22 / 47
22、外の世界②
しおりを挟む
「アクリスから外の世界を見せてやってほしいと頼まれていた。近所だけでもいいから、この辺を散歩しよう。おやすみ、ルカ」
ジョバンニはルカの頸にキスを落とした。
アクリスの名前を出すのは狡いとルカは思った。その名前を出せば、断れないのをジョバンニは知っている。
アクリスがルカに外の世界を見せてくれなんて頼む理由なんてない。
部屋から出るなど、ルカにとっては意味を持たなかった。現実を見るのも怖かった。
ラジオを聞いていたあの頃に抱いた希望は、とうに消え去っていた。
あんなのはただの幻想だ。現実はもっと厳しくルカに襲いかかる。今まで自分がどれだけ守られていたかを突きつけられる。
外の世界が現実になった今、ルカが抱いているのは恐怖しかない。
ジョバンニは日頃から十分なほど世話をしてくれている。
これ以上、気にかけてもらわなくてもいい。きっとそう言っても、ジョバンニは明日ルカを外に連れ出すだろう。
そしてそれが命令だと言われれば、ルカはどんなに怖くても外に出なくてはならない。
ジョバンニは疲れているのか、すぐに寝息を立て始めた。
今まで眠れないと言っていたのは本当なのか? と疑ってしまうほど、寝つきも寝起きもいい。
ルカを包み込んでいる腕の力が抜けた時、ようやく寝返りを打ちジョバンニと向き合った。
(熟睡してる)
彫りの深いジョバンニの寝顔に、触れてみてもいいのだろうか。さっき頸に触れた唇に手を伸ばす。
でも起きてしまったら……。
あと一歩踏み込むのが怖い。今、彼に触れてしまうと、何かが変わってしまうような気がした。
変わるのは恐怖だと感じる。
暗い部屋がそれを誇張させている。
早く朝になってほしい。でも朝には出かけなくてはならない。今日はずっと一緒にいられる。普通に接しられるか不安だ。不安と喜びが波のように交互に押し寄せた。
また朝まで眠れないかもしれない。なんて思っていたが、寝不足でいつの間にか意識を手放していた。
「……ルカ、ルカ。おはよう。起きられるか?」
「ん……」
薄っすらと目を開ける。
「まだ早い時間だから、今ならほとんど人と会うことはないだろうから」
ルカはゆっくりと体を起こす。まだ眠っていたい目を擦った。
「帰ってきてからまた休むといい」
ジョバンニは半ば強制的にルカを起こした。
一週間を過ぎてもずっとマンションに引きこもっているのを心配したのだろう。
着替えさせると、ニット帽とサングラスをかけさせた。
「あんたの髪と目は目立つからな」
されるがままに準備を整える。
ここにきて以来のエレベーターに乗り、一階まで降りた。
マンションのドアが開くと、外からひんやりとした空気が流れ込んでくる。
ジョバンニを掴んだ手は離さないままだった。
冷たい空気を纏いながら、近所のパン屋へと向かう。ブランチのパンを一緒に選ぼうと言われたのだ。
外はジョバンニの言う通り、ほとんど人は歩いていない。これがあと一時間もすると人通りがぐんと増えるのだそうだ。
ルカはジョバンニから到底離れられそうにないが、部屋で身構えていた時ほどは怖くない……かもしれないと思った。
「どうだ、ルカ。外の世界は」
「うん……」
「感想を言えとは言わない。今、自分が住んでいるのはどんな世界なのか、少しくらいは興味を持ってほしいと思ってな」
ジョバンニはルカの半歩前を歩く。
ジョバンニにとっては見慣れた光景を、ルカは改めて街を見渡した。
静かなこの街は直に人々の活気で溢れかえる。今は嵐のまえの静けさというところか……。
「あら? ジョバンニじゃない?」
突然、背後から女性の声がして振り返る。
こんな肌寒い朝から露出の多い服を着ている。豊満な胸や、丸い肩を見せつけるように晒していた。
「アニータ」
ジョバンニの知り合いらしい。ルカは目立たないよう、ソッと身を隠す。
「こんな朝からどうしたの? 仕事?」
「いや、今日は休みなんだ。焼きたてのパンの香りが恋しくてね」
アニータという女は意味深な視線をジョバンニへ送っている。
背後に隠れているルカの存在を意識しつつ、様子を窺っているようにチラチラと覗いていた。ルカは目が合わないよう、ジョバンニの背中に顔を押し当てた。
ルカはなんとなく、この女が嫌いだと思った。
大体、この澄んだ空気が纏う朝に、何という臭さなんだ。思わず鼻を摘みたくなる。
それが香水というものだとは、後からジョバンニが教えてくれたのだが、アニータの香水は二度と嗅ぎたくないと思った。
ジョバンニの背中に顔を擦り付け、早くパン屋に行きたいと促す。
察したジョバンニが「急いでるから……」と、半ば無理矢理アニータから離れてくれた。
アニータはまだ何か話したそうにしていたが、ジョバンニはルカの気持ちを優先させていくれた。
ジョバンニはルカの頸にキスを落とした。
アクリスの名前を出すのは狡いとルカは思った。その名前を出せば、断れないのをジョバンニは知っている。
アクリスがルカに外の世界を見せてくれなんて頼む理由なんてない。
部屋から出るなど、ルカにとっては意味を持たなかった。現実を見るのも怖かった。
ラジオを聞いていたあの頃に抱いた希望は、とうに消え去っていた。
あんなのはただの幻想だ。現実はもっと厳しくルカに襲いかかる。今まで自分がどれだけ守られていたかを突きつけられる。
外の世界が現実になった今、ルカが抱いているのは恐怖しかない。
ジョバンニは日頃から十分なほど世話をしてくれている。
これ以上、気にかけてもらわなくてもいい。きっとそう言っても、ジョバンニは明日ルカを外に連れ出すだろう。
そしてそれが命令だと言われれば、ルカはどんなに怖くても外に出なくてはならない。
ジョバンニは疲れているのか、すぐに寝息を立て始めた。
今まで眠れないと言っていたのは本当なのか? と疑ってしまうほど、寝つきも寝起きもいい。
ルカを包み込んでいる腕の力が抜けた時、ようやく寝返りを打ちジョバンニと向き合った。
(熟睡してる)
彫りの深いジョバンニの寝顔に、触れてみてもいいのだろうか。さっき頸に触れた唇に手を伸ばす。
でも起きてしまったら……。
あと一歩踏み込むのが怖い。今、彼に触れてしまうと、何かが変わってしまうような気がした。
変わるのは恐怖だと感じる。
暗い部屋がそれを誇張させている。
早く朝になってほしい。でも朝には出かけなくてはならない。今日はずっと一緒にいられる。普通に接しられるか不安だ。不安と喜びが波のように交互に押し寄せた。
また朝まで眠れないかもしれない。なんて思っていたが、寝不足でいつの間にか意識を手放していた。
「……ルカ、ルカ。おはよう。起きられるか?」
「ん……」
薄っすらと目を開ける。
「まだ早い時間だから、今ならほとんど人と会うことはないだろうから」
ルカはゆっくりと体を起こす。まだ眠っていたい目を擦った。
「帰ってきてからまた休むといい」
ジョバンニは半ば強制的にルカを起こした。
一週間を過ぎてもずっとマンションに引きこもっているのを心配したのだろう。
着替えさせると、ニット帽とサングラスをかけさせた。
「あんたの髪と目は目立つからな」
されるがままに準備を整える。
ここにきて以来のエレベーターに乗り、一階まで降りた。
マンションのドアが開くと、外からひんやりとした空気が流れ込んでくる。
ジョバンニを掴んだ手は離さないままだった。
冷たい空気を纏いながら、近所のパン屋へと向かう。ブランチのパンを一緒に選ぼうと言われたのだ。
外はジョバンニの言う通り、ほとんど人は歩いていない。これがあと一時間もすると人通りがぐんと増えるのだそうだ。
ルカはジョバンニから到底離れられそうにないが、部屋で身構えていた時ほどは怖くない……かもしれないと思った。
「どうだ、ルカ。外の世界は」
「うん……」
「感想を言えとは言わない。今、自分が住んでいるのはどんな世界なのか、少しくらいは興味を持ってほしいと思ってな」
ジョバンニはルカの半歩前を歩く。
ジョバンニにとっては見慣れた光景を、ルカは改めて街を見渡した。
静かなこの街は直に人々の活気で溢れかえる。今は嵐のまえの静けさというところか……。
「あら? ジョバンニじゃない?」
突然、背後から女性の声がして振り返る。
こんな肌寒い朝から露出の多い服を着ている。豊満な胸や、丸い肩を見せつけるように晒していた。
「アニータ」
ジョバンニの知り合いらしい。ルカは目立たないよう、ソッと身を隠す。
「こんな朝からどうしたの? 仕事?」
「いや、今日は休みなんだ。焼きたてのパンの香りが恋しくてね」
アニータという女は意味深な視線をジョバンニへ送っている。
背後に隠れているルカの存在を意識しつつ、様子を窺っているようにチラチラと覗いていた。ルカは目が合わないよう、ジョバンニの背中に顔を押し当てた。
ルカはなんとなく、この女が嫌いだと思った。
大体、この澄んだ空気が纏う朝に、何という臭さなんだ。思わず鼻を摘みたくなる。
それが香水というものだとは、後からジョバンニが教えてくれたのだが、アニータの香水は二度と嗅ぎたくないと思った。
ジョバンニの背中に顔を擦り付け、早くパン屋に行きたいと促す。
察したジョバンニが「急いでるから……」と、半ば無理矢理アニータから離れてくれた。
アニータはまだ何か話したそうにしていたが、ジョバンニはルカの気持ちを優先させていくれた。
61
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話
NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……?
「きみさえよければ、ここに住まない?」
トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが………
距離が近い!
甘やかしが過ぎる!
自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる