【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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14、本当の名前③

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 しかし、この人から殺されなかったとして、自室から出たことのない自分がどうやって一人で生きていけばいいのか。
 頭をフル回転させても、何一つアイデアもない。
 男はガットNo.一〇三の表情を見て、感情を読み取るのが上手かった。

「安心しろ。これからお前は、俺の家で住むんだ」
「あなたの、家で……?」
「そうだ。そういえば、名前を言ってなかったな。俺はジョバンニ。ジョバンニ・レアーノだ。そして、お前の本当の名前はルカ・モレッティ」
「僕は、ルカ……?」
「もう、部屋番号で呼ばれる生活は終わりだ。これからは“ルカ”として生きていくんだ。ほら、俺の家はもうすぐそこだ」

 大きな建物が並ぶ、その一つがジョバンニの住むマンションだった。
 この街の全てが珍しい。初めて目にするものばかりだ。
 道路を走り去る車も、自転車も、変な毛むくじゃらを引いて歩いている人も。
 必要以上にキョロキョロと辺りを見渡してしまう。

 ジョバンニに前だけを見ていろと、遂に注意されてしまう。
 それでもルカは困惑しながらも楽しくて仕方なかった。
 生涯見ることはないと諦めていた外の世界が、今、目の前に広がっているのだから。

 ジョバンニはマンション専用の駐車場に車を停めると、ついて来いと言ってドアを閉める。
 慌てて後ろから追いかけると、ジョバンニの部屋へと案内された。
 八階まで来るのに、ジョバンニはエレベーターをという乗り物を使い、その箱ごと引っ張り上げられているかのように、ルカとジョバンニを乗せて上階へと向かう。

 ルカがあまりにも驚くので、ジョバンニは思わず声を出して笑い始めた。
「本当に何も知らないんだな。その様子だと、部屋に入ったらもっと驚くかもしれない」
「へ、部屋に何か仕掛けがあるんですか?」
「それは、着いてからのお楽しみだ」
 ジョバンニは悪戯をする前の子供のような笑顔を見せた。

 エレベーターから降り、通路を一番奥まで進むと、そこがジョバンニの住まいだった。
 そっとドアを開けると、ジョバンニは足元に視線を落とす。
「ミャウ」
「へっ!? なに!?」
 咄嗟にジョバンニの背後に隠れる。
 生き物には違いないが、まるで馴染みのない形をしている。
 全身毛むくじゃらで、小さくて……。
 その謎の生物に向かってジョバンニはニッコリと微笑む。
 ルカはジョバンニの服を掴んで離さなかった。

「愛猫のネーロだ」
「ネコ? ねこは、なに?」
「猫も見たことないのか? 本物の箱入りだな」
 ジョバンニは猫のネーロを抱き上げる。
 綺麗なグレーの毛並みをした小さな顔を、ジョバンニの掌に擦り付けた。

 促されて奥の部屋へと移動する。
 通されたリビングは開放的で、観葉植物が至る所に置かれている。大きな窓から陽の光が部屋全体を照らす。
 これまで住んでいた真っ白の部屋とは比べ物にならないほど、温もりのある部屋だった。

「僕、自分の部屋から出たことがないんです」
「なるほど。アクリスからあんたが吸血族だって話は聞いたぜ」
「どこまで知ってるんですか?」

 ジョバンニはアクリスから聞いた、覚えている限りの情報を教えてくれた。
 吸血族がどのように生活しているのか、ガットが今何人いるのか、ルカを殺そうとしたが失敗したことまで。
 吸血族のルカでさえ知らない情報を、ジョバンニは沢山知っていた。
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