【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
36 / 47

36、さよならジョバンニ②

しおりを挟む
 全てをアニータに話す必要はないと思っていたのだが、あまりにもしつこくルカを罵倒するものだから、黙って聞いているのもバカらしく思えてくる。

 それにルカは気付いていた。彼女から薬品のような匂いがするのを。
 香水に紛れて誤魔化しているつもりだろうが、大通りでいた時から、時折酸味の強い、鼻を突くような匂いがしていた。

 この路地裏に連れ込んだのは、きっとここでルカを殺めるか……もしくは意識を失わせてどこかに連れて行かれるか……。

 色んな匂いのするこの場所なら、薬品の一つや二つ持っていても気付かれることはない。
 それに例えここでルカを殺めたとして、死体を放置しても誰かの目に止まることもない。
 そうでなければ、不法投棄されたゴミがここまで錆びているわけがないのだ。
 アニータは前もってこの場所を下調べしていたのだろう。

 足場の悪いこんな路地裏でも、アニータはタイトなミニスカートから豊満な腿を出し、ピンヒールでしっかりと立っている。
 真っ赤な口紅が塗り込まれた唇で嘲るように笑うと、ルカに一歩、また一歩と距離を縮める。
 
 アニータは知らない。ルカには毒が効かないと言うことを。

 流石のライターとして腕の立つアニータでも、そこまでは調べられなかったようだ。
 吸血族を死なせるには、血液成分を与えず放置するしかない。
 そうでなければ、寿命がくるのを待つだけだ。

 ルカはこの時間がとても無駄に思えてきてしまった。
「こんなことしても、意味ないと思いますよ」
「どうしてそんなことが言えるのかしら? そんな華奢な体で、私に力付くで勝てるとでも思っているの? 人間の振りをして人間じゃないあんただけど、人並み外れた腕力があるなんてわけじゃないでしょ?」
 そのくらい、調べはついているわ。とでも言いたそうにしている。
 片方の眉をヒクリと上げた。
 どうやら毒が効かないという考えには至っていない。

「僕を追い出して、ジョバンニさんとどうかするつもりなんですか?」
「あんたみたいなお子ちゃまには関係のない話ね。恋愛を知りたければ、もっと大人になってからじゃないと」
「僕はもう成人しています」
「あははっ! 失礼したわ。ガキにしか見えないからつい。でも、ジョバンニだってきっとそう思っているんじゃない? 結局、大人の私の方が魅力があるもの。あんたみたいに肉もついていない、その体のどこにも魅力を感じないわ」
「それでも、ジョバンニさんは口付けてくれます」
「はっ?」
 アニータの表情が分かりやすく曇る。

「そんな嘘が通じるとでも思っているの? もっとマシな事を言いなさい」
 夢でも見たのかと、鼻で笑った。
「本当です。肌を合わせて抱き合いました。口付けは、僕が望むまましてくれます」
 昨日一回きりのことだが、話を盛って毎日してくれているように言った。
 そのくらいの嘘は許されるだろう。
 いや、この傲慢な女を負かしてやるくらいの嘘は、ルカだって言ってもいいに決まっている。

 アニータは興奮の上限がないらしく、益々ルカに詰め寄る脚に力が籠る。
 鼻息も荒く、目は血走っている。いつ襲いかかってもおかしくない状態だ。

 ジョバンニはアニータは自分の社会的体裁を狙っていると思っているようだが、これは恋愛の意味で狙っているとルカは確信した。
 組織を裏切るつもりなのだろうか。しかしこの女なら、それも平気でやり兼ねない。

「もう、いいわ。百歩譲ってジョバンニがあんたにキスをしたとしても、今日で終わり。いい思い出として、あの世に持っていきなさい」
「僕を殺すんですか? そんなことをしたら、きっとジョバンニさんは怒りますよ」
「言い切るじゃない。どこからそんな自信が湧くのかしら。そんな化け物のような目をして。よく今まで追い出されなかったものだわ」
「目は……生まれつきです。ジョバンニさんは、この目を綺麗だと言ってくれました」
「慰めじゃない?」
「そんなわけ……っっ」
 
 目の前に立ったアニータが、ルカの首を鷲掴みにした。
 お構いなしに力を込めると、長い爪が首に食い込む。
「ぐ、んぐ……」
「殺してやる。あんたなんか。死んで償え! 私の邪魔をした。あんたさえいなければジョバンニは……」
「関係……な……」
「関係ないものか!! いつの間にか現れたと思ったら、私の場所を奪いやがった穢らわしい吸血族め!! 一人でのこのこやって来て、私に勝てるとでも思ったの? 本当に世間知らずなガキだね」

 アニータはルカを地面に叩きつけると、ジャケットのポケットから注射器を取り出した。
 ルカに馬乗りになり、首に躊躇いなく針を刺した。
「ん……」
 上から押さえつけられ、身動きも取れない。されるがままだった。

 中の透明の液体がルカの体に流れこむ。
 これが普通の人間なら……、いや、ルカ以外の吸血族でも、毒に蝕まれ息絶えただろう。

 しかし、ルカは違う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

エデンの住処

社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。 それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。 ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。 『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。 「兄さん、僕のオメガになって」 由利とYURI、義兄と義弟。 重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は―― 執着系義弟α×不憫系義兄α 義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか? ◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

【本編完結】貴方の為に出来ること。

Shizukuru
BL
大好きな人がいる。 婚約もしていた。 だけど、原因不明の高熱による後遺症で左足が動かせなくなった為に婚約は、白紙。 義理の弟になるはずのあの子が、あの人の婚約者候補になるみたいだ。 役に立たない僕は、生きている意味がない。 だから、せめて貴方の為に。 ☆☆☆ R回に※をつけます。

処理中です...