【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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37、さよならジョバンニ③

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「……どう言うこと?」

 注射を刺して数分後、アニータが不審そうな表情を見せた。
 即効性のある薬品だったようだ。
 指先は痺れないのか、吐き気はないのか、眩暈はしないのか、アニータから質問攻めにされる。しかし、やはりこの毒もルカには効かなかった。
 首を締め付けられ、声は出せないが、可能な範囲で首を横に振った。

「そんなわけないじゃない。猛毒よ。普通の人間なら、肌に触れただけでも皮膚が壊死してしまうほどの……。それを血管に流されてなんともないって言うわけ?」
「ん。んー」
 ルカが苦しんでいるのは、アニータから首を絞められているからだけであって、その他に異常は感じられない。

「あいつ……もしかして私を騙したのね」
 きっと組織の人間を思い出したのだろう。
 この毒を渡した人に裏切られたと思ったようだ。
「私をこんな目に合わせて、あんたも、あいつも許さないわ」
 ルカの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけた。

 そのまま地面に何度も頭をぶつけられ、これにはルカも脳震盪を起こすほどの痛みだった。
 アニータは容赦なく攻撃してくる。
 そのうち、ルカの前髪を鷲掴みにしてまで頭を打ちつけた。
「痛い!! やめ……て……」
「やめるわけないでしょう!! どの道、あんたは殺される運命だったのよ!! 死に方が変わっただけ!! 毒で死んだとしても、苦しむことには変わりなかったわ!!」
 一言一言、念を込めるように、言い聞かせるように怒鳴る。
 その都度、頭を地面にぶつけられた。

 ルカは自分の中の血が激る感覚を確認した。これには身に覚えがある。
 モルセーゴに噛みついた時も、自分の奥深いところから、血が沸騰するような熱を感じた。
 その後我を見失い、気付いた時にはモルセーゴは死んでいた。
 このままでは、アニータも同じように殺してしまう。

「やめ……に、げ……」
「私に逃げろって? 笑わすんじゃないわよ!!」
 最後に一番強く頭を打った瞬間、ルカは我を失った。
 アニータの手首を掴み捻りあげる。アニータはあまりの痛みに悲鳴を上げたが、ルカには聞こえない。
 獣のような唸り声を上げると、アニータの腕に容赦なく牙を立てた。

「っっああああああ!!!!」
 アニータが体を捩らせて身悶える。ルカを離そうと腕を振るうが無駄だ。

 あのモルセーゴでもこの牙から逃れられなかったのだ。
 そして、あの時も毒を盛られた後だった。
 今回も、あろうことかアニータはルカに猛毒の薬品を打っていた。
「ぐるるる……」
「はな……して……。離しなさい!! 言うことが聞けないの!? はな……うっ……ぐふ……」

 アニータが盛大に吐いた。
 NIRVANAの光景が蘇る。ルカは吐瀉物がかからないよう、器用に避けた。
 牙が離れた頃、アニータにはすでに毒が回っている。
 雄叫びを上げながら、しばらくの間のたうち回っていた。
 ルカはもう助からないと知っているので、少し距離を置いてしゃがみ込んだ。

「呪ってやる……お前を……のろって……」
 アニータが血眼を震わせ、ルカを睨みつけた。
 まなじりに血管が浮き上がり、今にも裂けそうだ。アニータがルカに打った毒は相当強いものらしく、その毒の成分を逆に注入されたアニータは再び盛大に吐いた。
 全身が痙攣し、もう立ち上がることすら困難になっている。

(そろそろかな……)
 ルカは冷静にアニータを眺めていた。
 そしてモルセーゴの時と同じように、アニータの足先から灰になっていく。
 最後の髪の毛が灰になる頃、風が吹き込み、空中に舞って消えた。

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