【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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40、この苦しみの先にあるもの②

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 ♢♢♢


「ぅわ!!」 
 ガバッと飛び起きた。
「うわ」
 ルカとほぼ同時に声がする。
 さっきまでの風景が一変していた。が、目の前がぐらりと大きく揺れて再び倒れた。

「ルカ、大丈夫か?」
 聞き慣れた声が聞こえてハッとする。これはジョバンニの声だ。
 ということは塔の中に入れたというわけか? 眩暈が治るのを待ち、ゆっくりと目を開ける。

「……ここは?」
「マンションに帰ってきた。ビルの裏で倒れてたんだぞ。なんであんな所に行ってたんだ?」
 ジョバンニが見つけ出してここまで運んでくれたのか。
 まだ何かを考えようとすると頭がグラグラする。

「無理するな。ルカが急にいなくなってたから、急いで探しに行ったんだ」
 ジョバンニはルカがマンションを出た理由を尋ねつつも、ルカが答えるまで詰め寄るような真似はしなかった。
 それよりも心配の方が大きかったようだ。

「どうして僕が、あんな路地裏にいるって分かったんですか?」
 横になったまま尋ねた。
「実は……昨日から、ルカの異変には気付いていたんだ。だから、もしかすると……と思って、ニット帽にGPSをこっそりと付けていた。あぁ、居場所が分かる機械のことだ。そのニット帽がルカの倒れていた路地裏の近くに落ちていたんだ」
 そう言えば、あの時はアニータとの対立で帽子にまで気が向いていなかった。
 落としていることにも気付かなかったと、ジョバンニに言われたことで思い出す。
 サングラスも失くしてしまった。

「運ぶの、大変でしたよね」
「実は俺一人じゃなかった。とはいえ、目立ったのには変わりないけどな」
 ジョバンニは苦笑いをしながら続けた。
「ルカに会わせたい人がいてね。一緒にマンションに帰ったタイミングで、あんたが失踪してたものだから」
「会わせたい人?」
 人間の世界に知り合いなんていないルカは、それが誰なのか、見当もつかない。
 
「やぁ、久しぶりだね」
 タイミングを見計らって寝室のドアが開く。
 その向こうから顔を出したのはとても懐かしい顔だった。

「アクリス!! なんで……」
「そりゃルカに会いたかったからだよ。元気にしているとジョバンニから聞いていたから驚いたよ。ずっとルカには謝りたかったんだ。今まで、本当の父親だと隠していてすまなかった」
「そんなの、仕方のないことだもん。アクリスは悪くない。それに、僕は嬉しかったんだ。アクリスと本当の親子だなんて知って」
「そう言って貰えると救われるよ」

 アクリスと再会できたはいいが、何故今になってアクリスを家に連れて来たのだろうか。
 それをジョバンニに聞くと、今日は本当はフィオーネとしての仕事に行っていたと言った。

「今日の仕事は写真家の方じゃなかった。組織の最高幹部がついに顔を出し始めたとモレッティから情報が入った」
 きっと次々に死んでしまう幹部に焦ったのだろう。組織の隠れ家をアッサリと突き止める。
 フィオーネは隠れ家から幹部が出てくる瞬間を狙い、隠れた場所から銃殺に成功した。

「じゃあ、組織の幹部は……」
「もう組織ごとなくなると考えて良いだろうな。後はあの女さえ仕留めれば……」
 どうやらアニータのことを言っているようだった。

 ルカは話そうかどうか一時悩んだが、隠したところで出かけていた理由を話せば、色々とバレると思い、自ら真実を話した。

 アニータから存在ごと消えてくれと頼まれたこと、ジョバンニのことは恋愛の意味で好意を寄せていたこと、最終的に猛毒の注射を打たれたこと。

「それで、アニータは……」
「彼女から殺されそうになった時、我を忘れて……気付けば噛んでました」
「じゃあ、アニータ死んだ?」
「灰になって風に飛ばされて消えました。その後、僕も気を失って……」

 鮮明に思い出せたことに、自分でも驚いた。できれば、忘れたかった。
 アニータを噛んだ時は我を失っていたのに、後になってしっかりと記憶に刻まれているなんて、あまりに残酷だと思ってしまった。

 その話をし終えた時、アニータのことをどう謝るべきかを考え、黙り込んだ。
 ジョバンニも同時に考え事をするように無口になった。
 アクリスがジョバンニに近づき、背中を撫でた。

「ルカがアニータを殺していなかったとしても、俺が殺していた」
 ジョバンニが静かに告げた時、ルカは顔を上げた。
「組織と深く関わりがあった。アニータを生かしておくわけにはいかない。組織の幹部を全員殺した後、アニータを殺す予定だった。なのに、ルカがマンションにいないから、もしかしてアニータが拐ったんじゃないかと思って。急いで探したんだ」
「すみません」
「無事だったから許す」

 ジョバンニはそう言って笑ってくれた。
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