12 / 47
12、本当の名前①
しおりを挟む
声を押し殺して一頻り泣いた。
あんなに優しかったアクリスも、所詮はクロウ達の仲間なのだと突きつけられたようなものだ。
落ち着かない時間だけが過ぎて行く。
目を覚ましてから、どのくらいの時間こうして運ばれているのだろうか。
もう、NIRVANAには戻れないほどの距離を進んでいるには違いない。
袋に入れられ転がされたまま揺れる車体に、体のあちこちをぶつけて痛かった。
後何分、何時間これが続くのか……。
小さく唸り声を上げながら、自分の終末の覚悟を決める。
アクリスが自分を処分しようとした。その事実だけで、この命を断つ十分な決意に繋がる。
優しい表情を思い出さないように意識するが、それは無理だった。
いつだってアクリスは微笑んでくれていた。優しい顔しか知らない。
それが全部嘘だったなんて……。目尻から頬へと伝う涙を拭うこともできない。
ようやく車が停まった頃に、自分の一生は終わる。
それでいい。本望だ。そう自分に言い聞かせた。
だが、ここで計算違いが起きた。
運転している人が車を降りてトランクを開けた。
瞬時に動かないよう細心の注意を払う。
何やら誰かと話し込んでいるようだった。聞き耳を立てても、ハッキリと聞き取れない。
だが、一人の声はアクリスのようだと思った。
薬を飲ませた後、ガットNo.一〇三を運んだのはアクリスだった。
仕方ないとは思いつつ、やはり現実を突き付けられるのはショックが大きい。アクリスだけは他の二人とは違うと思いたかった。
(泣くな。喚くな。どうせもう、終わりなのだから。これで未練もないだろう)
アクリスともう一人は長い時間話し込んでいた。
袋の外でガタンと何かを取り出す。固い素材の何かだ。それをそのまま渡したのだろう。
そして遂に、アクリスの顔を見ることなくガットNo.一〇三は袋に入れられたままの状態で、誰とも分からない人の手に渡った。
今度はその人の車のトランクにどさりと放り込まれた。まるで人の扱いではなかった。
それでも声を出してはいけない。気を失っているフリを続ける。
逃げ出そうとも思わなかった。流されるまま。それだけだ。
車はまたしても数時間走り続け、たどり着いたのは、なんとも五月蝿い場所だった。
トランクを開けると、その人は袋の口を広げる。
急に光が徐に差して眩しさに目を細めた。
目の前には見知らぬ男が覗き込んでいる。ダークブラウンのウェーブかかった長い髪を後ろで束ねた、彫りの深いブルーの瞳と目が合う。
「起きていたのか」
その男は聞こえるか、聞こえないかくらいの声で呟いた。
恐怖で何も返せない。かといって、視線も逸せない。
自分の心臓の音が体内で大きく響き渡っている。呼吸すら、まともに出来ないでいた。
あんなに優しかったアクリスも、所詮はクロウ達の仲間なのだと突きつけられたようなものだ。
落ち着かない時間だけが過ぎて行く。
目を覚ましてから、どのくらいの時間こうして運ばれているのだろうか。
もう、NIRVANAには戻れないほどの距離を進んでいるには違いない。
袋に入れられ転がされたまま揺れる車体に、体のあちこちをぶつけて痛かった。
後何分、何時間これが続くのか……。
小さく唸り声を上げながら、自分の終末の覚悟を決める。
アクリスが自分を処分しようとした。その事実だけで、この命を断つ十分な決意に繋がる。
優しい表情を思い出さないように意識するが、それは無理だった。
いつだってアクリスは微笑んでくれていた。優しい顔しか知らない。
それが全部嘘だったなんて……。目尻から頬へと伝う涙を拭うこともできない。
ようやく車が停まった頃に、自分の一生は終わる。
それでいい。本望だ。そう自分に言い聞かせた。
だが、ここで計算違いが起きた。
運転している人が車を降りてトランクを開けた。
瞬時に動かないよう細心の注意を払う。
何やら誰かと話し込んでいるようだった。聞き耳を立てても、ハッキリと聞き取れない。
だが、一人の声はアクリスのようだと思った。
薬を飲ませた後、ガットNo.一〇三を運んだのはアクリスだった。
仕方ないとは思いつつ、やはり現実を突き付けられるのはショックが大きい。アクリスだけは他の二人とは違うと思いたかった。
(泣くな。喚くな。どうせもう、終わりなのだから。これで未練もないだろう)
アクリスともう一人は長い時間話し込んでいた。
袋の外でガタンと何かを取り出す。固い素材の何かだ。それをそのまま渡したのだろう。
そして遂に、アクリスの顔を見ることなくガットNo.一〇三は袋に入れられたままの状態で、誰とも分からない人の手に渡った。
今度はその人の車のトランクにどさりと放り込まれた。まるで人の扱いではなかった。
それでも声を出してはいけない。気を失っているフリを続ける。
逃げ出そうとも思わなかった。流されるまま。それだけだ。
車はまたしても数時間走り続け、たどり着いたのは、なんとも五月蝿い場所だった。
トランクを開けると、その人は袋の口を広げる。
急に光が徐に差して眩しさに目を細めた。
目の前には見知らぬ男が覗き込んでいる。ダークブラウンのウェーブかかった長い髪を後ろで束ねた、彫りの深いブルーの瞳と目が合う。
「起きていたのか」
その男は聞こえるか、聞こえないかくらいの声で呟いた。
恐怖で何も返せない。かといって、視線も逸せない。
自分の心臓の音が体内で大きく響き渡っている。呼吸すら、まともに出来ないでいた。
69
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる