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41、この苦しみの先にあるもの③
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アニータがルカに毒の注射を打ったことについて、ジョバンニとアクリスは相当な怒りを露わにした。
もしルカに毒の耐性がなければ、今頃本当にルカは死んでいた。
「今日は、ルカに会いに来て良かったよ」
アクリスが言う。何故だろう? と首を傾げると、ルカの体内に浸透した毒を解毒する薬を開発したのだという。
「ルカはきっと、アニータに打たれた毒が原因で、彼女が死んだと思っているんだろう? モルセーゴの時と同じように」
「はい」
こくりと頷いた。他に理由など思い浮かばない。
アクリスはルカの顔をじっと見ると、モルセーゴ達が飲ませた毒も、解毒はできていないと説明した。
「アニータが毒を打っていてもいなくても、ルカが噛んだ時点で彼女は死んでいた。ルカの特殊な体質は、解毒をせず、吸収してしまう。今、現在はさらに強い毒性を持っているということになる」
「そんな……」
毒を盛られるたびに自分自身が猛毒をもつ生物になっていく……ということか。
まるで自分が新種の生き物のように思えてくるのが悲しい。
「悲しい顔をしないでくれ、ルカ。ずっと君に会いに来られなかったのは、薬の開発が上手くいっていなかったからなんだ。でもようやく、ルカの体内の毒を消す薬が出来た」
「毒を、消せるの?」
「そうだ。しかしラットの実験では成功したが、人体ではまだどうなるか確証はない。解毒に成功するのは七〇パーセントあるかないか……ってところだろう。この薬を打つかどうかはルカ自身が決めていい」
「解毒します!!」
即答した。NIRVANAの時の毒を、自分の血の中に吸収しているなんて事実もショックだったが、何より、もう誰も殺したくはない。
万が一ジョバンニに傷を入れてしまったら、彼を殺してしまうことになる。
そんな可能性は僅かにも持ちたくない。
アクリスはその後、薬の説明を聞かせてくれた。
その中に重要な内容が含まれていた。
「もしかすると、吸血族としてのDNAではなくなるかもしれない」というものだった。
毒の混ざった血液の性質を、一から変える薬らしい。
それにより、吸血族の形態ではなくなるかもしれない可能性を口にした。
ルカには難しすぎて理解に苦しむ内容であったが、あくまでそれは可能性であり、副作用がどう出るかなど、やってみなくては分からないことだからけなのだと言う。
「なんせ出来上がったばかりの薬だ。吸血族でなくなり、本当の人間になった時、ルカの両性の機能がどうなるのか、その色素の薄い肌や髪がどうなるのか、ルビーとブルーの瞳がどうなるのか。それも全て想像もつかない」
アクリスははっきり言って、吸血族でなくなった方が生きていきやすい。
だから、できれば解毒と共に人間になってくれることを祈っているとルカに言う。
もしルカが人間になれば、もう血液成分のドリンクも飲まなくてもいい。
そうすれば、例えアクリスの命が絶えた後も、普通に生きていける。
NIRVANAでは死んだことになっているルカの面倒を、アクリスから引き継げる人材はいない。
ならば、アクリスがいなくとも生きていけるようにしてあげたい。
そう願って解毒の薬を開発した。
「それは、アクリスが実の父親だから。そうしてくれたの?」
「勿論それもあるが、ガットにも幸せになって欲しいんだ。両性の機能を持って生まれた吸血族だけはロボットのような人生しか歩めない。普通の吸血族なら、今では人間と変わらず恋愛して、家庭を持てる。ガットだって、そうであって欲しいんだ」
吸血族を絶やすわけにはいかない。
でもこの薬の開発に成功すれば、役を終えたガットも人間としての第二の人生を送ることができるようになるかもしれない。
それはきっと、アクリスの愛したガット……つまりルカを産んだガットと叶えたかった夢なのかもしれないと、ルカは思った。
それが叶わないままガットは処分された。だからその想いを、ルカに授けたかった……。
アクリスの壮大な愛を感じた。
ルカは、本当に自分は愛されて生まれたんだと、実感できた。
「聞こえは良いかもしれないが、要はルカを実験台にすることにもなる。だから、断ってくれても構わない。もう一度よく考えて……」
「僕、やります! 薬を打ちます。アクリスを信じてる。それに、例え失敗しても後悔も何もないよ。もう既に僕は二度死んだも同然だ。何も怖くない」
「ルカ……。いつの間に、そんなに強くなって……」
目頭が熱くなったアクリスの手を取る。
ルカにとって、アクリスという存在がどんな大きいかは計り知れない。まだこの街には馴染めていないが、それでもアクリスがそこまでしてくれたなら、全て受け止めたいと思った。
「分かったよ。ルカ。薬の準備をしても良いかな?」
「お願いします」
もしルカに毒の耐性がなければ、今頃本当にルカは死んでいた。
「今日は、ルカに会いに来て良かったよ」
アクリスが言う。何故だろう? と首を傾げると、ルカの体内に浸透した毒を解毒する薬を開発したのだという。
「ルカはきっと、アニータに打たれた毒が原因で、彼女が死んだと思っているんだろう? モルセーゴの時と同じように」
「はい」
こくりと頷いた。他に理由など思い浮かばない。
アクリスはルカの顔をじっと見ると、モルセーゴ達が飲ませた毒も、解毒はできていないと説明した。
「アニータが毒を打っていてもいなくても、ルカが噛んだ時点で彼女は死んでいた。ルカの特殊な体質は、解毒をせず、吸収してしまう。今、現在はさらに強い毒性を持っているということになる」
「そんな……」
毒を盛られるたびに自分自身が猛毒をもつ生物になっていく……ということか。
まるで自分が新種の生き物のように思えてくるのが悲しい。
「悲しい顔をしないでくれ、ルカ。ずっと君に会いに来られなかったのは、薬の開発が上手くいっていなかったからなんだ。でもようやく、ルカの体内の毒を消す薬が出来た」
「毒を、消せるの?」
「そうだ。しかしラットの実験では成功したが、人体ではまだどうなるか確証はない。解毒に成功するのは七〇パーセントあるかないか……ってところだろう。この薬を打つかどうかはルカ自身が決めていい」
「解毒します!!」
即答した。NIRVANAの時の毒を、自分の血の中に吸収しているなんて事実もショックだったが、何より、もう誰も殺したくはない。
万が一ジョバンニに傷を入れてしまったら、彼を殺してしまうことになる。
そんな可能性は僅かにも持ちたくない。
アクリスはその後、薬の説明を聞かせてくれた。
その中に重要な内容が含まれていた。
「もしかすると、吸血族としてのDNAではなくなるかもしれない」というものだった。
毒の混ざった血液の性質を、一から変える薬らしい。
それにより、吸血族の形態ではなくなるかもしれない可能性を口にした。
ルカには難しすぎて理解に苦しむ内容であったが、あくまでそれは可能性であり、副作用がどう出るかなど、やってみなくては分からないことだからけなのだと言う。
「なんせ出来上がったばかりの薬だ。吸血族でなくなり、本当の人間になった時、ルカの両性の機能がどうなるのか、その色素の薄い肌や髪がどうなるのか、ルビーとブルーの瞳がどうなるのか。それも全て想像もつかない」
アクリスははっきり言って、吸血族でなくなった方が生きていきやすい。
だから、できれば解毒と共に人間になってくれることを祈っているとルカに言う。
もしルカが人間になれば、もう血液成分のドリンクも飲まなくてもいい。
そうすれば、例えアクリスの命が絶えた後も、普通に生きていける。
NIRVANAでは死んだことになっているルカの面倒を、アクリスから引き継げる人材はいない。
ならば、アクリスがいなくとも生きていけるようにしてあげたい。
そう願って解毒の薬を開発した。
「それは、アクリスが実の父親だから。そうしてくれたの?」
「勿論それもあるが、ガットにも幸せになって欲しいんだ。両性の機能を持って生まれた吸血族だけはロボットのような人生しか歩めない。普通の吸血族なら、今では人間と変わらず恋愛して、家庭を持てる。ガットだって、そうであって欲しいんだ」
吸血族を絶やすわけにはいかない。
でもこの薬の開発に成功すれば、役を終えたガットも人間としての第二の人生を送ることができるようになるかもしれない。
それはきっと、アクリスの愛したガット……つまりルカを産んだガットと叶えたかった夢なのかもしれないと、ルカは思った。
それが叶わないままガットは処分された。だからその想いを、ルカに授けたかった……。
アクリスの壮大な愛を感じた。
ルカは、本当に自分は愛されて生まれたんだと、実感できた。
「聞こえは良いかもしれないが、要はルカを実験台にすることにもなる。だから、断ってくれても構わない。もう一度よく考えて……」
「僕、やります! 薬を打ちます。アクリスを信じてる。それに、例え失敗しても後悔も何もないよ。もう既に僕は二度死んだも同然だ。何も怖くない」
「ルカ……。いつの間に、そんなに強くなって……」
目頭が熱くなったアクリスの手を取る。
ルカにとって、アクリスという存在がどんな大きいかは計り知れない。まだこの街には馴染めていないが、それでもアクリスがそこまでしてくれたなら、全て受け止めたいと思った。
「分かったよ。ルカ。薬の準備をしても良いかな?」
「お願いします」
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