【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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17、ジョバンニとの暮らし①

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 殺されると思っていた相手が助けてくれた。このまま素直に甘えていいのだろうか。
 答えはルカには判断のしようがない。
 しかし、アクリスがせっかく自分の命を救ってくれた。生きろと言ってくれた。
 ならばジョバンニを信じてみようと考えた。毛むくじゃらのネーロは苦手だけれど……。

 ジットリとネーロを観察する。向こうはルカを見向きもしない。
「ミャア」と言うだけで、言葉は発しない。
 それなのに、ジョバンニはネーロがなにを言っているのか理解しているらしい。
 見たこともない食べ物を与えていてさらに驚いた。ネーロはそれをガリガリと音を立てながら食べている。
 ルカは『ネーロは見た目も生態も得体の知れない変な生き物』と位置付けた。

 ここから自分の第二の人生が始まる。
 そう思うと少し身構えてしてしまうが、どこかワクワクする感覚を無視できない。
 心の中で、アクリスに感謝した。

「そういえば、夕食は何時ごろ食べていたんだ? そろそろ血液成分が必要なんだろう?」
「はい、もうそろそろかと……」
「いけねぇ。すぐに出してくる」
 ジョバンニは慌ててキッチンへと向かう。
 帰ってすぐに何かを片していたように見えていたのは、血液成分ドリンクだったのか。

「今度はなんか食えそうか?」
「はい。お腹空きました」
 ジョバンニはソファーで座って待っていろとルカに声をかけると、キッチンで料理を作り始める。
 ルカは血液成分のドリンクを飲み、ホッとため息を零した。

 チラチラとジョバンニを見ると、料理に集中しているようでルカの視線には気づいていない。
「そういえば、その血液成分のドリンクは定期的にアクリスから届くことになっている。安心しろ」
 フッと思い出したように目線だけでこっちを見た。
 そうしてまた直ぐに料理に集中してしまった。

 もっと話をしていたいと感じる。だが全ての料理を作り終えるまで、ジョバンニはルカに話しかけなかった。

 ルカはしばらくソファからジョバンニを眺めていたが、長時間の移動と初めてだらけの一日にカナリ体力を奪われていた。
 横たわると、自然と目を閉じる。

 アクリスの夢を見た。
 あの白い部屋で過ごしたアクリスとの時間は、いつまでも忘れたくない。
 アクリスには感謝してもしきれない。
 離れて暮らしていても、生涯、アクリスの顔を忘れないと誓う。

(アクリス、ありがとう。僕、生きてみるね)
 本人には届かない言葉を、夢の中のアクリスへと投げかけた。
 ルカをじっと見つめ、アクリスが笑ってくれる。
 もう、あの頃には戻れないけれど、与えられた時間を全うしなくてはならない。

 それは殺されるのを覚悟していたルカにとって、死より大変な覚悟であった。
 自分の未来など、今も想像できない。これからはアクリスに助けてもらうこともできない。今までどれだけアクリスを頼っていたかを自覚した。

 夢を見ながら、涙を流していた。
 それを拭ってくれたのはジョバンニだったが、ルカは気付かないまま眠っていた。
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