【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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16、本当の名前⑤

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 アクリスは真実を知った時、クロウを責めたりはしなかった。
 それでも、モルセーゴがいなくなったところで、クロウがルカを処分する計画を諦めるとは思えない。

 ちょうど、ルカの代わりになるガットが育っていた。
 アクリスはいっそ、ルカをニルバーナから離した方が安全かもしれないと考えた。

 そこで、クロウに殺し屋を雇うのはどうか? と、話を持ちかける。
 クロウは二つ返事で了承したそうだ。自分の手を煩わせることなくルカを処分できる。
 アクリスからそれを提案してきたのは意外だと言いながら、後の全てをアクリスに委ねたのだという。

「俺の名前はその界隈じゃ有名だ。ジョバンニ・レアーノは本名。殺し屋のコードネームはフィオーレ。俺までたどり着くのに三人の仲介を経なくてはならない。依頼は本当にあんたを殺してくれだった」

 殺してほしい人を連れて行くと言われたのは流石に初めてだったから、妙だとは思ったとジョバンニは言った。
 それでも信用している仲介人を介している。
 直接言われたなら、確実に断っていた案件だ。怪しすぎる。

 アクリスとは何度も電話でやり取りをしていたと話していた。
 どんなに断っても諦めてくれそうになかった。ジョバンニが根負けしたようなものだったと振り返る。

「しかし、実際あんたを連れてきたアクリスから言われたのは、金を倍払うからルカを生かしてくれだった。金もその時受け取った。余程、あんたが大切だったんだな」
 ジョバンニはルカに視線を向けず、気持ちよさそうに眠っているネーロに愛おしい眼差しを送っている。

「生かした振りをして殺してしまえば、依頼金だけ受け取って自由に暮らせるのに」
 つい本音が出てしまった。
 クロウやモルセーゴなら、迷わずそうしただろう。いやらしく笑う二人の顔を思い出して気分が悪くなる。

「なんでだろうな……。別に嘘をついても良かったんだ。同居人なんて面倒なだけだし、アクリスから受け取った金があれば一生遊んで暮らせる。それでも……そうだな、ルカが想像以上に綺麗だったから……かもしれない」
「綺麗って!!」
 また平気な顔で綺麗なんて言う。
 ルカは頬を染め、手をギュッと握りしめた。
 アクリスにだって、数えるくらいしか言われたことはない。

 ジョバンニは立ち上がると棚に置いてある鞄の中からある物を取り出した。
「それは、なんですか?」
「カメラっていうんだ。俺の本業は写真家でね、これで美しいものを撮るのが仕事なんだよ」
「あっ……」
 そうだ、と思い出した。

 どこかで聞いたことのある名前だと思っていたのだ。
 ラジオで喋っていた人だ。その瞬間、シャッターを切られてしまった。
「なに? 今なにが起こったの? 写真ってなに?」
「ほら、ここの画面を覗いてみろ」
 ジョバンニが隣に座り、カメラの裏側を差し出すと、そこには驚いた顔の自分がいるではないか。
「うわっ!! なんでここに僕が……」
 ルカが顔を歪めると、ジョバンニはまた声を出して笑った。
 まったく陽気な殺し屋だ。

「あの袋を開けた時、妖精のようなあんたが視界に入ってきた。その瞬間、『撮りたい』って思ったんだ。本能でね」
「じゃあ、撮るのに飽きてから殺す?」
「そう言うなって。俺だっていつまでも殺し屋を続けるわけじゃない。予定外に大金が入ったしな。別にすぐにでも足を洗ったっていいんだ」
 ジョバンニの飾らない態度は、ルカの緊張を解すためのように思えた。
 初めて会ったのに、あっという間に緊張が解れたのも頷ける。
 顔は全然似ていないが、アクリスに似た空気感が感じられるからかもしれない。

 しかしジョバンニに世話になるなら、自分からも何か返さなくてはいけない。
 ルカからも何かできないかと考えてはみたが、何も持たずに連れてこられたから荷物すらない。
 それに、ジョバンニのような特技もない。
「あの、僕にできることって、これしかないですが……」
 今までも性行のためにしか生きてこなかったルカは、服を脱ぎ始めた。
 ジョバンニはそれを慌てて止めに入る。

「おい、待て。そんなことを望んでいるんじゃない。服を着てくれ」
「でも……僕を助けても、あなたにはなんの得もありません」
「損得の問題じゃないだろう。アクリスの熱意に感謝しろ」
 長い髪を掬う。その手付きもアクリスのそっくりだ。
 大きくて分厚い手に頬を擦り寄せる。

「あぁ、そうか。ルカはネーロとよく似ているかもしれないな」
 掌にルカの頬を当て、微笑んだ。ルカはギョッとしてネーロを見る。
 自分がこの毛むくじゃらに似ているだなんて信じられないと、思い切り顔に出してしまった。

「ははっ! そういうとこだ。あんたは意外なほど表情豊かで素直で見ていて飽きない。無口なのかと思ったが、よく喋るし。その辺の人間より、余程信用できる」
「人間は、使用できない?」
「そういえば、人間に会うのも俺が初めてか。本性をありのまま見せるやつなんていないと思え」
「……あなたも、人間」
「そこはあんたの判断に任せるよ」
 親指だけで頬を撫でた。
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