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sideディミトリ
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ルネはどんなに触れられようと、起きる気配も見せない。着替えも全て終えると、今度は本当の寝室へと案内された。
どうやらさっきの部屋はセックスをするためだけにあるようだ。
本当の寝室は枕元にランプが置いてあるだけの薄暗い部屋であった。
既にモアメドとロジェがベッドで横たわっている。上体を起こすと、ディミトリをベッドサイドの椅子へ座るよう促してくれた。
「本当に、気持ちよさそうに寝てる」
ルネをベッドに寝かせ、シーツを掛け、起こさないようゆっくりベッドから降りた。
モアメドは信じられないと言う表情を隠さない。それはロジェも同様であった。
二人はルネのことと、この国のことを説明し始める。
「この国が精霊魔法により守られているとはご存じ?」
「はい、噂程度ですが」
馬車から見た景色の美しさを思い出す。クサントン国にも森はあるが、アステール国の森の木々は輝きが違う。そう言うと、それは精霊のおかげだとロジェが言った。
「この国には、先天的に精霊を自らの体内に宿した者がいる。その者たちは自在に、無詠唱で、精霊魔法を操ることができる。でも……時にその力が暴走してしまうことがあるの。もう昔の話よ。その力を制御できる眸を持つ者が現れ、今ではその二人がパートナーになるのが当たり前になってる。だから今は殆ど暴走も起きない」
たとえ暴走が起きてもパートナーが制御し、癒すことができるから、大きな事件にならなくなったとモアメドが言う。
「殿下も精霊を生まれながらに持つ人間の一人だ。他と違うのは、闇の精霊も宿しているということ……」
モアメドに続いてロジェが話す。
「闇の精霊なんて聞いたことがありません」
「殿下のこの漆黒の髪がその証拠よ。闇は魔力と精気を喰い漁ってしまう。それを補うために僕たちパートナーの体液が必要なんだ」
要するにモアメドもロジェも暴走を制御する眸の持ち主で、ルネの魔力をコントロールするために毎日抱いていると言うことか。
「殿下も好きで毎日セックスに溺れているわけではない。生きていくための手段だ」
「だから、仕事だと言ったのですね」
「貴方、物分かりが良くて助かるわ」
二人がルネを慈しむ瞳で見つめた。
「殿下がこんなにも満たされたの、初めてかもしれない」
魔力が満たされない限り、こんな安眠はないと説明した。
その隣でロジェがため息を零す。
「実は……私は自分の力の限界を感じていたのだ」
ロジェは若いながらも、元々そう体は強くないのだと言った。公爵家の嫡男に生まれ、後継者として育ってきたが、ルネ本人からパートナーになってくれと言われ、この人のためになれたら……と引き受けた。ここに来てから二年ほどになるという。
一方、モアメドは三年と少し、ルネのパートナーとして仕えているそうだ。
「その前にも、パートナーがいたと言いうことですか?」
「えぇ、いたわ。でもみんな、殿下の魔力を抑えられず闇を放たれ息絶えるか、その前に逃げ出すか……どちらにせよ、保って一年か……二年が限界だったと聞いているわ」
ルネは生きるためにセックスをしなければならない。その事実をどう受け止めれば良いのか、戸惑ってしまう。
これまでも、好きでもない男に体を捧げてきたと言うことではないか。もう慣れてしまったのか。
しかし、自分の運命とはいえ望まないセックスを続けることをストレスに思わない人間などいない。
いたたまれない気持ちが押し寄せる。やはり安易に挑発に乗ったことを後悔した。
しかしモアメドとロジェは気に止むなと慰める。
「僕たちだって、仕事と割り切って抱いているわけじゃない」
「あぁ、そうだ。私たちは殿下を愛している。だから毎日だって抱けるし、気持ち良くなって欲しいから頑張れる」
体力の限界を感じていると言いながらも、ロジェはルネのためなら自分は命尽きるまで添い遂げる覚悟だと話す。それはモアメドとて同じであった。
「ディミトリも、きっと殿下を好きになる。きっとね」
モアメドがウインクを飛ばした。
どうやらさっきの部屋はセックスをするためだけにあるようだ。
本当の寝室は枕元にランプが置いてあるだけの薄暗い部屋であった。
既にモアメドとロジェがベッドで横たわっている。上体を起こすと、ディミトリをベッドサイドの椅子へ座るよう促してくれた。
「本当に、気持ちよさそうに寝てる」
ルネをベッドに寝かせ、シーツを掛け、起こさないようゆっくりベッドから降りた。
モアメドは信じられないと言う表情を隠さない。それはロジェも同様であった。
二人はルネのことと、この国のことを説明し始める。
「この国が精霊魔法により守られているとはご存じ?」
「はい、噂程度ですが」
馬車から見た景色の美しさを思い出す。クサントン国にも森はあるが、アステール国の森の木々は輝きが違う。そう言うと、それは精霊のおかげだとロジェが言った。
「この国には、先天的に精霊を自らの体内に宿した者がいる。その者たちは自在に、無詠唱で、精霊魔法を操ることができる。でも……時にその力が暴走してしまうことがあるの。もう昔の話よ。その力を制御できる眸を持つ者が現れ、今ではその二人がパートナーになるのが当たり前になってる。だから今は殆ど暴走も起きない」
たとえ暴走が起きてもパートナーが制御し、癒すことができるから、大きな事件にならなくなったとモアメドが言う。
「殿下も精霊を生まれながらに持つ人間の一人だ。他と違うのは、闇の精霊も宿しているということ……」
モアメドに続いてロジェが話す。
「闇の精霊なんて聞いたことがありません」
「殿下のこの漆黒の髪がその証拠よ。闇は魔力と精気を喰い漁ってしまう。それを補うために僕たちパートナーの体液が必要なんだ」
要するにモアメドもロジェも暴走を制御する眸の持ち主で、ルネの魔力をコントロールするために毎日抱いていると言うことか。
「殿下も好きで毎日セックスに溺れているわけではない。生きていくための手段だ」
「だから、仕事だと言ったのですね」
「貴方、物分かりが良くて助かるわ」
二人がルネを慈しむ瞳で見つめた。
「殿下がこんなにも満たされたの、初めてかもしれない」
魔力が満たされない限り、こんな安眠はないと説明した。
その隣でロジェがため息を零す。
「実は……私は自分の力の限界を感じていたのだ」
ロジェは若いながらも、元々そう体は強くないのだと言った。公爵家の嫡男に生まれ、後継者として育ってきたが、ルネ本人からパートナーになってくれと言われ、この人のためになれたら……と引き受けた。ここに来てから二年ほどになるという。
一方、モアメドは三年と少し、ルネのパートナーとして仕えているそうだ。
「その前にも、パートナーがいたと言いうことですか?」
「えぇ、いたわ。でもみんな、殿下の魔力を抑えられず闇を放たれ息絶えるか、その前に逃げ出すか……どちらにせよ、保って一年か……二年が限界だったと聞いているわ」
ルネは生きるためにセックスをしなければならない。その事実をどう受け止めれば良いのか、戸惑ってしまう。
これまでも、好きでもない男に体を捧げてきたと言うことではないか。もう慣れてしまったのか。
しかし、自分の運命とはいえ望まないセックスを続けることをストレスに思わない人間などいない。
いたたまれない気持ちが押し寄せる。やはり安易に挑発に乗ったことを後悔した。
しかしモアメドとロジェは気に止むなと慰める。
「僕たちだって、仕事と割り切って抱いているわけじゃない」
「あぁ、そうだ。私たちは殿下を愛している。だから毎日だって抱けるし、気持ち良くなって欲しいから頑張れる」
体力の限界を感じていると言いながらも、ロジェはルネのためなら自分は命尽きるまで添い遂げる覚悟だと話す。それはモアメドとて同じであった。
「ディミトリも、きっと殿下を好きになる。きっとね」
モアメドがウインクを飛ばした。
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