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13、本当の名前②
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「立ち上がれるか?」
その人はNo.一〇三の両脇に手を突っ込み、持ち上げた。
「うっ……」
急に体を縦にされたことで酷い目眩に襲われる。
あちこち打った身体も痛んだ。
「すまない」と、その人は小さな声で謝った。
強面から出される声と言葉でない。そのことにNo.一〇三は大いに驚いた。
男はトランクの縁に座らせると、辺りを見回した。
街の謙遜は向こうの通りから聞こえてくる。ここは大通りから入った人気のない駐車場だ。
男は血液成分のドリンクを手渡してきた。
「これがないと、生きられないんだろう? とりあえず飲め。それから飯を食いに行く」
「え? それって、どういう……」
「言いたいことがあるならハッキリ言え」
その男は僅かに苛立ちを見せた。
自分を見下ろしているだけで威圧感を感じ、余計に身構える。
しかし、これ以上怒らせないよう、今度はしっかりと目を見て尋ねた。
「僕は処分されるんじゃないんですか?」
「お前たちの組織からは処分されたんだろう? 悪いが、外では教えられない内容だ。これ以上は帰ってから説明する。俺も長時間の運転で腹が減ってるんだ。急いでくれ」
やはり男は、見た目よりも随分と柔らかい人柄のような気がした。
さっきまで顔色を失っていたガットNo.一〇三だったが、ドリンクを飲めるくらいには意識も精神的にも回復した。
しかし食欲は出ず、男が食べているのを隣に座って待っていた。
その間は、一言も喋らなかった。
どちらからも話そうともしない。それでも、初めて会ったばかりの人なのに妙に気まずくならなかった。
それどころか、隣にいてくれるだけで安心感さえも感じる。心がふわっと軽くなった気がした。
「僕を縛っておかなくて大丈夫なんですか?」
「その必要があるならそうしている」
「もし逃げたらどうするんです?」
「逃げたきゃ逃げればいい。こっちは面倒な依頼を引き受けちまったんだ。行く当てでもあるのか?」
そんな所があるはずもないと、長いまつ毛を伏せた。
男が食事を終えると、また車に戻り今度は助手席に座らされる。
「今度はどこに行くか、聞いてもいいですか?」
「俺の家だ」
この人の家に連れて行かれて、そして、その後どうなるのだ? なぜ、自分が見ず知らずの人の家に行かなければならないのか? もしかして、アクリスは人身売買を行ったのか? それで、多額の金が入っただろう。研究費用になる。
それが、ガットたちのためであってほしいが……。
「別に死にゃしないんだから、そんな暗い顔するな。美人が勿体無い」
「美人……ですか?」
「変わった目の色と髪の色をしているな。元々なのか?」
「そうです。生まれた時から色素が薄いのが特徴なんです」
「……アクリスって言ったかな。さっきの」
やはり、この人に自分を手渡したのはアクリスで間違いなかった。
最後の挨拶もしてくれなかったことが、はやり悲しい。
そう思ったのも束の間。男が意外なひと言を言いだした。
「アクリスから、お前を生かして欲しいと頼まれたんだ」
「アクリスが?」
「あぁ。本当はな、俺は殺し屋なんだ。最初の依頼では、お前を殺すはずだった。それが事態は百八十度変わった。どうにかお前を殺さないでくれと、そう言われたよ」
そのための依頼金もすでに支払われていた。
NIRVANAでいる限り、命を狙われ続ける。
アクリスは殺し屋に引き渡す振りをして、自分をクロウから逃したと男は言った。
その人はNo.一〇三の両脇に手を突っ込み、持ち上げた。
「うっ……」
急に体を縦にされたことで酷い目眩に襲われる。
あちこち打った身体も痛んだ。
「すまない」と、その人は小さな声で謝った。
強面から出される声と言葉でない。そのことにNo.一〇三は大いに驚いた。
男はトランクの縁に座らせると、辺りを見回した。
街の謙遜は向こうの通りから聞こえてくる。ここは大通りから入った人気のない駐車場だ。
男は血液成分のドリンクを手渡してきた。
「これがないと、生きられないんだろう? とりあえず飲め。それから飯を食いに行く」
「え? それって、どういう……」
「言いたいことがあるならハッキリ言え」
その男は僅かに苛立ちを見せた。
自分を見下ろしているだけで威圧感を感じ、余計に身構える。
しかし、これ以上怒らせないよう、今度はしっかりと目を見て尋ねた。
「僕は処分されるんじゃないんですか?」
「お前たちの組織からは処分されたんだろう? 悪いが、外では教えられない内容だ。これ以上は帰ってから説明する。俺も長時間の運転で腹が減ってるんだ。急いでくれ」
やはり男は、見た目よりも随分と柔らかい人柄のような気がした。
さっきまで顔色を失っていたガットNo.一〇三だったが、ドリンクを飲めるくらいには意識も精神的にも回復した。
しかし食欲は出ず、男が食べているのを隣に座って待っていた。
その間は、一言も喋らなかった。
どちらからも話そうともしない。それでも、初めて会ったばかりの人なのに妙に気まずくならなかった。
それどころか、隣にいてくれるだけで安心感さえも感じる。心がふわっと軽くなった気がした。
「僕を縛っておかなくて大丈夫なんですか?」
「その必要があるならそうしている」
「もし逃げたらどうするんです?」
「逃げたきゃ逃げればいい。こっちは面倒な依頼を引き受けちまったんだ。行く当てでもあるのか?」
そんな所があるはずもないと、長いまつ毛を伏せた。
男が食事を終えると、また車に戻り今度は助手席に座らされる。
「今度はどこに行くか、聞いてもいいですか?」
「俺の家だ」
この人の家に連れて行かれて、そして、その後どうなるのだ? なぜ、自分が見ず知らずの人の家に行かなければならないのか? もしかして、アクリスは人身売買を行ったのか? それで、多額の金が入っただろう。研究費用になる。
それが、ガットたちのためであってほしいが……。
「別に死にゃしないんだから、そんな暗い顔するな。美人が勿体無い」
「美人……ですか?」
「変わった目の色と髪の色をしているな。元々なのか?」
「そうです。生まれた時から色素が薄いのが特徴なんです」
「……アクリスって言ったかな。さっきの」
やはり、この人に自分を手渡したのはアクリスで間違いなかった。
最後の挨拶もしてくれなかったことが、はやり悲しい。
そう思ったのも束の間。男が意外なひと言を言いだした。
「アクリスから、お前を生かして欲しいと頼まれたんだ」
「アクリスが?」
「あぁ。本当はな、俺は殺し屋なんだ。最初の依頼では、お前を殺すはずだった。それが事態は百八十度変わった。どうにかお前を殺さないでくれと、そう言われたよ」
そのための依頼金もすでに支払われていた。
NIRVANAでいる限り、命を狙われ続ける。
アクリスは殺し屋に引き渡す振りをして、自分をクロウから逃したと男は言った。
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