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26、それぞれの想い③
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ネーロは寝る間際までジョバンニを独り占めした。
寝室に猫は入れないので、ルカはそれまでひたすら溺愛されるネーロを眺めて過ごすはめになってしまった。
(僕には、こんなふうに甘えたことなんてないじゃないか)
どちらに向けられた嫉妬なのかも分からない感情と、一人悶々と戦った。
「僕、先に休みます」
ついに我慢の限界が来たルカはソファから立ち上がる。
「じゃあ俺も寝るか。明日も早いしな」
「別に合わせてくれなくてもいいですよ。ネーロもまだ遊んで欲しそうですし」
全く、なんて可愛げのないやつなんだと思われただろう。自分でもこんな態度をとってしまうなんて、どうかしてると思っている。
こんな態度を取りたいんじゃない。それなのに、ジョバンニにはつい反抗的な態度をとってしまう。
ジョバンニに対して慣れて来ているのは確かだが、その途端にこんな突っかかってばかりいると、直ぐに愛想を尽かされてしまいそうだ。
結局、ジョバンニはネーロをリビングに置き、ルカの後を追ってベッドへと入ってきた。
「アクリスの話が、ショックだったのか?」
どうやら、ジョバンニはルカがアクリスの話を聞いて機嫌を損ねたと思っている様子であった。
無言で首を振るルカの頭を撫でる。さっきまで、ネーロを撫でていたのと同じように……。
やめろと言わんばかりに頭を振ると、「ふふ」っと声を出して笑った。
「機嫌が悪い時のネーロとそっくりだ」
「ぐぅ!!」
また猫と同じ扱いをされた。
どうしても上手く立ち振る舞えない自分が悔しい。口を尖らせてジョバンニを見ると、ルカの反応が面白かったらしいジョバンニは失笑していた。
ルカには常に一定の距離を置くネーロが、ジョバンニには甘えている。
それは別に良いのだが、ルカの目から見て、明らかにワザとそうしているネーロに対し、ジョバンニは直ぐ顔を綻ばせる。それが嫌だったのだ。
こんなの、ただのネーロの悪口でしかない。
ネーロはジョバンニの大切な家族なのだと言っていた。大切な存在を貶すなんて、許されないことだ。
「アクリスが本当の父親というのはビックリしました。でも、嬉しかった。NIRVANAから出された時、本当はアクリスに裏切られたと思ったんです。すぐに違うと分かりましたけど。でも、ずっと優しくしてくれていた。あの優しさが真実だったってことが証明されたと思いました」
「そうだな。アクリスはいつだって穏やかな良い奴だ。さぁ、もう寝よう」
ジョバンニはその後直ぐに目を閉じた。
ルカが手を払いのけてしまったからか、いつものように抱きしめてはくれなかった。
そしてジョバンニは、久しぶりに魘されていた。額いっぱいに吹き出した汗を拭うしか出来ない自分が情けなく、なんとも寝心地の悪い夜となった。
次の朝は予定通り、ジョバンニは早くから仕事へと出掛けて行った。
ルカも一緒に起きて見送ろうと思っていたのに、目が覚めた時、ベッドにはジョバンニの体温しか残っていなかった。
頑張ろうと思ってもいつも空回りしてしまう。
ルカはベッドから起き上がると、ジョバンニがくれたニット帽を深く被り、サングラスを掛けた。
まだジョバンニが外に連れ出してくれる時間帯であった。
せめて一人で外出できるようになろうと気合を入れる。
ルカが一人で外出したなんて知ると、きっとジョバンニにも喜んでもらえる。
そうして、次にアクリスに会った時にルカの成長として話してくれるかもしれない。
ドアのすぐ隣に掛けてある鍵を握り締め、通路へと出た。とても緊張している。まずはエレベーターに乗らなければならない。
ジョバンニがしているのを思い出しながらボタンを押す。少し待つと扉が開いた。
「自分で出来た!!」
ルカは流行る気持ちでエレベーターに乗り込む。
いつもは全てジョバンニがしてくれている。ボタンを押す。たったそれだけのことさえ、ルカは初めての経験だった。
マンションの外は相変わらず冷たい空気が頬を掠る。
いつものパン屋までなら行けそうな気がして、足を向けた。
寝室に猫は入れないので、ルカはそれまでひたすら溺愛されるネーロを眺めて過ごすはめになってしまった。
(僕には、こんなふうに甘えたことなんてないじゃないか)
どちらに向けられた嫉妬なのかも分からない感情と、一人悶々と戦った。
「僕、先に休みます」
ついに我慢の限界が来たルカはソファから立ち上がる。
「じゃあ俺も寝るか。明日も早いしな」
「別に合わせてくれなくてもいいですよ。ネーロもまだ遊んで欲しそうですし」
全く、なんて可愛げのないやつなんだと思われただろう。自分でもこんな態度をとってしまうなんて、どうかしてると思っている。
こんな態度を取りたいんじゃない。それなのに、ジョバンニにはつい反抗的な態度をとってしまう。
ジョバンニに対して慣れて来ているのは確かだが、その途端にこんな突っかかってばかりいると、直ぐに愛想を尽かされてしまいそうだ。
結局、ジョバンニはネーロをリビングに置き、ルカの後を追ってベッドへと入ってきた。
「アクリスの話が、ショックだったのか?」
どうやら、ジョバンニはルカがアクリスの話を聞いて機嫌を損ねたと思っている様子であった。
無言で首を振るルカの頭を撫でる。さっきまで、ネーロを撫でていたのと同じように……。
やめろと言わんばかりに頭を振ると、「ふふ」っと声を出して笑った。
「機嫌が悪い時のネーロとそっくりだ」
「ぐぅ!!」
また猫と同じ扱いをされた。
どうしても上手く立ち振る舞えない自分が悔しい。口を尖らせてジョバンニを見ると、ルカの反応が面白かったらしいジョバンニは失笑していた。
ルカには常に一定の距離を置くネーロが、ジョバンニには甘えている。
それは別に良いのだが、ルカの目から見て、明らかにワザとそうしているネーロに対し、ジョバンニは直ぐ顔を綻ばせる。それが嫌だったのだ。
こんなの、ただのネーロの悪口でしかない。
ネーロはジョバンニの大切な家族なのだと言っていた。大切な存在を貶すなんて、許されないことだ。
「アクリスが本当の父親というのはビックリしました。でも、嬉しかった。NIRVANAから出された時、本当はアクリスに裏切られたと思ったんです。すぐに違うと分かりましたけど。でも、ずっと優しくしてくれていた。あの優しさが真実だったってことが証明されたと思いました」
「そうだな。アクリスはいつだって穏やかな良い奴だ。さぁ、もう寝よう」
ジョバンニはその後直ぐに目を閉じた。
ルカが手を払いのけてしまったからか、いつものように抱きしめてはくれなかった。
そしてジョバンニは、久しぶりに魘されていた。額いっぱいに吹き出した汗を拭うしか出来ない自分が情けなく、なんとも寝心地の悪い夜となった。
次の朝は予定通り、ジョバンニは早くから仕事へと出掛けて行った。
ルカも一緒に起きて見送ろうと思っていたのに、目が覚めた時、ベッドにはジョバンニの体温しか残っていなかった。
頑張ろうと思ってもいつも空回りしてしまう。
ルカはベッドから起き上がると、ジョバンニがくれたニット帽を深く被り、サングラスを掛けた。
まだジョバンニが外に連れ出してくれる時間帯であった。
せめて一人で外出できるようになろうと気合を入れる。
ルカが一人で外出したなんて知ると、きっとジョバンニにも喜んでもらえる。
そうして、次にアクリスに会った時にルカの成長として話してくれるかもしれない。
ドアのすぐ隣に掛けてある鍵を握り締め、通路へと出た。とても緊張している。まずはエレベーターに乗らなければならない。
ジョバンニがしているのを思い出しながらボタンを押す。少し待つと扉が開いた。
「自分で出来た!!」
ルカは流行る気持ちでエレベーターに乗り込む。
いつもは全てジョバンニがしてくれている。ボタンを押す。たったそれだけのことさえ、ルカは初めての経験だった。
マンションの外は相変わらず冷たい空気が頬を掠る。
いつものパン屋までなら行けそうな気がして、足を向けた。
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