【完結】子孫を残せない無能の吸血鬼は助けてくれた殺し屋に恋をする

亜沙美多郎

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4、吸血族の製造機③

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 ガットの一日はセックス。これが全てだ。
 その前も後も、特に何もすることはない。

 シャワーを終えると、ベッドのシーツを取り換え、ずっしりと身を沈めた。もう動きたくない。何も食べたくもない。強いて言うなら、血が欲しい。時計を見ても、まだ次の食事まで時間があった。

 項垂れるように体を丸め、目を閉じて心を無にする。

 頭の中からクロウを排除する。
 優しくしてほしいとは言わない。しかし、もう少し同じ種族仲間として扱ってくれてもいいじゃないかと思ってしまう。

 こんなことを考えているガットは自分だけなのだろうか。クロウたちとしか顔を合わせないため、何も分からない。この部屋の外のことは何一つ……。

 ガットNo.一〇三は、部屋でラジオを聴くのが唯一の楽しみであった。こっそりとアクリスが持たせてくれたものである。

 夕食の後は、次の日まで誰かが部屋を訪ねてくることもない。そうなると、ずっとラジオを聴いて過ごした。

 音楽はどんなジャンルでも好きだった。
 DJの軽快なトークは暗い気分を丸めて吹き飛ばしてくれるような気がした。
 リスナーからの手紙は、どれも興味深い内容であった。一番多いのが、恋の相談だ。

 ガットNo.一〇三は恋というものがどんなものなのか、全く想像もつかない。
 恋をするとどんな気持ちになるのだろう。ラジオの相談を聴いていると、どの人も悩んでいるのに楽しそうだから不思議なのだ。

 この部屋の外側で、たくさんの人が恋をしている。そこはとても楽しそうな場所なんだろうと思いを馳せた。
 自分が生涯見ることのない世界。ラジオはそれを教えてくれる。

『本日はゲストの方に来ていただいています。写真家のジョバンニ・レオーネさんです』
『よろしくお願いします』
『ジョバンニさんは先日、独立十周年記念の写真集を出されましたよね。風景を撮ってらっしゃるイメージですが、今回は動物の写真がメインです。何か心境の変化でもあったのですか?』
『去年、猫を飼い始めたんです。今まで一人で暮らしていましたが、猫の奔放さに惹かれてしまいまして。それからいろんな動物を見てみたいと思ったのがキッカケです』
『猫ちゃん、可愛いですよね。早く帰って会いたいんじゃないですか?』
『そうですね。家でいるときはずっと愛猫の写真を撮っています』
『猫ちゃんへの愛を感じます』

「———愛か」
 寝転んだままラジオに背を向け、体を丸めた。
 愛、恋……。自分には縁のない感情。

 この人が撮った写真はどんなだろう。それを見れば、愛や恋が何か分かるのだろうか。
 ラジオを聴きながら、考えているうちに眠りについた。

 夢は見なかった。目を閉じた世界には、暗闇しか存在しない。
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