【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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9、裏切り③

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「一体お前は、いつまで生きているんだ!?」
 種付けのための性行前、入室したモルセーゴが声を荒げた。
 突然そんなことを怒鳴られても、何を言われているのか理解できない。
 ただ、普段声も出さないほど無口なモルセーゴが怒鳴ったことに驚きを隠せなかった。ビクンと身体が跳ねると、慌ててベッドと壁の隙間に身を縮めて隠れた。

 いつまで生きているんだと言われても、今まで死ねなど言われたこともない。
 自分を処分すると決めるのは、クロウたちの判断ではないのか? それをモルセーゴがどうしてこんなにも怒りを露わにしているのか、検討もつかない。

 そんなガットNo.一〇三に、モルセーゴは信じられない事実を叫んだ。
「お前の食事にずっと毒を持っているのに、何故まだ死なない? さっさと処分させてくれ!!」
 その言葉に瞠目とした。

 クロウとモルセーゴしか部屋に来なくなった理由は、自分を殺そうとしていたからなのか。
 しかし、いつから毒を盛られていたのだろう。
 そして、何故毒を盛られたのに自分は死なないのか。出された食事は全て食べていた。あのピリッとした感触は、毒が原因だったのかもしれない。
 けれども、ガットNo.一〇三はそんな事実すらも知らなかったのだから、避ける余地もなかったのだ。

 言い訳をしようにも、モルセーゴは全く話を聞き入れようとはしなかった。
 鼻息を荒げ、ガットNo.一〇三ににじり寄る。大男が迫り来る恐怖は気を失うほどであったが、奇跡的に体が反応した。
 伸びてきた腕を躱し、ベッドの向こう側へ身を翻す。自分にこんな反射神経があったことにも驚いたが、これはきっと神様が『生きろ』と言ってくれているように感じた。

 しかし満足している場合ではない。さらに怒り狂ったモルセーゴが迫ってくる。
 華奢なガットNo.一〇三の身体全てをモルセーゴの影が覆い尽くす。窮地に立たされ、あまりの恐怖に思考回路が停止した。

 そして次に自我を取り戻した時、モルセーゴの腕に牙を立てていたのだ。
 吸血族は本来、人の血を吸血する時、犬歯が伸びる。ガットは直接人間から吸血することはないため、こんなに牙が伸びるとは初めて知った。

 モルセーゴがあまりの痛みに唸り声を上げる。そしてガットNo.一〇三を振るい落とすべく、腕を力一杯振るった。
 噛みついた腕から流れた血が垂れる。
 ここで体を離せば、今度は自分がやられるとは簡単に想像できた。
 死に物狂いで喰らいつく。モルセーゴが暴れるほどに、牙は深く身を貫き、どうやら骨まで達したと感じられた。
 振り落とされそうになるが、必死に耐えた。
 そうしてモルセーゴは数分の間、悲鳴を上げながら喚き暴れたのち、今度はピタリと動かなくなった。

 ガットNo.一〇三は怖くなり、噛みついていた牙を離し、モルセーゴと距離を取る。

 うつ伏せに倒れたモルセーゴが顔だけをこちらに向け、目を全開にして睨みつけた。
 その黒目が震えている。力み過ぎたこめかみや首筋に浮き出た血管は、今にも破裂しそうになっている。

 ガットNo.一〇三も今ので体力の殆どを失った。次に襲われれば、もう成す術はないと息を切らしたが、モルセーゴは動けないまま盛大に吐き、白目を向いた。
 指先が痙攣していたが、それも直ぐに止まった。
 すると今度は、モルセーゴの足先から灰になって消えていく。

 見ているだけで、どうすることも出来ない。
(汚い)
 そんな感情しか生まれなかった。
 蹲ったまま、灰になっていくモルセーゴを最後まで見届けた。どの道、もう息絶えているが、死体も残らないのは吸血族の性なのか。
 それとも食べ続けていた毒の所為か。そんなことを考えながら、虚な視界で消えゆくモルセーゴを眺めた。
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