7 / 47
7、裏切り①
しおりを挟む
それから数ヶ月。ガットNo.一〇三は子を孕まないまま、時間だけが過ぎていく。
クロウの苛立ちは最高潮に達していた。日に日に当たりが強くなる。クロウが担当になった日は、無傷では終わらなくなっていた。
モルセーゴは相変わらず何を考えているのか読めないが、以前にもまして性行のしつこさが増していた。
この頃では一回では終わらず、二回、三回と達するまでやめてもらえない。
ガットNo.一〇三は体力の限界を疾とうに超えている。
アクリスが担当の日が減っているのは気のせいだろうか。まさか自分がアクリスに懐いているなど、クロウたちに分かる筈もない。
きっと無意識的に、自分がアクリスを求めているのだろうと、深くため息を零した。
「———もう、やだ」
泣いた所で、どうにもにもならないことは分かっている。涙などとっくに枯れていると思っていたが、案外出るもんだと自嘲した。
アクリスに会いたい。せめて食事の時だけでも良いから、平穏な時間が欲しい。
むしろ自分はもう孕まないからと、処分してくれた方が楽になれるかもしれない。
そんな風に思うようにもなっている。
食事も美味しいと感じなくなっていた。
何か、舌先に酸味のような、ピリっとした感覚を覚える。もしかして、病気にでもかかったのだろうか。
しかしこの頃は疲れ過ぎていて、体の異変などあり過ぎるほど感じている。
例え味覚が狂ったのだとしても、不思議には思わない。
生活に必要な最低限の動き以外は、殆どをベッドの上で過ごしていた。
必要以上に清潔を保っている真っ白い部屋は、ガットNo.一〇三の気を狂いそうにさせた。
いつの間にか、ラジオさえ聴かなくなっていた。日々の中に楽しみが見出せない。
体重は落ち、元々細かった頬がさらに痩けている。あのクロウが唯一褒めてくれていた顔であったが、それも今では何も触れられなくなっていた。
アクリスに会いたいという願いは、今日も叶えられないまま過ぎていく。モルセーゴの運んできたスープを一口啜る。やはり変な味しかしない。手を下げ、食べることさえ諦めてしまった。
「———食え」
ボソッとモルセーゴが呟く。
この男の声など、記憶にないくらい聞いたことがない。
ガットNo.一〇三は、思わず顔を上げてモルセーゴを見た。
ほぼ真上から見下ろすように威圧的な視線を送っているのに気付き、反射的に下を向く。
モルセーゴが食事の心配をするなんて初めてのことだ。滅多なことでは喋りもしない。
急にどうしたんだと、混乱する。
めっきり食欲がなくなり、痩せていくNo.一〇三を可哀想に思ってくれたのか。何にせよ、意外な言葉に驚いたのは間違いない。
これを素直に喜んで良いのだろうか。しかし、ここで捻くれるのはいけないと思い直し、もう一口スープを飲んだ。
考えてみれば、食事の時間にモルセーゴが側にいること自体、ここ最近のことだ。
頭の中では信じたい気持ちと疑う気持ちが渦巻いている。
しかし、ふっと自分の口元が緩んでいることに気が付いた。
そうか、自分はモルセーゴから心配されて喜んでいるのだ。
得体の知れない人であるが、実は気にかけてくれていたのかも知れない。そう思うと、今までの嫌な気持ちも少しは和らいだ。
味覚に変わりはないが、それでもせっかく心配してくれているのだからと、スープを残さず食べた。モルセーゴは完食したのを確認すると、少しの間様子を伺うように突っ立っていた。
ガットNo.一〇三は不思議に思い再び顔を上げる。
今度はモルセーゴが僅かに首を傾げている。
「あの……何か?」
「何も、感じないのか?」
「何を感じれば正解なんですか?」
「———何もないのなら、良い」
それだけ言うと、モルセーゴは退室した。
全くわけが分からない。腐った原料でも使っていたのだろうか?
しばらく考えていたが、やはり正解は見出せなかった。
クロウの苛立ちは最高潮に達していた。日に日に当たりが強くなる。クロウが担当になった日は、無傷では終わらなくなっていた。
モルセーゴは相変わらず何を考えているのか読めないが、以前にもまして性行のしつこさが増していた。
この頃では一回では終わらず、二回、三回と達するまでやめてもらえない。
ガットNo.一〇三は体力の限界を疾とうに超えている。
アクリスが担当の日が減っているのは気のせいだろうか。まさか自分がアクリスに懐いているなど、クロウたちに分かる筈もない。
きっと無意識的に、自分がアクリスを求めているのだろうと、深くため息を零した。
「———もう、やだ」
泣いた所で、どうにもにもならないことは分かっている。涙などとっくに枯れていると思っていたが、案外出るもんだと自嘲した。
アクリスに会いたい。せめて食事の時だけでも良いから、平穏な時間が欲しい。
むしろ自分はもう孕まないからと、処分してくれた方が楽になれるかもしれない。
そんな風に思うようにもなっている。
食事も美味しいと感じなくなっていた。
何か、舌先に酸味のような、ピリっとした感覚を覚える。もしかして、病気にでもかかったのだろうか。
しかしこの頃は疲れ過ぎていて、体の異変などあり過ぎるほど感じている。
例え味覚が狂ったのだとしても、不思議には思わない。
生活に必要な最低限の動き以外は、殆どをベッドの上で過ごしていた。
必要以上に清潔を保っている真っ白い部屋は、ガットNo.一〇三の気を狂いそうにさせた。
いつの間にか、ラジオさえ聴かなくなっていた。日々の中に楽しみが見出せない。
体重は落ち、元々細かった頬がさらに痩けている。あのクロウが唯一褒めてくれていた顔であったが、それも今では何も触れられなくなっていた。
アクリスに会いたいという願いは、今日も叶えられないまま過ぎていく。モルセーゴの運んできたスープを一口啜る。やはり変な味しかしない。手を下げ、食べることさえ諦めてしまった。
「———食え」
ボソッとモルセーゴが呟く。
この男の声など、記憶にないくらい聞いたことがない。
ガットNo.一〇三は、思わず顔を上げてモルセーゴを見た。
ほぼ真上から見下ろすように威圧的な視線を送っているのに気付き、反射的に下を向く。
モルセーゴが食事の心配をするなんて初めてのことだ。滅多なことでは喋りもしない。
急にどうしたんだと、混乱する。
めっきり食欲がなくなり、痩せていくNo.一〇三を可哀想に思ってくれたのか。何にせよ、意外な言葉に驚いたのは間違いない。
これを素直に喜んで良いのだろうか。しかし、ここで捻くれるのはいけないと思い直し、もう一口スープを飲んだ。
考えてみれば、食事の時間にモルセーゴが側にいること自体、ここ最近のことだ。
頭の中では信じたい気持ちと疑う気持ちが渦巻いている。
しかし、ふっと自分の口元が緩んでいることに気が付いた。
そうか、自分はモルセーゴから心配されて喜んでいるのだ。
得体の知れない人であるが、実は気にかけてくれていたのかも知れない。そう思うと、今までの嫌な気持ちも少しは和らいだ。
味覚に変わりはないが、それでもせっかく心配してくれているのだからと、スープを残さず食べた。モルセーゴは完食したのを確認すると、少しの間様子を伺うように突っ立っていた。
ガットNo.一〇三は不思議に思い再び顔を上げる。
今度はモルセーゴが僅かに首を傾げている。
「あの……何か?」
「何も、感じないのか?」
「何を感じれば正解なんですか?」
「———何もないのなら、良い」
それだけ言うと、モルセーゴは退室した。
全くわけが分からない。腐った原料でも使っていたのだろうか?
しばらく考えていたが、やはり正解は見出せなかった。
77
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる