【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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35、さよならジョバンニ①

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「やっと、顔を出したわね」
 翌朝、ルカはジョバンニに秘密で外出した。
 幸い、ジョバンニはいつもより更に早く家を出た。マンションの窓から、ジョバンニが車の方へと歩いているのを確認すると、ルカも出ていく支度を始める。

 とはいえ、元々荷物など殆どない。
 ここに帰ってこられるとは思っていないが、全ての荷物を置いていったとしてもすぐに処分できる程のものしかない。

 ジョバンニがくれたニット帽とサングラスをして、立ち上がる。
 ネーロはまだ体を丸めて眠っていた。
「ネーロ。僕、行くね」
 小声で挨拶をしてから、そっとマンションを出た。

 そうして以前アニータから声をかけられた場所まで来ると、予想通りアニータが姿を現したのだ。
「やっぱり、僕を監視してたんですね」
「監視だなんて、人聞きの悪い。偶然よく会うってだけでしょ? 私は仕事も忙しいから、あなたを監視する時間なんてないわ」

 安っぽい流し目で気怠そうに喋る。虫唾が走るような口振りだ。
 ルカを待っていたと言わんばかりの発言をしておいて尚、そんなことが言えるのか。
 自分の言うことに責任を持たないタイプなのだと理解する。

「人目に付かない場所に移動しましょう」
 威圧的な眼力で逆らうことすらさせない。
 路地裏に歩いていくアニータの後をついて行く。
 朝日も届かない、違法に捨てられた粗大ゴミが積まれていた。
 埃や獣臭や古く錆びていった様々な物の匂いが鼻をつく。
 ルカは眉を歪め、鼻と口を両手で押さえた。
 しかしアニータは気にならないのか、平然と話を進めた。

「それで? ジョバンニのマンションから出ていく覚悟を決めたと捉えていいのかしら?」
「僕が出ていく理由はありません」
「まだ分からないの? あなたがジョバンニの隣にいる資格なんてないのよ私は何年も一緒に仕事してきたそして彼を振り向かせようと努力してきたわそれをなぜ今になって急に出てきたあんたみたいなやつにジョバンニを取られなくちゃいけないの? 彼の隣にいるべき人間は私しかいないだってそうでしょ? あんたみたいな得体の知れない吸血族だかなんだか知らないけどあんたが一体彼のために何ができるって言うの? その点私なら仕事を助けてあげられる。必要な情報を調べることだってできるしなんなら夜の営みだって満足させる自信あるわ。あんたにそれができるかしら? できないわよね? それでも彼を縛り付けると言うなら消えてもらうしかないわそうでしょう?」

 アニータがものすごい勢いで捲し立てる。あまりにも早口で迫力があり、ルカは何一つ聞き取ることができなかった。
 その上「いつ息してるんですか?」などと頓珍漢な質問で返してしまったものだから、余計に彼女の怒りを買ってしまったのだ。

 大体、ルカがジョバンニのマンションを出たところで、アニータには何のメリットもない。
 ジョバンニのあの口振りから推測するに、然程アニータを好いているようには感じ取れなかった。

 しかしアニータは自分に相当自信があるらしく、他人をマンションで住まわせるのなら、ルカを追い出せば自分がジョバンニと同棲できると確信しているのだろうと思われた。

 ルカは出て行くつもりはないと思わせる発言をしたが、それは嘘だった。
 ネーロには別れを告げたし、ジョバンニとの思い出も作った。
 本当は最後まで抱いて欲しかったが、無理は言えない。あのキスを思い出すだけで、ジョバンニに包まれていると錯覚するほど安心する。
 その気持ちだけを抱えて、身を潜めようと覚悟していた。
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