【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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20、ジョバンニとの暮らし④

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 ルカの心配を他所に、ジョバンニはその後も今までそうだったかのように・・・・・・・・・・・・・、二人と一匹の生活を過ごす。

 アクリスから何か断れないようなことを言われたのだろうか。
 そんな考えが頭を過ぎったが、アクリスは脅しをするような人ではない。
 それならば……。

「何故、僕をここに住まわせるんですか?」
 ジョバンニの家に来て一週間が過ぎた頃、ルカはたまらなくなり布団に入ったタイミングで尋ねた。

 ここまで世話を焼く義理がジョバンニにあるとは思えない。
 最初はここに来られたことを嬉しいと感じていたが、だんだん不安になってきた。
 それと同時に、一人の時間がたまらなく寂しいとも……。

 ジョバンニは毎日忙しそうに走り回っている。
 この一週間だけでも帰ってこない日もあったし、夜は大抵遅くに帰ってくる。
 それからルカとネーロの世話をするのだ。
 ストレスが溜まらない方がおかしい。

 それでもジョバンニからの返事は実にシンプルなものだった。
「そういう契約だからだ」
「でも、一度は殺す予定だった相手ですよ? ジョバンニさんは仕事で吸血族を自宅に住まわせて平気なんですか? 噛まれるかもしれないとは思わないんですか?」
「吸血族は女の血しか飲まないと、アクリスから聞いている」
「でも……」

 ルカはモルセーゴに噛み付いて死なせてしまった。
 我を忘れると、自分が何をするか分からない。
 もしもジョバンニを噛んでしまったら。そう考えるだけでも背中に冷や汗が流れる。

「じゃあ逆に聞くが、あんたは自分を殺そうとした奴を、なぜそこまで信用しているんだ?」
「え?」
 ジョバンニの言葉にハッとする。
「毎日同じ布団で寝て、そのうちに殺されるかもしれないとは思わなかったか? 俺がいない間に逃げ出すことだってできる。あんたにとっては得体のしれない毛むくじゃらも、いつ気持ちが変わって殺してくるかも分からないやつも居ない世界に、行こうと思えばいつだってそうできたハズじゃないか。なのに、あんたは律儀に毎日毎日俺の帰りを待っている。何故だ?」
「……」

 ジョバンニの質問に、何も言葉が出なかった。
 何故だ? と聞かれても、ここに連れてこられたからだ。としか言いようがない。他に理由などあるはずもない。

「ルカはどうしたい? 他に行きたい所があるなら、その足で行けばいい。NIRVANAに戻りたきゃ戻ればいい。あんたは今、自分の意志でここにいるんじゃないのか?」

 自分の意志などあるはずもない。
 生まれた時からガットの意志など、なんの意味も持たなかった。
 種付け役の三人の命令が絶対で、それに従わなければ容赦なく暴力を振るわれた。
 それで二十三年間を過ごしてきたのだ。今更、自分の意志で行動しろなどと言われても、できるはずもない。

「……自分の気持ちなんてありません」
「自分がどうしたいのか、分からないって言うのか?」
「ただ命令に従うだけの日々でした。僕は子孫を残すことだけが生きる意味で、それができないから処分された。本当なら、何の価値もない存在です。なのにアクリスが生きろと言うように僕を助けた。それがアクリスからの命令なら、従うべきなんです」
「誰かの命令がなきゃ生きられないのか?」
「その生き方しか知りません」

 きっと呆れただろう。
 ジョバンニにこの話をして、なんと言って欲しかったのかは分からない。
 優しい言葉をかけてほしいなどという期待はしていない。
 もしかすると、命令して欲しかったのかもしれない。
 この街では自分の意志で行動しないといけないのだろうが、今のルカには到底無理な話だ。

 ジョバンニはルカの顔を胸に押し当て、背中を撫でた。
「あんたをここに置く理由は、アクリスとの契約があるからだ。あんたを一生面倒見るだけの依頼金も受け取っている。時折、あんたが元気でやっているかを聞かせてくれと言われた。引き受けた以上はそれをやり遂げる。信頼関係はそうやって築き上げてきた。だから、意味もなくあんたをここから追い出すなんて真似はしないさ。これでも安心できないか?」

 ルカはふるふると頭を横に振る。
 突拍子もない質問をして怒ったかと思い身構えたが、ジョバンニの心臓の音は落ち着いている。それだけでも救われたような気分になれた。

「ルカ、俺から命令しておこう。ここにいろ。そして毎晩こうして一緒に眠ってくれ。契約したから連れてきたのは本当だが、それ以上の価値をあんたに見出してるんだ」
 色素の薄い髪に口付ける。まるで子供をあやすように。

 ジョバンニがルカをここで住まわせているのは、あくまでアクリスとの契約があるからだ。
 そう言われ落胆した自分は、やはりジョバンニの良心を期待したのだろう。
 それでもジョバンニからここに居ろと命令してもらえた。
 せめて迷惑にならないよう心がけようと思い、「はい」と掠れた声を絞り出した。
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