【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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7、裏切り①

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 それから数ヶ月。ガットNo.一〇三は子を孕まないまま、時間だけが過ぎていく。
 クロウの苛立ちは最高潮に達していた。日に日に当たりが強くなる。クロウが担当になった日は、無傷では終わらなくなっていた。

 モルセーゴは相変わらず何を考えているのか読めないが、以前にもまして性行のしつこさが増していた。
 この頃では一回では終わらず、二回、三回と達するまでやめてもらえない。
 ガットNo.一〇三は体力の限界を疾とうに超えている。

 アクリスが担当の日が減っているのは気のせいだろうか。まさか自分がアクリスに懐いているなど、クロウたちに分かる筈もない。
 きっと無意識的に、自分がアクリスを求めているのだろうと、深くため息を零した。

「———もう、やだ」
 泣いた所で、どうにもにもならないことは分かっている。涙などとっくに枯れていると思っていたが、案外出るもんだと自嘲した。
 アクリスに会いたい。せめて食事の時だけでも良いから、平穏な時間が欲しい。
 むしろ自分はもう孕まないからと、処分してくれた方が楽になれるかもしれない。
 そんな風に思うようにもなっている。

 食事も美味しいと感じなくなっていた。
 何か、舌先に酸味のような、ピリっとした感覚を覚える。もしかして、病気にでもかかったのだろうか。

 しかしこの頃は疲れ過ぎていて、体の異変などあり過ぎるほど感じている。
 例え味覚が狂ったのだとしても、不思議には思わない。
 生活に必要な最低限の動き以外は、殆どをベッドの上で過ごしていた。

 必要以上に清潔を保っている真っ白い部屋は、ガットNo.一〇三の気を狂いそうにさせた。
 いつの間にか、ラジオさえ聴かなくなっていた。日々の中に楽しみが見出せない。

 体重は落ち、元々細かった頬がさらに痩けている。あのクロウが唯一褒めてくれていた顔であったが、それも今では何も触れられなくなっていた。
 
 アクリスに会いたいという願いは、今日も叶えられないまま過ぎていく。モルセーゴの運んできたスープを一口啜る。やはり変な味しかしない。手を下げ、食べることさえ諦めてしまった。

「———食え」
 ボソッとモルセーゴが呟く。
 この男の声など、記憶にないくらい聞いたことがない。
 ガットNo.一〇三は、思わず顔を上げてモルセーゴを見た。
 ほぼ真上から見下ろすように威圧的な視線を送っているのに気付き、反射的に下を向く。

 モルセーゴが食事の心配をするなんて初めてのことだ。滅多なことでは喋りもしない。
 急にどうしたんだと、混乱する。
 めっきり食欲がなくなり、痩せていくNo.一〇三を可哀想に思ってくれたのか。何にせよ、意外な言葉に驚いたのは間違いない。

 これを素直に喜んで良いのだろうか。しかし、ここで捻くれるのはいけないと思い直し、もう一口スープを飲んだ。

 考えてみれば、食事の時間にモルセーゴが側にいること自体、ここ最近のことだ。
 頭の中では信じたい気持ちと疑う気持ちが渦巻いている。

 しかし、ふっと自分の口元が緩んでいることに気が付いた。
 そうか、自分はモルセーゴから心配されて喜んでいるのだ。
 得体の知れない人であるが、実は気にかけてくれていたのかも知れない。そう思うと、今までの嫌な気持ちも少しは和らいだ。

 味覚に変わりはないが、それでもせっかく心配してくれているのだからと、スープを残さず食べた。モルセーゴは完食したのを確認すると、少しの間様子を伺うように突っ立っていた。

 ガットNo.一〇三は不思議に思い再び顔を上げる。
 今度はモルセーゴが僅かに首を傾げている。
「あの……何か?」
「何も、感じないのか?」
「何を感じれば正解なんですか?」
「———何もないのなら、良い」
 それだけ言うと、モルセーゴは退室した。

 全くわけが分からない。腐った原料でも使っていたのだろうか?
 しばらく考えていたが、やはり正解は見出せなかった。
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