【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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43、新しい家族①

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 何日も悶え苦しんだ。
 これを乗り越えれば、本当に楽になれるのかと疑うほどの辛さだ。全身が痙攣している。

 魘されるほどの高熱に襲われたにも関わらず、熱が下がると今度は寒くて仕方ない。

 ジョバンニのマンションにいるはずなのに、それを実感出来ないほど闇の中を彷徨った。
 勢いよく注射を打ってくれと頼んだものの、ここまで呻くとは予測不可能だった。
 心臓が何度も張り裂けそうに大きく波打った。

 そしてようやく落ち着きを取り戻した頃、ルカは深い眠りにつく。
 寒さからも暑さからも痛みからも逃れ、穏やか眠った。

 夢の中で、ジョバンニに抱きしめられているような気がした。
 ルカからも素直に抱きしめた。
 暖かい。ずっとこのまま、こうしていたい。
 どうか、朝にならないで。ジョバンニの腕の中でいさせて。
 そう願っても、夢はいつしか終わってしまう。現実世界に引き上げられる。
 ジョバンニがルカに手を振り、どこかへ消えてしまう。
 ジョバンニ、行かないで。ここにいて。ジョバンニ……ジョバンニ……。

「……ンニ。ジョバンニ」
「ルカ!? 目を覚ましたのか?」
 ジョバンニが顔を覗き込む。
 ルカが眉間に皺を寄せ、ジョバンニの名前を呼んでいる。
 無理矢理起こそうか悩んだ末、早くルカに目覚めてほしいという気持ちが勝った。

「ルカ、ルカ。目を覚せ。ルカ」
「ん……、ジョバンニ……」
「あぁ、目覚めて良かった。苦しいところはないか?」
 ルカは自分の体と向き合った。どこも痛んだり気分が悪いところもない。
「大丈夫です……」
 喋るのは、流石にまだ疲れる。
 横になったままジョバンニを見ると、口髭を蓄えて疲弊した目をしていた。

 ジョバンニから、ルカは十日ほど苦しんでいたと教えられた。
「そんなに?」
 ルカは驚いた。長い間苦しんだけど、十日も経っているとは、体感よりも随分長い。
 ジョバンニはルカの髪を撫で「よく頑張ったな」と褒めてくれた。

「ルカが眠っている間に、モレッティが検査をしてくれたんだ。今、結果を聞きたいか?」
「聞きたい」
 これだけ苦しんだのだ。良い方に転がってくれないと苦しみ損だと項垂れる。
 ジョバンニはリビングにその紙を取りに行く。
 その背中は、とても機嫌が良さそうに思えた。

 寝室に戻ってくると、ルカの上肢をゆっくり起き上がらせてくれた。
「まずは水を飲んで」
 グラスにストローを刺してくれている。
 水を少し口に含み、飲み込む。嚥下と共に、じんわりと体内が潤ったように感じる。
 何回かに分けて水を飲むと、ジョバンニはサイドテーブルにグラスを置いた。

 アクリスから受け取ったという、検査結果が書かれた紙を広げる。
「結果から言うと、ルカは吸血族ではなくなった。吸血族はそもそも染色体の数が違う。人間よりも二本多いそうだ。ルカは今回の投薬で、人間と同じ四十六本になっていた。それが証明になる」
「僕が……人間……」
 実感はない。

 吸血族でなくなったとはいえ、視界に入る限り見た目に変化はないようだ。
 ジョバンニはルカの様子を伺いながらも、説明を続ける。

「但し……両性の機能は残っているそうだ。吸血族の染色体がXY/q。qは吸血族特有の染色体。ルカ達ガットには、ここに女性の性染色体であるXXが組み込まれている。吸血族特有の染色体qは今回なくなっているのが確認されたが、性染色体XXはなくならなかった。今のルカの染色体はWX/XY。女性としての機能は残っている」
 体内は綺麗に解毒できていると、付け加えた。

 人間になれたとは言え、特異体質まではなくなってくれなかった。
 ルカは内心ショックだった。

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