耳にしましたがねぇ……」
ルネはアルチュールの言葉に呆然とし、ブルーの眸から静かに涙を流した。涙を拭くことも出来ず、ただただ悲しかった。間違いではない。自分には男の体液が必要で、それがないと生きてすらいられない。毎日ベッドの上で過ごす時間が一番長い。
膝に乗せた手が震えている。ディミトリが上から手を重ね、握ってくれた。
アルチュールのわざとらしい煽り文句に乗ってはいけない。何を企んでいるのか想像もつかないが、最終的な目的はディミトリではなく、ルネなのかアステール国なのか。
アルチュールの思惑が明らかになるまでは、耐えるしかない。
ルネもそのくらいは分かっている。それでも自分がディミトリの騎士としての才能を潰してしまっている事実に痛切する。
本来ならばこの国でも騎士団に入団し、自分の護衛でもさせてあげるほうが彼にとっては有意義というものだろう。
自分本位に縛り付けていたと思うと、胸が締め付けられるように苦しい。
ディミトリはそんなルネの思考を読み取ったのか、肩を抱き寄せ「何も聞かないでください」と促す。
「アルチュール様、自分は今、ここでの生活に満足しております。ジャスティン団長には本当にお世話になりましたが、それでもクサントン国に戻る選択は選びません。どうかお引き取りください」
ディミトリはあくまで冷静に、慇懃に対応した。
それでもアルチュールは腰を上げる様子もなく、ルネを侮蔑する姿勢も崩さない。これも想定内だと言わんばかりに片方の口角だけを上げ、更にルネを煽る。
「王太子はどうお考えでしょうか? この才能ある若者を自分の性奴隷として扱うのか、それとも祖国に帰し騎士として再び活躍させるのか……どちらがディミトリのためだとお思いです?」
「そ、それは……」
「殿下、この人の言うことを間に受けてはいけません」
ロジェが口を挟み、モアメドもそれに賛同する。しかし、ルネはここ最近の胸騒ぎの原因はこれだと気付き、体内で蠢く精霊たちを抑え込むことができない。
この感覚を久しぶりに味わうことになってしまうなんて……。
これは、この精霊のざわめきは……闇の精霊が暴走する前触れなのだ。
「自分は騎士団もクサントン国からも退きました。今更戻って来いと言われても困ります。それに、誰も自分についてくる者などおりません」
この目が災いして何人もの人を傷つけた。繰り返したくはない過去だ。その状況にまた戻るなど、ディミトリにとっては苦行でしかない。とはいえ、アルチュールも隣国まで足を運び、ただでは帰らないという面持ちである。
「ディミトリ、幼き頃からお前はクサントン国で育った。その国が危機に直面している。手を貸してくれても良いんじゃないのか? 熱りが冷めるまでの間だけでも良いんだ。その力を貸してくれ」
「この目は危険です。人を死に追いやるほどなのです」
「それを求めているのだ。シスカ国の奴らを一気に仕留められる」
「血を流しても、何も解決しません。そんな戦略には反対です」
アルチュールは窪んだ眸でギョロリと睨みつけ、「この国に来て、随分と平和な脳になったんじゃないのか」と侮る。
これには隣に座っているルネが反応した。立ちあがろうとしたルネを、ディミトリが腕を伸ばして制する。
「いいか、ディミトリ。お前がこんなところで呑気に暮らすのは勿体無い。まだ若いし、戦う才能がある。淫乱王子にうつつを抜かして人生を棒に振るな」
アルチュールの言葉に全員が殺気立つ。
「王太子に向かって不敬極まりないぞ!! 口を慎め!!」
モアメドが怒鳴ったが、アルチュールは更にこちらを挑発するように続ける。
「クサントン国ではそう噂されていますよ。アステール国の王太子は男を囲って毎日情欲に溺れているとね。それで気に入らなければ処分する。あながち間違ってはいないと見受けられたが、反論できるのですか? この国では王太子の性欲が強すぎて誰も相手に出来なくなったから、クサントン国まで男漁りに来たと。そう耳にしましたがねぇ……」
ルネはアルチュールの言葉に呆然とし、ブルーの眸から静かに涙を流した。涙を拭くことも出来ず、ただただ悲しかった。間違いではない。自分には男の体液が必要で、それがないと生きてすらいられない。毎日ベッドの上で過ごす時間が一番長い。
膝に乗せた手が震えている。ディミトリが上から手を重ね、握ってくれた。
アルチュールのわざとらしい煽り文句に乗ってはいけない。何を企んでいるのか想像もつかないが、最終的な目的はディミトリではなく、ルネなのかアステール国なのか。
アルチュールの思惑が明らかになるまでは、耐えるしかない。
ルネもそのくらいは分かっている。それでも自分がディミトリの騎士としての才能を潰してしまっている事実に痛切する。
本来ならばこの国でも騎士団に入団し、自分の護衛でもさせてあげるほうが彼にとっては有意義というものだろう。
自分本位に縛り付けていたと思うと、胸が締め付けられるように苦しい。
ディミトリはそんなルネの思考を読み取ったのか、肩を抱き寄せ「何も聞かないでください」と促す。
「アルチュール様、自分は今、ここでの生活に満足しております。ジャスティン団長には本当にお世話になりましたが、それでもクサントン国に戻る選択は選びません。どうかお引き取りください」
ディミトリはあくまで冷静に、慇懃に対応した。
それでもアルチュールは腰を上げる様子もなく、ルネを侮蔑する姿勢も崩さない。これも想定内だと言わんばかりに片方の口角だけを上げ、更にルネを煽る。
「王太子はどうお考えでしょうか? この才能ある若者を自分の性奴隷として扱うのか、それとも祖国に帰し騎士として再び活躍させるのか……どちらがディミトリのためだとお思いです?」
「そ、それは……」
「殿下、この人の言うことを間に受けてはいけません」
ロジェが口を挟み、モアメドもそれに賛同する。しかし、ルネはここ最近の胸騒ぎの原因はこれだと気付き、体内で蠢く精霊たちを抑え込むことができない。
この感覚を久しぶりに味わうことになってしまうなんて……。
これは、この精霊のざわめきは……闇の精霊が暴走する前触れなのだ。
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