【完結】精霊を宿す王太子を闇の暴走から救ったのは、太陽の瞳を持つ隻眼の騎士でした。

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
6 / 19
sideディミトリ

6

しおりを挟む
「殿下が眠っている間に食事にしましょう。こんなに熟睡しているから、当分起きないわ」
「そうだな。眠れるなら、心ゆくまで体を休めて欲しい」

 三人で寝室を出て、ダイニングルームへと赴く。その間もルネの話を聞かせてくれた。
 ルネの体内では常に闇の精霊と戦っている。一日の内、多くの時間を抱かれて過ごしても、体が休まるほど魔力が満たされるのは珍しいと言う。
 その状態にディミトリ一人でしたのだから、モアメドとロジェが驚くのも頷ける。

「そういえば、その眼帯……騎士時代の勲章?」
 モアメドがずっと気になっていたと言って、並んで歩きながらディミトリを見上げた。

「いえ……そう言うのではありません。ただ、隠さなければならないものではあります」
 それ以上は言いたくないのを察してくれ、「そう」とだけ返事をすると、深くは追求されなかった。

 左目の秘密を知られれば、また嫌われしまう。それどころか、アステール国でも牢獄での生活を強いられる日が訪れるだろう。ディミトリは親切な二人とルネを落胆させたくなかった。折角断罪から逃れられ、自由の身になれた。秘密を隠したまま生きていられるならその道を選びたい。

「何はともあれ、ディミトリが来てくれたのは本当に嬉しい。どうか、逃げたりしないで。一緒に楽しく暮らしましょう」
 モアメドが手を差し出した。その手を握ると、妖艶な雰囲気のするモアメドも男なのだと思わせる、力強さを感じる手だった。

 隣のロジェも手を差し出し、握手を交わす。
「なんでも相談してくれ」
 モアメドほど口数が多いわけではないが、ロジェも真面目で忠誠心の強い人柄が伺える。
 まだ短時間しか関わっていないが、それでもこの二人が頼り甲斐のあるパートナーであると分かった気がした。

 自分が王城に連れてこられた理由がようやく分かり、ディミトリは安堵した。自分を求めてくれる人がいると言うことに、喜びを感じずにはいられない。もう終わった人生だと思っていた。それを助け出してくれたルネや国王には、どんなに感謝の言葉を伝えても伝えきれないと思った。

 ダイニングルームに着くと、モアメドたちの正面の席へと案内され、示し合わせたように次々と食事が運ばれてくる。モアメドもロジェも自分よりほっそりとした体型だが、想像以上にしっかりと食べる。体力がないと自分が倒れてしまうからと笑いながら話してくれたが、力尽きれば精気を奪われる。一日の大半をベッドの上で過ごす日も珍しくなくあるのだと言う彼らの陰ならぬ努力を垣間見た気がした。

 ディミトリも牢獄では味わえない料理の数々に舌鼓を打つ。生活が一変した。着心地の良い上質な服も、体の隅々まで染み渡るような美味しい料理も。なにより、ここの人たちは誰も皆、温かく接してくれる。今まで忘れていた感情が次々と蘇る気がして、ディミトリは無意識に笑っていた。

「あら、笑うともっと良い男ね」
「揶揄わないでください」
「本心よ。貴方は今までにいないタイプの人だから」
 そういえばモアメドにしてもロジェにしても、自分のように体も大きくないし、どこか中性的な雰囲気だ。この国の人間は男しかいないが、誰も基本的に色素が薄く、男らしいガッチリとした体躯の人はほぼ見かけないそうだ。

「確かに、君は男の中の男……と言う感じがする」
 ロジェまで一緒になって褒めすぎだ。
 ディミトリは忌みられてきた期間が長すぎて、褒められるだけでむず痒くなってしまう。
 小声で「ありがとうございます」とお礼を言うと、その後は食べることに集中した。向かいの席で二人がくすくす笑っているのには気付いていたが、目の前の料理しか見ないようにした。

「さぁ、殿下の元に戻りましょう。まだ眠っていたら、その間に僕たちも体を休めておかないと」
 モアメドが立ち上がる。
 ルネが寝ている時に寝ておかないと、またセックスが始まるとしばらく休めない。特にロジェは早く横になりたいと口にする。

 ルネの部屋へと戻ると、幸いまだ気持ちよさそうに眠っていた。
 二人がそっとルネの隣に忍び込む。口パクで反対側からベッドに入るよう言われ、それに従った。

 まさか王太子と同じベッドで寝るとは思いもよらない。きっとこの人には人肌の温もりが必要なのだろう。今もルネの体の中で闇の精霊と戦っているのかと思うと、必然的に守ってあげたいと思ってしまう。これは元騎士故……とも思えなかった。胸が締め付けられるような疼きを感じたが、これは仕事だと言い聞かせ、自分の中に芽生えようとしている気持ちを捩じ伏せる。

 ルネは奔放な人ではあるが、魅力に溢れている。もっとこの人のことが知りたいと思いながら、ディミトリも眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子からは逃げられない!

krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。 日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!? すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。 過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。 そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!? それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。 逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

俺が聖女なわけがない!

krm
BL
平凡な青年ルセルは、聖女選定の儀でまさかの“聖女”に選ばれてしまう。混乱する中、ルセルに手を差し伸べたのは、誰もが見惚れるほどの美しさを持つ王子、アルティス。男なのに聖女、しかも王子と一緒に過ごすことになるなんて――!? 次々に降りかかる試練にルセルはどう立ち向かうのか、王子との絆はどのように発展していくのか……? 聖女ルセルの運命やいかに――!? 愛と宿命の異世界ファンタジーBL!

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...