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36、さよならジョバンニ②
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全てをアニータに話す必要はないと思っていたのだが、あまりにもしつこくルカを罵倒するものだから、黙って聞いているのもバカらしく思えてくる。
それにルカは気付いていた。彼女から薬品のような匂いがするのを。
香水に紛れて誤魔化しているつもりだろうが、大通りでいた時から、時折酸味の強い、鼻を突くような匂いがしていた。
この路地裏に連れ込んだのは、きっとここでルカを殺めるか……もしくは意識を失わせてどこかに連れて行かれるか……。
色んな匂いのするこの場所なら、薬品の一つや二つ持っていても気付かれることはない。
それに例えここでルカを殺めたとして、死体を放置しても誰かの目に止まることもない。
そうでなければ、不法投棄されたゴミがここまで錆びているわけがないのだ。
アニータは前もってこの場所を下調べしていたのだろう。
足場の悪いこんな路地裏でも、アニータはタイトなミニスカートから豊満な腿を出し、ピンヒールでしっかりと立っている。
真っ赤な口紅が塗り込まれた唇で嘲るように笑うと、ルカに一歩、また一歩と距離を縮める。
アニータは知らない。ルカには毒が効かないと言うことを。
流石のライターとして腕の立つアニータでも、そこまでは調べられなかったようだ。
吸血族を死なせるには、血液成分を与えず放置するしかない。
そうでなければ、寿命がくるのを待つだけだ。
ルカはこの時間がとても無駄に思えてきてしまった。
「こんなことしても、意味ないと思いますよ」
「どうしてそんなことが言えるのかしら? そんな華奢な体で、私に力付くで勝てるとでも思っているの? 人間の振りをして人間じゃないあんただけど、人並み外れた腕力があるなんてわけじゃないでしょ?」
そのくらい、調べはついているわ。とでも言いたそうにしている。
片方の眉をヒクリと上げた。
どうやら毒が効かないという考えには至っていない。
「僕を追い出して、ジョバンニさんとどうかするつもりなんですか?」
「あんたみたいなお子ちゃまには関係のない話ね。恋愛を知りたければ、もっと大人になってからじゃないと」
「僕はもう成人しています」
「あははっ! 失礼したわ。ガキにしか見えないからつい。でも、ジョバンニだってきっとそう思っているんじゃない? 結局、大人の私の方が魅力があるもの。あんたみたいに肉もついていない、その体のどこにも魅力を感じないわ」
「それでも、ジョバンニさんは口付けてくれます」
「はっ?」
アニータの表情が分かりやすく曇る。
「そんな嘘が通じるとでも思っているの? もっとマシな事を言いなさい」
夢でも見たのかと、鼻で笑った。
「本当です。肌を合わせて抱き合いました。口付けは、僕が望むまましてくれます」
昨日一回きりのことだが、話を盛って毎日してくれているように言った。
そのくらいの嘘は許されるだろう。
いや、この傲慢な女を負かしてやるくらいの嘘は、ルカだって言ってもいいに決まっている。
アニータは興奮の上限がないらしく、益々ルカに詰め寄る脚に力が籠る。
鼻息も荒く、目は血走っている。いつ襲いかかってもおかしくない状態だ。
ジョバンニはアニータは自分の社会的体裁を狙っていると思っているようだが、これは恋愛の意味で狙っているとルカは確信した。
組織を裏切るつもりなのだろうか。しかしこの女なら、それも平気でやり兼ねない。
「もう、いいわ。百歩譲ってジョバンニがあんたにキスをしたとしても、今日で終わり。いい思い出として、あの世に持っていきなさい」
「僕を殺すんですか? そんなことをしたら、きっとジョバンニさんは怒りますよ」
「言い切るじゃない。どこからそんな自信が湧くのかしら。そんな化け物のような目をして。よく今まで追い出されなかったものだわ」
「目は……生まれつきです。ジョバンニさんは、この目を綺麗だと言ってくれました」
「慰めじゃない?」
「そんなわけ……っっ」
目の前に立ったアニータが、ルカの首を鷲掴みにした。
お構いなしに力を込めると、長い爪が首に食い込む。
「ぐ、んぐ……」
「殺してやる。あんたなんか。死んで償え! 私の邪魔をした。あんたさえいなければジョバンニは……」
「関係……な……」
「関係ないものか!! いつの間にか現れたと思ったら、私の場所を奪いやがった穢らわしい吸血族め!! 一人でのこのこやって来て、私に勝てるとでも思ったの? 本当に世間知らずなガキだね」
アニータはルカを地面に叩きつけると、ジャケットのポケットから注射器を取り出した。
ルカに馬乗りになり、首に躊躇いなく針を刺した。
「ん……」
上から押さえつけられ、身動きも取れない。されるがままだった。
中の透明の液体がルカの体に流れこむ。
これが普通の人間なら……、いや、ルカ以外の吸血族でも、毒に蝕まれ息絶えただろう。
しかし、ルカは違う。
それにルカは気付いていた。彼女から薬品のような匂いがするのを。
香水に紛れて誤魔化しているつもりだろうが、大通りでいた時から、時折酸味の強い、鼻を突くような匂いがしていた。
この路地裏に連れ込んだのは、きっとここでルカを殺めるか……もしくは意識を失わせてどこかに連れて行かれるか……。
色んな匂いのするこの場所なら、薬品の一つや二つ持っていても気付かれることはない。
それに例えここでルカを殺めたとして、死体を放置しても誰かの目に止まることもない。
そうでなければ、不法投棄されたゴミがここまで錆びているわけがないのだ。
アニータは前もってこの場所を下調べしていたのだろう。
足場の悪いこんな路地裏でも、アニータはタイトなミニスカートから豊満な腿を出し、ピンヒールでしっかりと立っている。
真っ赤な口紅が塗り込まれた唇で嘲るように笑うと、ルカに一歩、また一歩と距離を縮める。
アニータは知らない。ルカには毒が効かないと言うことを。
流石のライターとして腕の立つアニータでも、そこまでは調べられなかったようだ。
吸血族を死なせるには、血液成分を与えず放置するしかない。
そうでなければ、寿命がくるのを待つだけだ。
ルカはこの時間がとても無駄に思えてきてしまった。
「こんなことしても、意味ないと思いますよ」
「どうしてそんなことが言えるのかしら? そんな華奢な体で、私に力付くで勝てるとでも思っているの? 人間の振りをして人間じゃないあんただけど、人並み外れた腕力があるなんてわけじゃないでしょ?」
そのくらい、調べはついているわ。とでも言いたそうにしている。
片方の眉をヒクリと上げた。
どうやら毒が効かないという考えには至っていない。
「僕を追い出して、ジョバンニさんとどうかするつもりなんですか?」
「あんたみたいなお子ちゃまには関係のない話ね。恋愛を知りたければ、もっと大人になってからじゃないと」
「僕はもう成人しています」
「あははっ! 失礼したわ。ガキにしか見えないからつい。でも、ジョバンニだってきっとそう思っているんじゃない? 結局、大人の私の方が魅力があるもの。あんたみたいに肉もついていない、その体のどこにも魅力を感じないわ」
「それでも、ジョバンニさんは口付けてくれます」
「はっ?」
アニータの表情が分かりやすく曇る。
「そんな嘘が通じるとでも思っているの? もっとマシな事を言いなさい」
夢でも見たのかと、鼻で笑った。
「本当です。肌を合わせて抱き合いました。口付けは、僕が望むまましてくれます」
昨日一回きりのことだが、話を盛って毎日してくれているように言った。
そのくらいの嘘は許されるだろう。
いや、この傲慢な女を負かしてやるくらいの嘘は、ルカだって言ってもいいに決まっている。
アニータは興奮の上限がないらしく、益々ルカに詰め寄る脚に力が籠る。
鼻息も荒く、目は血走っている。いつ襲いかかってもおかしくない状態だ。
ジョバンニはアニータは自分の社会的体裁を狙っていると思っているようだが、これは恋愛の意味で狙っているとルカは確信した。
組織を裏切るつもりなのだろうか。しかしこの女なら、それも平気でやり兼ねない。
「もう、いいわ。百歩譲ってジョバンニがあんたにキスをしたとしても、今日で終わり。いい思い出として、あの世に持っていきなさい」
「僕を殺すんですか? そんなことをしたら、きっとジョバンニさんは怒りますよ」
「言い切るじゃない。どこからそんな自信が湧くのかしら。そんな化け物のような目をして。よく今まで追い出されなかったものだわ」
「目は……生まれつきです。ジョバンニさんは、この目を綺麗だと言ってくれました」
「慰めじゃない?」
「そんなわけ……っっ」
目の前に立ったアニータが、ルカの首を鷲掴みにした。
お構いなしに力を込めると、長い爪が首に食い込む。
「ぐ、んぐ……」
「殺してやる。あんたなんか。死んで償え! 私の邪魔をした。あんたさえいなければジョバンニは……」
「関係……な……」
「関係ないものか!! いつの間にか現れたと思ったら、私の場所を奪いやがった穢らわしい吸血族め!! 一人でのこのこやって来て、私に勝てるとでも思ったの? 本当に世間知らずなガキだね」
アニータはルカを地面に叩きつけると、ジャケットのポケットから注射器を取り出した。
ルカに馬乗りになり、首に躊躇いなく針を刺した。
「ん……」
上から押さえつけられ、身動きも取れない。されるがままだった。
中の透明の液体がルカの体に流れこむ。
これが普通の人間なら……、いや、ルカ以外の吸血族でも、毒に蝕まれ息絶えただろう。
しかし、ルカは違う。
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