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18、ジョバンニとの暮らし②
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目が覚めると部屋は薄暗く、間接照明がぼんやりと部屋を照らしていた。
自分が眠っていたことにも気付いていなかった。こんな熟睡できたのはいつぶりだろうか。
ジョバンニがかけてくれていたブランケットは柔らかくて気持ちいい。そして、足元ではネーロが丸くなって眠っている。
これには驚いて声をあげそうになったが、なんとか両手で口を押さえて耐えた。
そっと脚を曲げ、距離を取る。
ソファの端に寄って、ルカは行き場を失い膝を抱えた。
ジョバンニの姿が見えない。テーブルにはメモが置かれている。
『奥の部屋で寝ている。目が覚めたら、いつでも起こしてくれ』
時計を見ると日付も変わった一時過ぎ。
どうしようかと悩んだが、空腹には耐えられず静かに奥の部屋を覗きに行く。
ゆっくりとドアを開けたのに、ジョバンニはその僅かな音で目を覚ました。
「良く眠れたか?」
「はい。あの……、起こしてしまって……」
「構わない。そうしてくれと頼んだのは俺だ。食事にしよう」
ジョバンニは普段から少しの物音で起きてしまうのだと言った。
リビングの電気を点けてもネーロが起きる気配はない。
ジョバンニはそのままキッチンへと移動すると、ご飯を温め直してくれた。
「もしかして、僕が起きるのを待ってくれていたんですか?」
「初日から一人で食事なんて虚しいだろう? 俺は毎日食べる時間なんて決まっちゃいねーし、あんたの気にすることじゃないさ」
想像していた殺し屋とはまるでイメージとかけ離れていた。
こんな気遣いなど、ニルバーナではあり得ないことだった。
食事の時間、起床時間、就寝時間、そして種付けの時間。これはきっちりと決められていて、ガットの都合など尊重されたことはない。
温かいスープはルカの心も温めてくれた。
「美味しい」
「それは良かった」
優しい味付けは、ジョバンニの本当の人柄を表しているように思える。
それ以降は、食べ終えるまで二人とも無言だった。
「ゆっくり慣れていくといい」
突然ジョバンニは口を開いた。
「え?」
「街に来たのも初めてなんだろう?」
「はい。見たもの全てが刺激的で」
「今日……あぁ、もう昨日か。昨日見たのもなんてほんの一部分でしかない。世間はルカが思っている以上に広いぞ」
「頭が追いつきません」
「ははっ。今日のところは、またすぐに休むといい」
後片付けをしているジョバンニを見つめながら、またソファに横になる。
ネーロに触れないよう、膝は曲げた。
「ここで寝る気か? 風邪引くといけない。ベッドが一つしかないから、準備できるまでは同じベッドになってしまうが、ここよりは良く眠れるだろう」
ジョバンニはルカを抱き上げた。
「ひっ」
他人からこんな扱いを受けるなど、もちろん初めての経験だ。
逞しい腕と胸にドキリと心臓が跳ね上がる。
ジョバンニは「しっ、ネーロが起きちまう」と囁き、そのまま寝室へと移動した。
「体温が低いのはあんた達の特徴なのか?」
ルカの体が冷たいのをジョバンニは驚いた。
「みんなそうなのかは分からないです。ジョバンニさんから言われるまで、僕もこれが普通だと思っていましたから」
「そうか、俺は暑がりだから丁度いいけどな」
ベッドに横になると、ルカを包み込んだまま目を閉じた。
ルカはジョバンニが何故こんな風に自分を扱うのかと頭が混乱してしまう。
ジョバンニの分厚い胸に顔を押し当てられ、不覚にもドキリとしてしまった。
ジョバンニの体格はクロウとよく似ている。
けれどもクロウの体温など、感じた記憶はない。気にしたこともない。
今、こんなにもジョバンニを意識しているのは、自分が変なのかとも考える。
もしかすると、人間はみんな誰かと引っ付いて眠るのだろうか。
「さっき、夢を見たんです」
落ち着かなくて、ルカの方から話しかけた。ジョバンニは「そうか」と呟く。
「殆ど初めてでした。夢を見るなんて。本当にアクリスに会ったと思い込んでいました。でも目が覚めたらアクリスはいなくて……。これが夢だと知ってしまいました」
ジョバンニは、ルカを抱きしめる腕にさらに力を込める。
右手が頭を撫でていた。優しくてふわりと触れる手付きはアクリスと良く似ている。
ジョバンニは直ぐに寝息を立て始めた。寝つきは相当いいらしい。
自分が眠っていたことにも気付いていなかった。こんな熟睡できたのはいつぶりだろうか。
ジョバンニがかけてくれていたブランケットは柔らかくて気持ちいい。そして、足元ではネーロが丸くなって眠っている。
これには驚いて声をあげそうになったが、なんとか両手で口を押さえて耐えた。
そっと脚を曲げ、距離を取る。
ソファの端に寄って、ルカは行き場を失い膝を抱えた。
ジョバンニの姿が見えない。テーブルにはメモが置かれている。
『奥の部屋で寝ている。目が覚めたら、いつでも起こしてくれ』
時計を見ると日付も変わった一時過ぎ。
どうしようかと悩んだが、空腹には耐えられず静かに奥の部屋を覗きに行く。
ゆっくりとドアを開けたのに、ジョバンニはその僅かな音で目を覚ました。
「良く眠れたか?」
「はい。あの……、起こしてしまって……」
「構わない。そうしてくれと頼んだのは俺だ。食事にしよう」
ジョバンニは普段から少しの物音で起きてしまうのだと言った。
リビングの電気を点けてもネーロが起きる気配はない。
ジョバンニはそのままキッチンへと移動すると、ご飯を温め直してくれた。
「もしかして、僕が起きるのを待ってくれていたんですか?」
「初日から一人で食事なんて虚しいだろう? 俺は毎日食べる時間なんて決まっちゃいねーし、あんたの気にすることじゃないさ」
想像していた殺し屋とはまるでイメージとかけ離れていた。
こんな気遣いなど、ニルバーナではあり得ないことだった。
食事の時間、起床時間、就寝時間、そして種付けの時間。これはきっちりと決められていて、ガットの都合など尊重されたことはない。
温かいスープはルカの心も温めてくれた。
「美味しい」
「それは良かった」
優しい味付けは、ジョバンニの本当の人柄を表しているように思える。
それ以降は、食べ終えるまで二人とも無言だった。
「ゆっくり慣れていくといい」
突然ジョバンニは口を開いた。
「え?」
「街に来たのも初めてなんだろう?」
「はい。見たもの全てが刺激的で」
「今日……あぁ、もう昨日か。昨日見たのもなんてほんの一部分でしかない。世間はルカが思っている以上に広いぞ」
「頭が追いつきません」
「ははっ。今日のところは、またすぐに休むといい」
後片付けをしているジョバンニを見つめながら、またソファに横になる。
ネーロに触れないよう、膝は曲げた。
「ここで寝る気か? 風邪引くといけない。ベッドが一つしかないから、準備できるまでは同じベッドになってしまうが、ここよりは良く眠れるだろう」
ジョバンニはルカを抱き上げた。
「ひっ」
他人からこんな扱いを受けるなど、もちろん初めての経験だ。
逞しい腕と胸にドキリと心臓が跳ね上がる。
ジョバンニは「しっ、ネーロが起きちまう」と囁き、そのまま寝室へと移動した。
「体温が低いのはあんた達の特徴なのか?」
ルカの体が冷たいのをジョバンニは驚いた。
「みんなそうなのかは分からないです。ジョバンニさんから言われるまで、僕もこれが普通だと思っていましたから」
「そうか、俺は暑がりだから丁度いいけどな」
ベッドに横になると、ルカを包み込んだまま目を閉じた。
ルカはジョバンニが何故こんな風に自分を扱うのかと頭が混乱してしまう。
ジョバンニの分厚い胸に顔を押し当てられ、不覚にもドキリとしてしまった。
ジョバンニの体格はクロウとよく似ている。
けれどもクロウの体温など、感じた記憶はない。気にしたこともない。
今、こんなにもジョバンニを意識しているのは、自分が変なのかとも考える。
もしかすると、人間はみんな誰かと引っ付いて眠るのだろうか。
「さっき、夢を見たんです」
落ち着かなくて、ルカの方から話しかけた。ジョバンニは「そうか」と呟く。
「殆ど初めてでした。夢を見るなんて。本当にアクリスに会ったと思い込んでいました。でも目が覚めたらアクリスはいなくて……。これが夢だと知ってしまいました」
ジョバンニは、ルカを抱きしめる腕にさらに力を込める。
右手が頭を撫でていた。優しくてふわりと触れる手付きはアクリスと良く似ている。
ジョバンニは直ぐに寝息を立て始めた。寝つきは相当いいらしい。
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