16 / 47
16、本当の名前⑤
しおりを挟む
アクリスは真実を知った時、クロウを責めたりはしなかった。
それでも、モルセーゴがいなくなったところで、クロウがルカを処分する計画を諦めるとは思えない。
ちょうど、ルカの代わりになるガットが育っていた。
アクリスはいっそ、ルカをニルバーナから離した方が安全かもしれないと考えた。
そこで、クロウに殺し屋を雇うのはどうか? と、話を持ちかける。
クロウは二つ返事で了承したそうだ。自分の手を煩わせることなくルカを処分できる。
アクリスからそれを提案してきたのは意外だと言いながら、後の全てをアクリスに委ねたのだという。
「俺の名前はその界隈じゃ有名だ。ジョバンニ・レアーノは本名。殺し屋のコードネームはフィオーレ。俺までたどり着くのに三人の仲介を経なくてはならない。依頼は本当にあんたを殺してくれだった」
殺してほしい人を連れて行くと言われたのは流石に初めてだったから、妙だとは思ったとジョバンニは言った。
それでも信用している仲介人を介している。
直接言われたなら、確実に断っていた案件だ。怪しすぎる。
アクリスとは何度も電話でやり取りをしていたと話していた。
どんなに断っても諦めてくれそうになかった。ジョバンニが根負けしたようなものだったと振り返る。
「しかし、実際あんたを連れてきたアクリスから言われたのは、金を倍払うからルカを生かしてくれだった。金もその時受け取った。余程、あんたが大切だったんだな」
ジョバンニはルカに視線を向けず、気持ちよさそうに眠っているネーロに愛おしい眼差しを送っている。
「生かした振りをして殺してしまえば、依頼金だけ受け取って自由に暮らせるのに」
つい本音が出てしまった。
クロウやモルセーゴなら、迷わずそうしただろう。いやらしく笑う二人の顔を思い出して気分が悪くなる。
「なんでだろうな……。別に嘘をついても良かったんだ。同居人なんて面倒なだけだし、アクリスから受け取った金があれば一生遊んで暮らせる。それでも……そうだな、ルカが想像以上に綺麗だったから……かもしれない」
「綺麗って!!」
また平気な顔で綺麗なんて言う。
ルカは頬を染め、手をギュッと握りしめた。
アクリスにだって、数えるくらいしか言われたことはない。
ジョバンニは立ち上がると棚に置いてある鞄の中からある物を取り出した。
「それは、なんですか?」
「カメラっていうんだ。俺の本業は写真家でね、これで美しいものを撮るのが仕事なんだよ」
「あっ……」
そうだ、と思い出した。
どこかで聞いたことのある名前だと思っていたのだ。
ラジオで喋っていた人だ。その瞬間、シャッターを切られてしまった。
「なに? 今なにが起こったの? 写真ってなに?」
「ほら、ここの画面を覗いてみろ」
ジョバンニが隣に座り、カメラの裏側を差し出すと、そこには驚いた顔の自分がいるではないか。
「うわっ!! なんでここに僕が……」
ルカが顔を歪めると、ジョバンニはまた声を出して笑った。
まったく陽気な殺し屋だ。
「あの袋を開けた時、妖精のようなあんたが視界に入ってきた。その瞬間、『撮りたい』って思ったんだ。本能でね」
「じゃあ、撮るのに飽きてから殺す?」
「そう言うなって。俺だっていつまでも殺し屋を続けるわけじゃない。予定外に大金が入ったしな。別にすぐにでも足を洗ったっていいんだ」
ジョバンニの飾らない態度は、ルカの緊張を解すためのように思えた。
初めて会ったのに、あっという間に緊張が解れたのも頷ける。
顔は全然似ていないが、アクリスに似た空気感が感じられるからかもしれない。
しかしジョバンニに世話になるなら、自分からも何か返さなくてはいけない。
ルカからも何かできないかと考えてはみたが、何も持たずに連れてこられたから荷物すらない。
それに、ジョバンニのような特技もない。
「あの、僕にできることって、これしかないですが……」
今までも性行のためにしか生きてこなかったルカは、服を脱ぎ始めた。
ジョバンニはそれを慌てて止めに入る。
「おい、待て。そんなことを望んでいるんじゃない。服を着てくれ」
「でも……僕を助けても、あなたにはなんの得もありません」
「損得の問題じゃないだろう。アクリスの熱意に感謝しろ」
長い髪を掬う。その手付きもアクリスのそっくりだ。
大きくて分厚い手に頬を擦り寄せる。
「あぁ、そうか。ルカはネーロとよく似ているかもしれないな」
掌にルカの頬を当て、微笑んだ。ルカはギョッとしてネーロを見る。
自分がこの毛むくじゃらに似ているだなんて信じられないと、思い切り顔に出してしまった。
「ははっ! そういうとこだ。あんたは意外なほど表情豊かで素直で見ていて飽きない。無口なのかと思ったが、よく喋るし。その辺の人間より、余程信用できる」
「人間は、使用できない?」
「そういえば、人間に会うのも俺が初めてか。本性をありのまま見せるやつなんていないと思え」
「……あなたも、人間」
「そこはあんたの判断に任せるよ」
親指だけで頬を撫でた。
それでも、モルセーゴがいなくなったところで、クロウがルカを処分する計画を諦めるとは思えない。
ちょうど、ルカの代わりになるガットが育っていた。
アクリスはいっそ、ルカをニルバーナから離した方が安全かもしれないと考えた。
そこで、クロウに殺し屋を雇うのはどうか? と、話を持ちかける。
クロウは二つ返事で了承したそうだ。自分の手を煩わせることなくルカを処分できる。
アクリスからそれを提案してきたのは意外だと言いながら、後の全てをアクリスに委ねたのだという。
「俺の名前はその界隈じゃ有名だ。ジョバンニ・レアーノは本名。殺し屋のコードネームはフィオーレ。俺までたどり着くのに三人の仲介を経なくてはならない。依頼は本当にあんたを殺してくれだった」
殺してほしい人を連れて行くと言われたのは流石に初めてだったから、妙だとは思ったとジョバンニは言った。
それでも信用している仲介人を介している。
直接言われたなら、確実に断っていた案件だ。怪しすぎる。
アクリスとは何度も電話でやり取りをしていたと話していた。
どんなに断っても諦めてくれそうになかった。ジョバンニが根負けしたようなものだったと振り返る。
「しかし、実際あんたを連れてきたアクリスから言われたのは、金を倍払うからルカを生かしてくれだった。金もその時受け取った。余程、あんたが大切だったんだな」
ジョバンニはルカに視線を向けず、気持ちよさそうに眠っているネーロに愛おしい眼差しを送っている。
「生かした振りをして殺してしまえば、依頼金だけ受け取って自由に暮らせるのに」
つい本音が出てしまった。
クロウやモルセーゴなら、迷わずそうしただろう。いやらしく笑う二人の顔を思い出して気分が悪くなる。
「なんでだろうな……。別に嘘をついても良かったんだ。同居人なんて面倒なだけだし、アクリスから受け取った金があれば一生遊んで暮らせる。それでも……そうだな、ルカが想像以上に綺麗だったから……かもしれない」
「綺麗って!!」
また平気な顔で綺麗なんて言う。
ルカは頬を染め、手をギュッと握りしめた。
アクリスにだって、数えるくらいしか言われたことはない。
ジョバンニは立ち上がると棚に置いてある鞄の中からある物を取り出した。
「それは、なんですか?」
「カメラっていうんだ。俺の本業は写真家でね、これで美しいものを撮るのが仕事なんだよ」
「あっ……」
そうだ、と思い出した。
どこかで聞いたことのある名前だと思っていたのだ。
ラジオで喋っていた人だ。その瞬間、シャッターを切られてしまった。
「なに? 今なにが起こったの? 写真ってなに?」
「ほら、ここの画面を覗いてみろ」
ジョバンニが隣に座り、カメラの裏側を差し出すと、そこには驚いた顔の自分がいるではないか。
「うわっ!! なんでここに僕が……」
ルカが顔を歪めると、ジョバンニはまた声を出して笑った。
まったく陽気な殺し屋だ。
「あの袋を開けた時、妖精のようなあんたが視界に入ってきた。その瞬間、『撮りたい』って思ったんだ。本能でね」
「じゃあ、撮るのに飽きてから殺す?」
「そう言うなって。俺だっていつまでも殺し屋を続けるわけじゃない。予定外に大金が入ったしな。別にすぐにでも足を洗ったっていいんだ」
ジョバンニの飾らない態度は、ルカの緊張を解すためのように思えた。
初めて会ったのに、あっという間に緊張が解れたのも頷ける。
顔は全然似ていないが、アクリスに似た空気感が感じられるからかもしれない。
しかしジョバンニに世話になるなら、自分からも何か返さなくてはいけない。
ルカからも何かできないかと考えてはみたが、何も持たずに連れてこられたから荷物すらない。
それに、ジョバンニのような特技もない。
「あの、僕にできることって、これしかないですが……」
今までも性行のためにしか生きてこなかったルカは、服を脱ぎ始めた。
ジョバンニはそれを慌てて止めに入る。
「おい、待て。そんなことを望んでいるんじゃない。服を着てくれ」
「でも……僕を助けても、あなたにはなんの得もありません」
「損得の問題じゃないだろう。アクリスの熱意に感謝しろ」
長い髪を掬う。その手付きもアクリスのそっくりだ。
大きくて分厚い手に頬を擦り寄せる。
「あぁ、そうか。ルカはネーロとよく似ているかもしれないな」
掌にルカの頬を当て、微笑んだ。ルカはギョッとしてネーロを見る。
自分がこの毛むくじゃらに似ているだなんて信じられないと、思い切り顔に出してしまった。
「ははっ! そういうとこだ。あんたは意外なほど表情豊かで素直で見ていて飽きない。無口なのかと思ったが、よく喋るし。その辺の人間より、余程信用できる」
「人間は、使用できない?」
「そういえば、人間に会うのも俺が初めてか。本性をありのまま見せるやつなんていないと思え」
「……あなたも、人間」
「そこはあんたの判断に任せるよ」
親指だけで頬を撫でた。
82
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる