【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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5、吸血族の製造機④

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 翌朝はアクリスが朝食を運んできた。
 グレーヘアーに、品のいい顔立ち。背はそれほど高くはないが、それでもNo.一〇三の視線は上がる。
 クロウのような威圧感は微塵も感じない。
 アクリスから漂うオーラは陽だまりのように温かい。

 トレーの上には、パンと温かいミルク。そして、吸血族には欠かせない、人間の血液成分のドリンク。
 これがあるから、ガットたちは直接人間から吸血せずとも生きていける。

 アクリスと向き合う形で座ると、No.一〇三は小さな口でパンを少しずつ食していく。その間、アクリスは他愛無い話をしていた。

 三人の中でもとりわけこの男だけは、人情味のある人柄であった。きっと親子ほどの歳の差だろうが、No.一〇三と対等に向き合ってくれるし、いつも穏やかで声を荒げたりもしない。

 他の二人は食事に同席などしたことはないが、アクリスだけはNo.一〇三の前に座り、食べ終わるまでダラダラと喋っていた。

「ゆっくり食べればいい。別に急がしてるわけじゃない」
「はい」
「昨日は良く眠れたかい?」
 No.一〇三はこくりと頷く。
「そうか、それは良かった」
 満足そうに、アクリスは微笑んだ。

 種付け役なのに変な人だと思いながらも、この時間が嫌なわけはない。クロウやモルセーゴと一緒の時間は拷問でしかないが、このアクリスがいるからこそ、辛い業務も我慢ができていると言える。

 朝食を終えるとアクリスは「また、後で……」と言ってトレイを下げた。

 ということは、今日の種付け役はアクリスということになる。No.一〇三は、自然と顔が綻んだ。

 アクリスは行為も優しい。体を労ってくれるし、丁寧に扱ってくれる。毎日アクリスが来てくれれば、もっと頑張れるかもしれない。そう思うくらいに、アクリスを慕っている。

 そしてこの日の種付けは何一つのストレスもなく終了した。

「これで孕んでくれればいいのですが……」
「別に、気にしなくていい。ストレスは体に悪いからね」
「でも……」
「何か楽しいことでも考えればいい。疲れただろう? ゆっくり休みなさい」

 アクリスは、タオルで身体を綺麗に拭いてくれる。こんなことは、後の二人は絶対にしない。

 そして、着ていた上着のポケットから、セルビナス街で流行っているらしいと言って、焼き菓子を渡してくれた。
「他の二人には内緒だからね」なんて、こっそりイタズラをした子供のように、人差し指を立ててウインクをした。ガットNo.一〇三は、アクリスと目が合うと、クスリと笑い、ありがとうと伝えた。

 このサラサラの髪を撫でるのが好きだと、アクリスが以前に言っていたことがあった。
 全体的に色素の薄いNo.一〇三は、髪の毛も淡いブルーのような、明るいグレーのような色をしている。
 肩甲骨の下の辺りまで伸ばしているのは、実はアクリスからのリクエストによるものだった。
 アクリスはその髪を手で掬い、口付けた。
 そうして頭をくしゃくしゃに撫でると、退室した。

 アクリスの背中を見送る。
 ベッドの上からドアが閉じた音を聞くと、そのままシーツの上に横たわる。アクリスとの時間は実に心地よい。

 これが恋というものの実態なのだろうか。それなら自分が思っていたのとは、また別物のような気がした。
 っというのも、No.一〇三が抱えるアクリスへの想いは、楽しいけど苦しい、悩ましい……というものではない。

 例えるならば、自分を包み込んでくれる温かいお日様のような存在なのだ。そこにネガティブな要素は何一つ含まれてはいない。

(恋って難しいものなのかもしれない)
 仰向けになると真っ白な天井を見つめる。
「恋、してみたいな……」
 無意識に言葉に出していた。けれども、恋をするにも相手と出会いがないことには始まらないと落胆した。
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